本音ベーション(本音+イノベーション)

(公開できる5W1Hの量が会社の価値を決めるの続き)

株式市場とは、投資家と企業の化かしあいである。

企業は、儲かってない会社を儲かっているように見せて、投資家の金を集めようとする。投資家は、公開された資料に含まれる、そういう嘘やゴマカシを見抜き、本当に儲かっている企業を探し出す。

この化かしあいが、全く制限無しに行なわれたら騙す方に分がありすぎるので、市場がその化かしあいに一定の枠をはめる。何をどこまでごまかしていいかを「上場基準」というルールで定める。上場基準が厳しすぎれば企業に敬遠され、緩すぎれば投資家に逃げられるから、中間のちょうどいい所をさぐり、世の中の動きに合わせて細かく調整しながら運用していく。

ルールはあるけど本質的に化かしあいであるから、企業は抜け道を探し、形式的にはルールに違反してない範囲で、儲かっているように見せかける手段を探し続ける。抜け道を作る方が複雑なことをすると、その嘘を剥ぎとる方もノウハウが高度化し洗練されていく。

その結果、企業会計や投資という領域は非常に複雑なノウハウのかたまりとなる。そこに多くの優秀な人材が投入されて、膨大な知恵とエネルギーがつぎこまれている。

有望な経済領域を個人責任によって競争で探し出す、という市場の原点から見ると、この化かしあいは一種の過剰品質であり、破壊的イノベーションの余地が生じていると思う。

つまり、企業が、騙すことをやめてそのコストを本業に回すことができたら、それだけで競争優位になるのではないだろうか。

伝票を公開し、営業日報を公開し、議事録を公開し、企業活動の全てを公開する。社内のコミュニケーションに使用しているブログやチャットやSNSやIMも全部公開する。

オープンソースな会計、オープンソースな決算、オープンソースな企業活動である。

伝票を公開したら監査は不要になる。つまり、売上なり仕入れなりの合計が正当な数字であることは、内訳が公開されていれば誰でも確認できる。アナリストは不要になる。アナリストは(ルールの範囲内で)ごまかされた数字から正味の企業活動を復元する仕事であり、現状は、騙す方もプロだからそれをチェックする側にもプロが必要になる。もし、内訳つきで数字が公開されたら、復元するまでもなく出た数字をそのまま信じればいいだけなので、アナリストに頼らずとも誰にでもその企業の業績、実態を把握できるようになる。

もちろん、現代の企業活動は複雑だから、伝票が全部見えるから中身が全てわかるとは言えない。これは、Firefoxのソースが公開されているからと言って、Firefoxが100%安全であると保証できないのと同じである。

しかし、Firefoxに意図的なトラップコードが含まれている確率は限りなくゼロに近い。リポジトリが世界中に公開されているのだから、見つかった時には、誰がいつやったことか一目瞭然でわかってしまう。

明細、あるいはソースを履歴つきで見せるというのはそういうことで、ごまかしの余地が無いとは言えないが、もしバレた時には犯人がほぼ確実にわかるようになっている。競争相手がいれば、そこが、公開された情報に含まれる問題点を専門的な目でチェックしていることを期待できる。

そして、こういう会社は、他の会社からは嫌われるだろう。この会社から何か買って、そこが売上伝票を公開したら、強制的にこちらの仕入れ伝票が部分的に公開されることになる。ここと取引することで、自分の側も同時に全てが公開されてしまう。

製品開発も全てオープンに進める必要がある。この会社が来年出す新製品について、どのような技術が採用され、どういう市場をターゲットとして、どのような画期的な機能があるのか、それが公開された議事録からまる見えになる。やはり、ここと協力して開発している企業は、自社の来年の計画がまる見えになってくる。

同じようなオープンソース的企業であるか、そうでなくてもかなり透明性が高い企業しかここと取引できない。

だから、こういう形で企業活動を行なうことは、非常に制約があることは間違いないが、全部公開して新製品を開発している会社には、ヴェイパーウエアはあり得ない。「現在ここまでできていて、来年にはこういうものができる」と言ったら、その新製品は間違いなく来年にはそのような形で登場するのだ。投資家から見て投資しやすいことも確かだろう。特に特別の情報源を持たない個人投資家にはありがたい。

不二家の信頼回復対策会議最終報告信頼回復対策会議最終報告書(PDF)によると、不二家には直接的な健康被害につながるような衛生管理上の問題は無かったようである。

不二家の問題は、品質管理が行なわれていなかったことではなく、品質管理に明確な指針がなく、客観的な証拠が残るような体制が無かったことだ。

だから、内部文書が流出してそれを誇大に報道されたり、あやしげな元従業員の証言を元にマスコミから批判されたりした時に、それを否定する材料が無かった。

全てを公開している企業であれば、このような問題で株価が乱高下する心配はない。謀略に強いということは、流動性の高い現代のグローバル経済において非常な強みとなる。

情報源を持たずアナリストに払う金もない個人投資家はローエンドである。そのようなニーズは当初は、ニッチに見えるだろう。しかし、ローエンドを確実に押さえ着実に成長する企業は、いつか破壊的イノベーションによって世界を変える。

全てを公開することによって企業活動を本音方向へ大幅にシフトするイノベーション、すなわち「本音ベーション」によって、世界を変えてしまう企業が出現すると私は予想する。

(追記)

id:j0hnさんにブクマコメントで指摘していただきましたが、Wiredの2007年3月号の特集が、Get Naked and Rule the World というタイトルで似たようなことを言っているそうです。

Smart companies are sharing secrets with rivals, blogging about products in their pipeline, even admitting to their failures. The name of this new game is RADICAL TRANSPARENCY, and it's sweeping boardrooms across the nation.

(さらに追記)

id:taninswさんのコメントでは、次のURLを教えていただきました。

GPLの伝播性のように、会議の(公開範囲の)伝播性を考える」という所が面白いですね。