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2008-03-13

無料経済=お金が買える経済

Kevin Kelly による "Better Than Free" の翻訳が大評判になっているようです。これとともに要注目だと思うのが、Chris AndersonのFree! Why $0.00 Is the Future of Businessです。

こちらはまだ全訳は無いようですが、次の二つのブログでだいたいの内容はわかると思います。

そして、私が最も重要だと思ったのはここです。

The "attention economy" and "reputation economy" are too fuzzy to merit an academic department, but there's something real at the heart of both. Thanks to Google, we now have a handy way to convert from reputation (PageRank) to attention (traffic) to money (ads). Anything you can consistently convert to cash is a form of currency itself, and Google plays the role of central banker for these new economies.

There is, presumably, a limited supply of reputation and attention in the world at any point in time. These are the new scarcities — and the world of free exists mostly to acquire these valuable assets for the sake of a business model to be identified later. Free shifts the economy from a focus on only that which can be quantified in dollars and cents to a more realistic accounting of all the things we truly value today.

Free! Why $0.00 Is the Future of Business

「アテンションエコノミー(注目による)」や「レピュテーションエコノミー(評判による経済)」は、あいまいすぎて学問的な分野ではまだ使えない用語だ。だけど、この二つの言葉は核心に何かリアルなものを含んでいる。グーグルのおかげで、今は手軽に、評判(ページランク)を注目(トラフィック)に変換し、さらに広告によってお金にすることができる。確実にお金に交換できるってことは、それ自身が通貨になりつつあるとも言えるかもしれない。そうだとしたら、グーグルは、その新しい経済の中で中央銀行の役割を果たしていることになるだろう。

評判と注目の供給量は、おそらく世界全体で見ると常に有限だ。そこには(訳注:無料の経済によってお金が希少なものでなくなった代わりに)別の希少性があるということだ。そして、「なんでもタダ」の世界は、これらの価値ある資産を、まだ見ぬ新しいビジネスモデルの為に求めることで成立している。またそれは、経済の注目点を、ドルとセントで計量できるものから別のものへとシフトさせる。僕たちが今ほんとうに価値あるものと見なすものはドルではうまく計れない。それをもっとリアルに計ることができるような別の仕組みに向かっているんだ。

この訳自体が、私の思い入れたっぷりの超訳ですが(たぶんそのうち誰かがちゃんと訳してくれると思うので)、さらに大胆に要約するならば、「お金を買える世界がやってくる」ということだと思います。

つまり、お金を他のものXと交換することを、今は「お金でXを買う」と言うのですが、これからは「お金を買う」と言うわけです。お金以外のものが通貨になるというはそういうことだと思います。

だから、食料自給率と同じような感覚で「お金の自給率」という概念が生まれるのではないでしょうか。

戦後の経済の中で、食料を確保することより(工業製品を輸出して)お金を確保することの方が重要になりました。だけど、お金で買えるものの中で食料は特別の意味があります。ある意味では商品の一つでしかないけど、それを代替不可能な唯一の重要な資産として見る観点も必要です。「食料自給率が低すぎる」という議論は、「食料を特別な商品として見るべきだ」という意味です。

ただ、「食料自給率が低すぎる」と主張する人も、日本が自給率100%にすべきだとは言いません。基本的には食料を商品として、他の商品と同様に市場の中で扱うという原則そのものに反対する人はいません。備蓄とか関税とかで市場に介入する、その度合いが多いが少いかという議論です。

ブログやオープンソースで自分の創造物を気前よくバラまいている人は、「お金の自給率」が低すぎると注意されるようになるのかもしれません。

つまり、そういう人の発想は、「お金なんて必要になったらその時買えばよい」ということです。それより評判や注目を資産として貯めることに励んでいるわけです。

「お金なんて必要になったらその時買えばよい」と「食料なんて必要になったらその時買えばよい」は、ほぼ同じ発想です。

つまり、どちらも「お金を買う市場」「食料を買う市場」が機能しなくなることを想定していません。平時においては、それが経済的に合理的な行動です。食料を生産するより工業製品を生産する方が有利な国は工業製品を生産して食料を買った方が有利だし、お金を稼ぐより評判を稼ぐ方が得意な人は、お金なんかにうつつをぬかさず真面目に評判を集めた方が得です。

ただ、非常時においては、市場(交換手段)が機能しなくなる可能性がありますから、多少は食料(お金)を自力で確保する手段を用意しておいた方がいいでしょう。その比率、つまり自給率がどのくらいであれば適正なのか、そこは議論があるし、人によって見方が違ってくると思います。

でも、原則としては、食料は交換可能な商品であると見なすべきです。これからは、お金もそういう意味で交換可能な商品として見ることを原則とする時代になるのでしょう。

現在は、ドルか原油か金(ゴールド)を持っていれば、いついかなる時でもたいていのものを買うことができます。だから、この三つはある意味通貨と考えることができます。これと同じくらいには、ドルとレピュテーションとアテンションが通貨になるというのが、Anderson氏の主張ではないかと思います。

常識破りの組織に変える 33人の否常識

常識破りの組織に変える 33人の否常識

この本の中にも「8 すべて無料」というエッセイがあります。

もしもあなたの会社が、公共放送のようなビジネスモデルを採用していたらどうだろう。

要するに、すべての商品が無料なのだ。報酬を得るには、社員が顧客を説得して寄付を募るしかなく、顧客は商品の価値を判断した上でその額を決める(中略)

寄付と無料商品に基づく経営は、突拍子もないように思えるかもしれないが、会社の将来にとっては最良の道かもしれないのだ。

少し想像して欲しい。あなたの会社がこの先一年間、国際競争の中で生き残るためには、寄付に頼らなければいけないとする。どのような準備が必要か?顧客との関係をどのように変えるべきか?そもそも変えられるのだろうか?(中略)

一年間無料で使用した後に、それなりの金額を払う価値があると判断してもらえる商品やサービスを生み出すにはどうすれば良いのか?

そして、このエッセイでは、NPR等の公共ラジオ放送が既にこの方法で運営されて、その多くが成功を収めていると言っています。

もし、NPRのような組織が何らかの危機に陥ったら、2ちゃんねる閉鎖騒動の時のような感じで、有形無形の援助があちこちから集まるような気がします。

そうだとしたら、レビュテーションを持っている組織や個人は、お金を持っている組織や個人より安定した基盤を持っていると見なすべきでしょう。

ただ、こういう議論が、経済学のような定式化された理論にならないのは、レピュテーションを計測する仕組みが、まだページランク程度のものしか存在しないからです。

ページランクにしろ別の指標にしろ、そういうものが我々の価値観に100%ピッタリ合ったものになることは、永遠にないでしょう。

問題は、相対的に見てそういう指標の質がドルより良いか悪いかです。価値観を便宜的に数字にする指標として、お金より少しでもマシな指標がネットの中に生まれれば(あるいはページランク的なものがそこまで進化すれば)、経済の仕組みは劇的に変わると思います。

nakagawamakoto2007nakagawamakoto2007 2008/03/13 22:24 このブログエントリに掲載された英文しか読んでいないのですが、”the new scarcities”の解釈に違和感を感じました。

scarecity = valuable という展開のように読めますので、単に、新しく価値のあるものが出現したという程度の意味ではないでしょうか。

「無料の経済によってお金が希少なものでなくなった代わりに)別の希少性」とまでは言っていないように思います。

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