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2007-10-21

初音ミク界隈に見る既視感のある光景

なんというか、初音ミク好きというのは、「初音ミクというバーチャルアイドルが好き」とは限らず、タダでわけのわからないクオリティのものを作ったりする職人達もすごく好きで、その心意気に惚れ込んだ同胞もひっくるめて好きだったりして、その高揚感をうまく言葉にするにも中々できずに(あるいは敢えて言葉にせずに)、その結果「初音ミクすごい」って言葉が出てきたりする。初音ミクは音楽ツールというより、そういうものの”象徴”なんですね。

(アイドルではあるけど、アイドルとはちょっと違う)




ここで客観的に見れば、何かを媒体にかなりの人数が集まってて、なおかつメンバーにやる気があるんであれば何か生まれるのは当たり前で、何も生まれない方がおかしい。なんつーか8/31に発売されてまだ約1ヶ月半なのに関連動画数が5527件ってことは、毎日約110件の関連動画がアップされてる計算になるので、それだけで尋常じゃないのは確か。人数としては十分過ぎる。


ただ、初音ミク界隈が「音楽を蹂躙して良い」なんていう権利は全く無いので「これで歌い手いらないな!」などという発言があれば、徹底的に糾弾すべきだと思う。(あくまで初音ミク界隈に「自重しろ」とは言わない。)

最近の初音ミク批判について思うこと - 花見川の日記

「初音ミク」が音楽と隣接しているけど音楽とは別の何かであって、音楽の中にいる人から見ると「既に俺たちがさんざんやってきたことを、素人向けに化粧直ししただけのものにすぎなくて、よく知っている俺たちから見るとそのためにレベルダウンした所がたくさんあってそこが気になってしょうがないのだが、そういう玄人筋の苦闘の歴史を知らない連中が大挙して押しかけてきて、俺たちが大事に守り育ててきたものを蹂躙しそうな凄い勢いで、基本的には微苦笑してればいいと思うんだけど、それが一時的なお祭り騒ぎに終わらないとしたら、これは大変なことになるぞ、困った困った」みたいに見えているという話として受け取ったのだけど、

何だか見たことがある光景だと思ってしばらく考えてようやく思い出したのは、オープンソース勃興期にITの内側からそれを見ていた自分の視点だった。

Linuxの話を最初に聞いた時は、よく事情が分からなくて「何でも学生さんが集まってOSを作ってるらしい。勉強熱心で感心な学生さんたちだなあ」という受け止め方をした。つまり、鳥人間コンテストで飛行機を作っている同好会みたいな感じだと思っていたのだが、よく話を聞くと、この飛行機は、一回琵琶湖に突っこんで彼らの学生生活の良き思い出になるようなものではなくて、実稼働を目指しているということである。

その話は衝撃というより馬鹿らしいとしか思えなかった。喩えるなら、鳥人間コンテストの人力飛行機が、国際線はすぐには無理だとしても、東京-福岡間くらいなら旅客を乗せた定期便として就航できるレベルになるよ、というくらいの話。

「あり得ない」としか思えなかったけど、実際、インストールしてみると、ちゃんと動くんですね。しかも、ものすごい勢いで進化していく。

「既に俺たちがさんざんやってきたことを、素人向けに化粧直ししただけのものにすぎなくて、よく知っている俺たちから見るとそのためにレベルダウンした所がたくさんあってそこが気になってしょうがないのだが、そういう玄人筋の苦闘の歴史を知らない連中が大挙して押しかけてきて、俺たちが大事に守り育ててきたものを蹂躙しそうな凄い勢いで、基本的には微苦笑してればいいと思うんだけど、それが一時的なお祭り騒ぎに終わらないとしたら、これは大変なことになるぞ、困った困った」

OSの開発はやったことないけど、制御や通信と言って普通の事務処理よりちょっとは難しいことをやっていた私は、そう思った。

ITっていうのは、お客様から出された仕様に従って確実にソフトウエアを作るってことだし、ソフトウエアだけではなくて、問題が起きた時に責任を持って対応できる組織があって初めて意味がある。だから、自分たちの為にソフトを作って、出来上がったら「ネットに置いておくので勝手にダウンロードして使ってください」というオープンソースとは、別のものだ。

そう思ったけど、あの勢いを見てたら「違う世界のことだから関係ないと言ってられなくて、こっちも蹂躙されるなあ」と思ってたら、案の定、きっちり蹂躙されましたよ。

旅客機と同じくらい複雑で開発の手間がかかるオペレーティングシステムというものを、あいつら本当に開発しやがって、しかも本当にタダでばらまいている。OSの回りには、それはそれはたくさんの人の食い扶持を支えるたくさんの仕事があったけど、全部根本からぶち壊された。

「鳥人間コンテスト」が東京-福岡間に就航したら、旅客機屋さんだけじゃなくて、パイロットから乗務員から空港内の施設で働く人やら、いろんな仕事が根本から変わってしまうと思うけど、そういう事態が起こってしまった。

細々とつつましく暮らしていた風の谷に、王蟲の群れが突っこんできたようなものです。

まあ、実際には、IT業界は、それ以前に、オープンシステム(これは言葉は似てるけどオープンソースとはぜんぜん違う話)とかパソコンの急激な実用化とか、似たような衝撃をいいくつか経験していたので、いきなりっていうことではないけど、でもやっぱり「鳥人間コンテスト」的OSっていうのは、最後のトドメになった。

IT業界の収益構造は、20年前とは全く違うものになって、そこで職を失なった人間はたくさんいるし、王蟲の群れに蹂躙されて、自分たちが立っている地面が無くなってもまだそれに気がついてない人たちもまだまだたくさんいる。

ただ、本質は変わってない。

プログラムが好きでこの仕事をやっている人が仕事を失なうことはないし、品質や信頼性にこだわって、本物のプロの仕事をしてきた人は、そんなに困ってないと思う。

昔ながらのIT技術者っていうのは、頭が固く情報にうとい人が意外に多くて、今だにフリーウェアとオープンソースの違いもわからない人が私の回りにもたくさんいるのだけど、「オープンソースっていうのは、OSやミドルに問題があっても、いちいちベンダーの開発部隊に電話する必要がなくて、自分たちがそのまま中まで調べられるんですよ」と言えば、いっぺんで本質を理解する。パソコン以前に育って修羅場を経験しているベテランほど、このポイントの理解は早い。

本質が無くなることはない。でも、エコシステムは根本から変わってしまう。たぶん、「初音ミク」が「音楽」業界に与える影響も、同じようなことになると思う。

ネットが可能にした素人集団の暴走は、他にもたくさんの職業に対して、その職業の本質を洗い出す働きをするだろう。

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