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2009-12-19

原油高と同じくらい深刻な「ホワイトカラーの仕事破壊」

日本人は海外からやってくる危機には敏感に反応する。原油高とか円高とか新型インフルエンザとかはよく報道されるし、政府の対策が不適切だったら批判も高まる。

私は「成長戦略」として語られている問題も本来は、そういう種類の問題だと思う。

しかし「成長戦略」という言葉はヌルい。ヌルすぎる。なんか、やってもやらなくてもどうでもいいけど、やるとちょっとボーナスが増えるみたいから、気がむいたらちょっとやってみるか、みたいな感じ。

本当は、これは原油高に匹敵するような日本にとって大きな問題だと思う。原油は間接的にあらゆる製品の材料になっているから、原油の高騰はどんな産業にとっても大問題だ。

それと同じように、今、ホワイトカラーの労働力の単価が急激に落ちている。日本は直接間接にホワイトカラーの労働の成果を海外に売って食ってる国だから、これは、逆に言えば、あらゆる資源が高騰しているということだ。

「成長戦略」とは、そういう原油高をしのぐようなとんでもない資源価格の高騰にどう対応するかという問題なのだ。これについて無策であるということはとんでもないことだ。

ホワイトカラーの労働力の変化の原因は、ITとグローバル化だ。

ITというと「そんなものは結局枝葉末節で自分の仕事の本質とは何の関係もない」と思う人が多いだろう。私もそう思う。日本でITというのは、「今ある仕事をコンピュータシステムに乗せること」だ。私はそれを商売にしているから余計実感するが、そんなことをしても何も変わらない。便利になることと余計面倒になることが半々でトータルでは大して変わりがない。

ITが本当に力を発揮するのは、「先にコンピュータシステムを作って、その回りに人を配置して仕事にする」時だ。コンビニチェーンもDELLもアマゾンもそういうやり方でITを使っている。

そういう使い方をするとITは本当に力を発揮する。日本がこれから競争していくのは、そういうタイプのITだ。身の回りにある「なんちゃってIT」でこれを判断してはいけないと思う。

ネットブックの新製品を見た時に、「自分がこれを使えるか」だけを考えてはいけない。既存のパソコンを使っている人にはネットブックなんて意味がない。遅くて制約が多い不便なパソコンだ。

ネットブックを見て考えるべきことは、「世界中でこれで初めてパソコンに手が届く人がどれくらいいるのだろう」ということだ。5万円のネットブックが4万5千円になった時、インドや中国などのBRICs諸国では、その5千円の違いでやっとギリギリこれに手が出るようになる人が数億人はいると思う。そういう人はみんなホワイトカラーの予備軍だ。そういう人の中で、勤勉で頭が良い人は凄いスピードでネットや経済やITについて学び、立派なホワイトカラーになる。

数億人単位のホワイトカラーの供給増加=労働の単価の低下=相対的な資源価格の高騰だ。これがこれから加速度的に進んでいくことは間違いない。

そして、そういう人は皆、「初めにコンピュータシステムありき」の会社に入り、フルにネットを使ってホワイトカラーの仕事をする。

「しがらみ無しでシステムを作れたら、どれだけ楽にシステム開発できるだろうか」とよく考えるが、パソコンが5万円になってやっと買うことができる人はみんなそういう会社に勤めるだろう。そういう人たちの生活水準が高くなり給料が高くなった頃には、パソコンが3万円になってやっと買うことができる人が入ってくる。その次は1万円、次は5千円だ。ネットブックは長期的には千円くらいまで安くなって、その過程でずっと新しいホワイトカラーを量産し続け、その人たちの仕事は我々よりずっと効率的なのだ。

これは原油高なんか比べものにならないくらい深刻な日本の危機だと思う。

情報の収集と整理、解釈、戦略の立案、問題点の発見と対策といったホワイトカラーの労働は、全部、急激に単価が低下していく。いや、もう既にそれは起こっていて、「成長戦略」とは、それにどう対応していくべきか、という話なのだ。

私がGoogleのことをよく書くのは、それについてのヒントがあると思うからだ。

Googleは特別優秀なプログラマだけを集めている。それで問題が解決すると思うのは大間違いだ。優秀なプログラマというのはうるさくて実に扱いにくい人種で、一人か二人いただけでも、もう面倒くさくてしょうがない。最優秀なクラスが何千人もいたら、それは管理職にとっての悪夢だ。Googleで部長や課長をやっていたら、ストレスで胃に穴が開いてしまうだろう。

