映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

渡辺一貴 監督「岸辺露伴ルーヴルへ行く」3769本目

「世界で最も黒い黒」って、実際に追求している人たちがいるのだ。むかし三鷹光器という会社を取材したとき、スペースシャトルに搭載する望遠鏡の内側に、彼らが開発した、炭を使った塗料を塗ると、完全な漆黒に近い闇を作ることができて、宇宙の光をもれなくキャッチできる・・・か何か。でもそれと、心底おそろしい「サトゥリヌス」などを含むゴヤの「黒い絵」や中野京子「怖い絵」を連想させる絵画を結び付けたのが新鮮。ジョジョはほとんど読んだことないけど、面白い感覚の人だなぁ。

ぼーっとテレビを見てたら「動かない」シリーズ9作目をやっててちょっと気になったので、まずこれを見てみます。(ドラマの他の回も見てみよう)

NHKドラマ→映画化。ルーヴル。荒木飛呂彦。なんかつながってくるな。この人NHKの「日曜美術館」に何度も出てるんですよ。よっぽど美術好きなのかと思ってたけど、このシリーズでも関係性があったんだな。NHKは4Kでルーヴルの内部を撮ったりして以前から縁があるので、やりやすかったんじゃないだろうか。

そしてこの映画は、「スパイの妻」と同様、まずNHK(4K)で先行放送してからの劇場公開か。そうするとこれはNHK番組の二次使用(多分同一ではなくほんの少しどこか変えてある)という形で二次使用料が入るし、そもそも製作委員会にエンタメ系の関連団体「NHKエンタープライズ」が入っていて実質そこが映画版も製作しているので、この作品ではだいぶ副次収入が上がっただろうな。このお金は、不払いも多い受信料を補って番組制作の原資になるし、TVドラマのままではいくら面白いものを作っても海外で見てくれる層が薄いので、このやり方は私は賛成です。

さて,、中身の話。ドラマ9話、毒ばっかり食べさすイタリアンやアワビ密漁の話はなかなかテンポよくて面白かったけど、この映画はちょっと間が多いですね。ちゃんと(いい意味で)おおげさな演出なんだけど、なぜかTV版より没入感がうすい・・・。題材のせいもあるだろうけど、うちのテレビは全体的に画面が暗くて細部が良く見えないのだ・・・。テーマは面白いけど、毒料理のほうがエンタメ性高かったかな。

ドラマシリーズも見てみます。

 

ブレント・ウィルソン 監督「ブライアン・ウィルソン/約束の旅路」3768本目

これまだ見てなかった。ビーチ・ボーイズの「グッド・ヴァイブレーション」は、ポップ・ミュージック歴代名曲ベストテンに入るくらいの名曲だと思ってます。短い曲のなかに、理屈でなく感覚だけに訴える緩急が詰め込まれていて、今でも聴くたびに鳥肌が立つ。ブライアン・ウィルソンはまさに天才だと思う。映画はこの曲から始まります。

ポップさで同様にベストテンに入りそうな「カリフォルニア・ガールズ」なんて、エディ・ヴァン・ヘイレンだって歌ったしレニングラード・カウボーイズ+ソビエト赤軍合唱団も歌ったくらいで、この映画のブルース・スプリングスティーンの言葉では「彼がカリフォルニアを再定義した」ことであの曲が明るく楽しいアメリカの象徴となったのは事実。多幸感があって、曲が終わるまでの時間が天国みたいに思える。冒頭がウエスタンだと本人がこの映画で言っているのを聞いて初めて、全くその通りだと気づきました。イントロだけ聞くと、駅馬車がゆるゆると走ってきそう。

最初に聞いたとき、なんて音程のいい人たちだ、ということと、複雑なコードを使った和音の美しさに驚いた。この映画では、ブライアンの人生の苦難だけじゃなくて、音楽的に何がどうすごいのか、彼が今いかに幸せに音楽をやり続けているか、も語ってくれているのが、すごくいい。悲しく切ないドキュメンタリーじゃない。

ビーチ・ボーイズを聴いていると、遠くなった自分の青春を思って泣ける、と語った人もいた。それもわかるな。小さい頃憧れたけど結局実現しなかった、素敵なビーチの夏・・・なんていうのも、ある意味遠くて泣ける。ほんとに、この人がこの世に生まれてきて、マジックの込められた楽曲をたくさん作ってくれて、今もやり続けてくれてありがとう、と語る人たちに私も加わりたいです。ブラボーでした。

 

クレベール・メンドンサ・フィリオ監督「バクラウ」3767本目

なかなかスリリングで、暴力描写は唐突だったり残酷だったりもするんだけど、見終わると納得感もあるなかなかの佳作だったと思います。なんか、ジョーダン・ピール監督の「NOPE」を思い出しました。全体的にすごく、欧米による支配による長年の痛みをこの映画で少しでも発散したい、というベクトルが共通してるようで。

監督を含む彼ら自身は、攻撃してくる者たちには激しく反撃するけど、正面切って訪ねてくる者に対しては、あくまでもフラットに、どんな目に遭っても美味しいご飯を出す。毒など入れていないし、背後から襲ったりもしない。最後の仕打ちも、残酷ではあるけど、自分たちで手を下すというより、天に判断を任せる。自分たちはそういう者たちなのだ、という主張がこの映画にある。

