Pink Floyd / クリスタル・ボイジャー / 爆音@吉祥寺バウスシアター

吉祥寺バウスシアターのレイト枠で続いている、コンサート仕様のスピーカーを使った爆音上映は、ニール・ヤングの監督作「グリーンデイル」の上映で足を運んで以来、ガス=ヴァン・サントの傑作「ジェリー」の爆音上映なども気になったもののパスをしてしまって、今日(9/16)、「クリスタル・ボイジャー」の上映最終日まで日がたってしまったのですけれど、もう、深く反省と後悔をしました。「グリーンデイル」の時には、上映中涙するほどであったにもかかわらず、まだまだ爆音の価値がわかっていませんでした。恐れ入りました。「クリスタル・ボイジャー」をスクリーンで見たというだけではなく、爆音で見た!という決定的な経験を得たことが、ただただ嬉しいです。ピンク・フロイドの「エコーズ」を爆音で聴きながら、様々な光の中で、霧散、融合、無数の中間色に彩られた光の粒が溶暗に落ち、あるいは逆に明るい空に透けて輝いていく、そんなひとつとして同じではない光の運動を繰り返しながら、時間も空間も溶解した場で変幻自在の表情を見せる波の数々を見つめ続けることが出来た幸福。まさしくサーフィン版「2001年宇宙の旅」!脳内麻薬物質が出まくりでした。樋口泰人氏はじめ、企画してくださった皆様、爆音上映ほんとありがとうございました!

クリスタル・ボイジャー [DVD]

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グリーンデイル [DVD]

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ジェリー デラックス版 [DVD]

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それにしてもです。映画の最後を飾る「エコーズ」が流れながら、もはやサーフィンする人の姿など無く、ひたすら波だけがうつり続ける数々のショットは、「エコーズ」まるまる1曲分続くのだそうなんですけれど、これ、20分以上の曲なんですね。いま調べて知りました。映画を見ている感覚では、時間を忘れてみていたので、実感としては数分って感じだったのですね。圧巻の映像に、時を文字通り忘れてしまっていたわけです。それでいて、全編で79分の映画とも、また思えない。ものすごくたくさんの映像を見たような印象もあって、映画全体では2時間は大げさでも90分以上はある感じなんです。それが80分も切っているとは。確かに、物語としては、繰り返し書いている「エコーズ」の曲が流れはじまるまでに描かれるシーンも、ひたすらサーフィンをし、その合間に、人がいないところでサーフィンするための船を造っているショットが挟まるだけです。だから、時間がかかっているわけがないのですが。とにかく映像ひとつひとつが、美しく、かつ、その合間にそれを達成するための努力が健康的で(ナルシスティックな自己の映像の中に波をおとしめることなど決して無く)続く。そう、この映画では、ナルシズムが(おそらく無意識に)排されているのです。それは、おそらく、ジョージ・グリノーというカメラマン自身が本作の考案者であり語り部であり主演であることが大きいのだと思います(監督はデヴィッド・エルフィック)。自分が波の中にいる映像よりも、自分が波の中で見る映像、時間も空間もない世界こそが、最重要な目指す敵場所だったこと、そこに一直線に進んでいこうとすることが、この映画の強さなのだと思います。

ただ、絶対に見落としてはならないと思うのは、サーフィンしながら撮影されたと思われる「エコーズ」のシーンの映像は、おそらくサーファーの肉眼で見た映像とはまったく違う、むしろ、見ることが出来ない映像なのではないか、ということです。まず、単純にスローモーションになっています。それから、波に呑まれても、カメラはただその波を安定して見続けています。波が目に飛び込んで瞬きするといった影響もありません。それはやはり、サーファーの目ではなく、その背負ったカメラレンズを経由した映像なのです。言ってしまえば、ここではカメラが、人間とサーフィンボードに乗って、波を体験しているのです。ここではサーフィンという一種の人間のスポーツを、人間にとって不可能な視覚へと徹底して接続することで、ひどく抽象的な広がりを持つものへとしていくのではないかと思います。それを、実際の視覚を越えたサーファーの、チューブならチューブにたいする、どこからも切り離された自由な無時間の世界のイメージと重なっていくということなのかもしれません。しかし、それを引き起こすのは、あくまで「そこでは見られることがなかったカメラの視線」であること、つまり事後的に映像として現れたことが大切なのです。こうして、サーフィンを巡るストイックな探求は、そのストイシズムにおいて、映画=サーフィンという、変種の可能性を提示しているのではないかと思うのでした。それは、単にサーフィンの延長線上に直線的には配せないイメージなのです。

そんなわけで、BGMはピンク・フロイドです。ただ、悲しいかな、手元に「おせっかい」(「エコーズ」収録)がないので、「原子心母」を聴いています。

原子心母

原子心母

なお、「爆音サーフの夜」@吉祥寺バウスシアター(連日21:00ー)はこれからも続きます。詳細は公式HPで確認していただくとして、スケジュールだけ、以下に掲載します。

とのこと。9/24(土)のオールナイトはこれは是非行きたいのですが、諸事情により、行けるかどうか微妙なのでした。

更にそのあとも爆音上映は続き、

『爆音ゴダール・ナイト』@吉祥寺バウスシアター 10/15(土)より連続レイトショー!!

  • 10月15日(土)−18日(火)『勝手に逃げろ/人生』
  • 10月19日(水)−21日(金)『右側に気をつけろ』
  • 10月22日(土)−24日(月)『新ドイツ零年』
  • 10月25日(火)−28日(金)『ヌーヴェル・ヴァーグ

とのことです。

ヌーヴェル・ヴァーグ」はサントラが手元にありますが、そのアルバム自体、映画本編をそのまま収録したという作品ながら素晴らしい音世界で、まさしく爆音向き。あと「新ドイツ零年」も必見かと…。いや、他の2作も素晴らしいし、うーん。どれも見逃してはいけない、ですかね。全部見ているのですが、爆音ですからね。うーん、見たいぞ。ちょっと時期的に行けるかどうか微妙ではあるのですが…。