だが、幸いなことにGoogleには部長や課長といったものは無い。組織がなくて、全員が情報を共有している。それで仕事が回っている。毎日のように画期的なプロダクトが出てくるが、それが衝突することはあまりなくて、まあそれなりにうまく噛み合っている。それはとてつもないことだと思う。

Googleは社員も凄いが、それ以上にマネジメントが凄いのだ。Googleを経営できるなら、他のどんな業種のどんな企業でも経営できる。数倍効率よく経営できる。

普通の社員をGoogleの社員にするには、彼が今持って無いいろいろなものを彼にプラスしなくてはいけない。それは非現実的だ。

しかし、普通の経営をGoogleの経営にするには、今の経営から引くものの方が多い。足すものがあるとしたら、Google Waveのような情報共有のシステムでそれはGoogleがタダで使わしてくれる。

「ホワイトカラーの仕事破壊」に対応するには、日本の会社の経営を全部Googleのレベルにするくらいのことが必要だと思う。

私にとって、論ずるに足る成長戦略とは、そういうレベルの話だ。非現実的と思われるだろうが、現実的で着地点が無い話よりはずっとマシだと思う。どんなに遠く見えても着地点がある話の方が本当は現実的であるはずだ。

経営者や部長や課長のメンツやプライドに配慮してたら日本はつぶれてしまうよ。メンツやプライドで海外からモノを買えるならそれでもいいけど。

世の中には、パソコンの値段なんかに興味もない人もいるからそういう人が気がつかないのは仕方無いかもしれない。しかし、安いパソコンを買って「なんだ騙された!使えねええ!」と言っている人はたくさんいるだろう。そういう人はこれを喜んで使っている人が世界中に数億人いることを想像すべきだ。そして、その数億人が職場で自分の机の隣に座っていると思うべきだ。

その数億人の1%でも、ネットで勉強しまくる人がいたら、日本が今のままで食っていけるなんて思えるはずがない。


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(追記)

@willernoillerさんのコメントですが「ホワイトカラーのインフレ」という言い方はわかりやすくていいですね。これをタイトルにすればよかった。

ブルーカラーブルーカラー 2009/12/19 18:10 ホワイトカラー = 頭がよい
という文章に見えて大変不愉快な気持ちになりました。

leoleoleo3leoleoleo3 2009/12/19 18:30 そうですね、20%プロジェクトと80%プロジェクトは、考えてみるとはっきり違ってますね。わたしも、Googleを見ていると経営とかマネージメントの次世代型みたいなものを感じてしまうから、ウォッチしてしまうんです。
業務効率化向上の為、会社というシステムの中でフラット化が進むのは不可避ですし、その過程で様々なホワイトカラー的なモノが壊れています。建設的な破壊ならいいのですが、中には壊れっぱなしのモノも有り、その前で壊れていく人格も目撃することになる。こんな日常をなんとかしたいと日々、戦ってますけど、時々、壊れたフリをしたくなる・・。

ランクルランクル 2009/12/19 19:26 とても、有意義な文章だと思いました。その通りだと思います。
日本も日本人もそうやって今の地位を築いてきたので、盛者必衰の理をあらわすとのことかもしれないですね。

これに気が付いて経営をそっち方面に舵を切れれば成長できるのでしょうが、国家規模で舵を切るのが難しい問題ですよね。
豊かさ、人件費などが問題の根幹だとすると、勝てる組織はごく一握りかと。。。
それでいいのか、というか、ごく一握りの最強の組織を生みだす政策に舵を切るということか。。。日本からgoogleやamazonが生まれやすい土壌を作るということだもんね。そういう政策が必要だよね。

bassfanbassfan 2009/12/19 22:08 素晴しいと思います。
会社を経営して、ネット周辺ビジネスにいると、自分の従業員の将来を憂います。もっと必死にやらないと、貧民になるぞ〜と。
でも、周りをみると安心してしまうか、退職するか・・・。
悲しいですね・・・

そるまっくそるまっく 2009/12/20 12:53 >日本は直接間接にホワイトカラーの労働の成果を海外に売って食ってる国

意図的に過度に抽象化されてる気がしますが(即ち極論)、確かに日本の国富の原資は明らかにそうですね。内需が無い訳じゃ勿論ありませんが、いつまで経ってもこの国の内需経済活動フローは、外需のそれの澱みでしか無いような気がします。

