8月の別れ 8

次の日の8月8日の朝。前日までの台風の影響による天候不順もなくなり、子スズメたちを放すには絶好の日。
スズメたちがいる部屋は二階南側。部屋の窓を開け放し、外に飛び出せるようにした。
しかし、ピーコタンもチュンチュンも大きく開け放たれた窓の方には飛んでいこうとしない。
スズメでも未知の世界に対する恐れでもあるのか、部屋の奥のカーテンレールに留まったまま。
無理やり追い立てて外に出すことはしたくないので、窓を開け放したまま一階に下りた。
つけっぱなしにしていたテレビは、高校野球の開会式の様子を映し出していた。
高校野球には何の興味もなかったが、二階の子スズメたちが外に飛び出すかどうかが気になって何も手につかない。
それで、見るともなしにテレビはつけたままにした。
しばらくして二階に上がって様子を見ると子スズメは二羽とも部屋にいた。やはり外に飛び出す決心がつかないようだった。
またまた一階へ。開会式はまだ続いていた。しばらくそれを見て、それから再び二階へ。
そして部屋に入った時に、まだカーテンレールに留まったままの子スズメに近づいた時、一羽がカーテンレールから飛び立ち、そのままの勢いで窓の外に出た。飛び出したのはピーコタンだった。
一気に空に向かうかと思ったが、窓の外のすぐのところに置いてあった植物トレーに止まった。
どうするのか様子を見ていた。部屋に戻るのかと思った次の瞬間、東の方向に飛び去った。
飛び去る前にチュンチュンを誘うように声を上げたが、チュンチュンはそれには答えず、相変わらず、部屋の奥のカーテンレールの上に止まったまま。
飛び出したピーコタンはそのまま遠くに飛んで行ったのかどうか、北側の部屋だと、東側に窓があるので、その窓のところに行くと、ピーコタンはまだ屋根の上にいた。
画像はその時のピーコタン。


ここからどっちへ飛んでいくのか、決めかねた様子。声を上げていたがその声にこたえるものは何もない。
この場所に数分とどまっていたが、やや姿勢を低くし脚に力を貯めて、東の方向に飛び去った。
この時の気持ちは言葉では言い尽くせない。
どちらといえば、悲しく、切なく、寂しいもの。子猫や子犬を里子に出すときも寂しくはあるが、これでこの子も幸せになれるという確信が持てる人を里親に選んでいる。
外に放した野鳥の子がその後、順調に暮らしていける保証はない。むしろその可能性は小さいだろう。
大事に育てたものをわざわざ危険な賭けに出すのだ。この気持ちはほかのことでは感じないものだ。