2008年はWEB原点回帰からスパム撲滅が射程内に

第7回まで見たけど、これはかなり面白いです。

RESTというのはソフトウエア開発者以外にはまず関係ない言葉だけど、一つだけは覚えておいてほうがいいと思う。

それは、「なんでWEBがこんなにうまく行ってるのか、ちょっとだけ立ち止まって考えてみよう」という話だと言うこと。

たぶん、Social Graph APIも、その線で見るべきだ。やはりこれは非常に重要な技術だと思うけど、ただ、これで何ができるのかわかりにくいと思うので、一つの効能として、皆さんを悩ましているあの憎きスパムを撲滅できるというストーリーを考えてみた。

と言っても、Social Graph API単独でそれが可能になるわけではなくて、OpenIDとか、今旬の他の技術も合わせて、そういう方向にWEBが発展していくのではないかということだ。

そもそも、スパムを撲滅するのは簡単と言うか、ある意味ではもうできている。メールなんか使わなくても、各種メッセンジャーとかtwitterとかmixiのメッセージとか代わりになるものはいくらでもあって、そういうものにも多少はスパムがあるけど、はるかに少ないし、深刻な問題になった時には対処する方法がいくらでもある。

でも、何でメールよりずっといい技術があふれているのにメールを使わないですますことができないかと言えば、現状の代替技術はメールがうまく行った本質的な理由、最も重要なポイントを満たしてないからだ。

その重要なポイントとは、分散していることとオープンであること。それからシンプルであること。

メールというかDNS、つまりメールアドレスの@の後ろの所(ドメイン)は、分散して管理されている。@より前はプロバイダーや企業や大学等の機関が個別に管理しているが、そのドメインのピリオドごとに、担当する機関が決まっていて、分散して管理されているものを統合して運用している。

Social Graph APIOpenIDは、個人のアイデンティティを、分散、オープン、シンプルに管理する方法だ。つまり、「何でメールがこんなにうまく行っているのか立ち止まって考えて」みたら、こんな感じになりましたという感じ。

Social Graph APIは、当面は、「友達関係の相互運用」が焦点になると思うけど、重要なのは、「meリンク」、つまり、「私が私であることの統合」である。ここにOpenIDを組み合わせると、ちょっと新しい世界が見えてくる。

たとえば、私が利用しているサービスのプロフィールページはこんな感じ。

どれもたいしたことは書いてないし、書いてある内容もバラバラだけど、多少の調査をすれば、人間にはこれが同一人物であることはわかるだろう。WEBに慣れている人なら、どれか一つから他のものを探し出すことも可能だろう。

Social Graph APIは、これらが同じ人間のプロフィールであることを、機械にわかるように表現する方法だ。それがわかるように相互連結させる方法だ。

つまり、「劣化しないアイデンティティの伝播」である。

私的録音が劣化するアナログのコピーであるのと、劣化しないデジタルであるのとでは全く意味が違ってくるように、「劣化しないアイデンティティの伝播」というのは、非常に意味が大きい。

もし、メールにこういう連結したアイデンティティをくっつけることができれば、非常に効率的にスパムを排除できるだろう。つまり、たくさんあるサービスをまたがって、知りあいの関係の距離によって、メールを仕分けることができる。

たとえば、「あなたのマイミクのAさんがtwitter上でfollowしているBさんとvox上で友人であるCさんからのメール」が届きました、とか。

「劣化しないアイデンティティの伝播」があれば、こういう感じで、知らない人からのメールの出所がわかる。もしそれがスパムだったら、「Cさんからスパムが来たよ」とAさんにチクってやれば、BさんがCさんとの関係を切ってくれる。

もちろん、チクリを誰がどういうふうに転送するかとかウソのチクリはどうするかとか課題はたくさんあるけど、ざっくり言って、商売になるくらいスパムを送ったら、その人の周辺にはあちらこちらからこういうチクリメッセージがたくさん届いて、関係を切るしかなくなるだろう。

どこをどうたどっても、その人に辿りつくルートがないような人から来たメールは、とりあえず「スパムっぽい」のフォルダーに入れておいて、一週間に一回くらいチェックすればよい。

それでいて、特定の業者が大量の個人情報を持つわけでもないし、どこかが倒れたら動かなくなるとか、どこかに悪用されるとか、そういう心配は、あまりない。「絶対大丈夫」とは言えないけど、分散、オープン、シンプルなやり方は、決して完璧ではなくても、そこそこうまくいくというのが、ネットの歴史が教える知恵だ。

こういうことが、アーリーアダプター層の中だけでも可能になれば、自然とその他大勢の人に伝播していくだろう。これは他の新奇なサービスと違って、「これをやってるとスパムが来ないよ」って言えば、とりあえず試してみようと思う人は少なくないはずだ。

「とりあえず試す」とは、「劣化しないアイデンティティの伝播」ということで、何らかのサービスで、その新しいもの好きの友人を一人だけ登録しておけば、その人のソーシャルグラフが有効になって、相当な量のメールが「身元のわかるメール」になる。たぶん、「新しいもの好きの友人」は、たくさんのサービスでたくさんの友達を登録しているから。

RESTとかmicroformatとかOpenIDとか、このSocial Graph APIは、それほど画期的なものではないけど、「なんでWEBがこんなにうまくいったのか」という歴史をきちんと踏まえている。だから、WEBやメールのように、着実に広まりある時点から加速度的に普及すると私は予想する。そして、たぶんその効能はとても大きい。

ただ、「劣化しないアイデンティティの伝播」の副作用というか暗黒面も一方では、かなり、ある。

それについては、またいずれ別のエントリーで書こうと思うけど、とりあえずキャッチフレーズだけ言っておくと、「履歴書への無断リンク禁止の禁止」という世界。「劣化しないアイデンティティの伝播」は、やがて履歴書として機能するようになって、それを持たなかったりオフラインに置いておくことのデメリットが非常に大きくなる。そして、その履歴書は誰にでも見ることができるものになり、それに対して「無断リンク禁止」と言うことはできなくなるということ。