そしてこの映画で特筆すべきなのは、地元の有力者たちが、欧米の力を利用して、自分たちの得になるように、地元の一般の人々を平気で蹂躙するという構造。これがアフリカ大陸や南米大陸で、欧米の罪悪感を減らして、国内政治を不安定にして、力をもたない一般の人たちを苦しめてきたのは事実だと思う。

当事者に共感する他者ではなく、当事者自身による作品ってすごく重要で、これからも見ていたいと思います。

 

ヴァルディミール・ヨハンソン監督「LAMB」3766本目

羊ちゃん可愛かったけど、「ひつじこども」だった。日本のアニメなら違和感ないけど、ヨーロッパの実写映画なので、家畜に服を着せて子どもとして暮らしてることはかなり違和感があって、ムズムズします。でもこれって、設定を変えれば、たとえば先住民の子どもをさらってきて勝手に自分ちの子として育ててるようでもあります。女が先住民の女、あるいはメスの羊を銃殺することと、羊男が男を銃殺することに、命の重さの違いはありません。

自分の子どもがいなくて他の子どもを育てる、という点では「八月の蝉」に似た部分もあるような。

映画のことを考えていたら、昨夜も飼い猫が布団に入ってきて、男とひつじこどものように仲良く寝ながら、本来はこいつも同種の生き物で集まって暮らした方が自然なんだろうな、でも捨て猫ひきとるとき「家の外に出しません」って誓約書書かされるし…など考えていました。なにが正しくてなにが問題なのか…複雑な気持ちになるのでした。

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山口淳太監督「ドロステのはてで僕ら」3765本目

「リバー、流れないでよ」が面白かったので、前作も見てみました。

最初すごく戸惑った!なんで、いつこの主人公は2分間の仕組みを知ったのか?・・・謎は謎のまま、とにかく映画は進んでいきます。この映画でも、藤谷理子のふつうすぎる自然な演技で、「ああそうなのか」と引き込まれる効果が強いです。あと私が気になって仕方ないのは酒井善史・・・彼が私にはモンティ・パイソンのマイケル・ペイリンに見える。愛想のいい好青年ふうを装ったイカレポンチ、的な存在感でつい注目してしまいます。

「リバー」同様この映画も、アトラクションに乗ったら最後まで笑いながら転がされる感じがすごく気持ちよくて、実によく仕組まれた作品だなぁと思います。

2分間の仕組みをいつ主人公が知ったかは、二度見返してみてもやっぱりわかりません。この感じ、いまどき流行りの不条理コントだと思えば、設定の説明がないのも普通だけど、老人や不慣れな人々の違和感は強いかもしれません。あと、タイトルの「ドロステ」はググったらわかった(スパムメールのスパムみたいな、商品名がのちに別の事情を表すのに使われてそっちがメジャーになっちゃったやつ)けど、いくらなんでも内輪受けっぽくないか・・・?イケてる、かもしれない、もっとわかりやすい平凡なタイトルをつけるのなんてまるでイケてないのかもしれない。でも、もう少し私にもヒットするタイトルだったら、私でも4年前に「おっ?」と思って見てたかもしれない。・・・そういう意味で、「リバー」のほうが凡人の私にも入っていきやすかったと思います。

きっと「2分間もの」以外にも面白い作品があるはず。見つけたら見てみよう。

 

山口淳太監督「リバー、流れないでよ」3764本目

何これ面白い!タイトルから内容がまったく想像できなかったけど、それよりさらに意外な内容でした。連休ひまだし、なんとなくU-NEXTで作品を見繕ってみて、コメディということで気楽に見始めたけど、すんごく普通の温泉旅館の日常もののように始まり、ひたすら普通の旅館の人々が異常事態にあたふたするのがなんとも可笑しい。藤谷理子、いいですね。マンガの主人公みたいに普通っぽくてちょっと子どもっぽくて可愛い。なんと、このロケ地の旅館、この人の本物の実家なんですね!ずいぶん階段を上り下りさせられたけど、いちばん走り慣れてるのが彼女か・・・。というより、彼女の実家が旅館である、ということをヒントにして、当て書きした脚本なのかな??

タイムループっていう設定を、昔ながらの日本映画やドラマの舞台になっていた温泉旅館でまったりと繰り広げた、ミスマッチの傑作でしたね。オチのつけ方は、まぁしょうがないのかな。永遠にループし続けるわけにはいかないから、何かSF的な結末をつけるしかない。でも結局のところ、「もしxxだったら」人間はどんなふうに本性をあらわにするのか?という原始的な命題がおおもとにあると思うので、老若男女、古今東西、誰が見ても楽しめそうな作品ができたと思います。

 

ボニー・コーエン監督「不都合な真実2:放置された地球」3763本目

堂々としていて、公明正大そうなこの雰囲気、加山雄三とか杉良太郎みたいだな。などと、本筋でないことを考えながら見ていました。

前作を見たときは、ここまで環境問題っていう一つのテーマを追求しつづける政治家がいるのか、すごいな、という驚きがあったけど、今回は驚きというより、継続は力なり、と思います。この人もう一度大統領選に出ればいいのに、バイデンよりだいぶ若いでしょ、と思って調べたら、現在バイデン81歳アルゴア76歳、いうほど大差はなかった。

前作が2006年、これが2017年か。3作目が作られるのは2028年頃だろうか。今は2006年よりも地球温暖化の影響が目に見えて明らかになってきて、日本でも問題のことを知らない人はいないと思うけど、新しい事実や現象はどんどん生じてると思うので、作り続けてほしいな。継続は力なり、だから。