PDCAの視点で考えるとD=現場職=ブルーカラー、PCAがホワイトカラーで、Dは中国に出て行ったり戻ってきたりしてますが、PCAもアウトソースできるとなると、大企業に巣くう高コストで無能な雇われトップ、幹部どもはまとめてリストラ小屋送りになるかも知れませんね。

官公庁については別論する必要がありますが…

ホワイトカラーのデフレホワイトカラーのデフレ 2009/12/20 16:29 追記の「ホワイトカラーのインフレ」というのは、逆じゃないですか? 原油インフレって原油高のことでしょう。
あと、ブルーカラーの方も、とっくに価格崩壊しているかと思います。こちらは、通貨の切り下げか、貿易障壁をつくる以外、解決策は無さそうですね。

真の問題は、ホワイトカラーにせよ、ブルーカラーにせよ、生産性の向上に伴って、必然的、継続的に発生する余剰人材が担当すべき、新種の仕事が存在しないということです。有るのは、効率化という、既存の仕事の喰い合いです。
部長だろうが課長だろうが、会社を追い出されたら、仕事の真空地帯へ放り出され、路頭に迷うのだから、みなさん必死ですよ。決して、おっしゃるような「>メンツやプライド」では無いと思います。むしろメンツやプライド、キレイ事をかなぐり捨てて、google化を阻止しなければ自分が生きて行けません。5年粘れば、退職金が出るのなら、個人が取るべき戦略は、誰だって明白です。

HGHG 2009/12/20 22:10 確かにインフレではなくデフレ、このタイトルに従うと「価格破壊」くらいが適当でしょうか。

頭がいい悪いではなく、これまで起きてきた新興国によるブルーカラーの価格破壊がホワイトカラーでも起きる、と。言葉の壁に守られて変革が遅れた分、深刻ですね。分かっている人は結構危機感持ってると思いますが。

HGHG 2009/12/20 22:10 確かにインフレではなくデフレ、このタイトルに従うと「価格破壊」くらいが適当でしょうか。

頭がいい悪いではなく、これまで起きてきた新興国によるブルーカラーの価格破壊がホワイトカラーでも起きる、と。言葉の壁に守られて変革が遅れた分、深刻ですね。分かっている人は結構危機感持ってると思いますが。

KoshianXKoshianX 2009/12/20 22:53 ホワイトカラーの大量出現なんだからインフレであってるのでは。価格はデフレだけども。

ついでにいうとこないだベトナム行って来たんですがあそこすごいですよ。
NetBookより大きなPC買うくらいの購買力もあるにはあるし、さらにあちこちに先進国並のカフェが大量にあって、ほとんどWi-Fiが無料で使えるんですよ。どうもフランスの影響かカフェ文化が根付いてるようですね。
まだまだADSLなんかは高いんですが、これだけカフェとWi-Fiがあるとその場で仕事もできそうです(ていうかしてました、俺が)。

karatedookaratedoo 2009/12/21 03:02 ホワイトカラーのインフレか?デフレか?ということがチョットした話題になっているのが気になりました。
ホワイトカラーでもレベルの差があることを実態として共通の認識とするとことから議論を始めればその両方があると言ってよいのでは?
つまり付加価値を生み出す人の集団と、付加価値を次々に生み出せない人の集団と分ければ事情が異なるといえるのでないか?という予感がしますが・・・。
考えが整理できていないのでどっちがインフレで、どっちがデフレなのか?うまく表現できませんが。また考えて投稿します。

tennteketennteke 2009/12/21 10:54 テレビ番組「料理の鉄人」に出ていたフランス料理人坂井宏行さんはフランスに修行に行ったことが無く、オーストラリアに修行にいったそうです。
オーストラリアのレストランで働き始めて真っ先に言われたのが、
「お前の得意なことな、なんだ?」だったそうです。
日本やフランスで料理修行と言えば掃除や皮むきから始めるのに、自分の得意なことを最初からやらせるオーストラリアのフランス料理文化に驚いて、何故そういうやり方なのか?と質問したら、
「だってそのほうが効率的だろう」だそうで。
それで坂井さんが帰国してオーストラリア式を採用したかというと、よくわかりません。
しかし、その日本式の社員・職人の監督方法が料理人のデフレを防いでいる部分もあるでしょうし、日本での料理界の質を保っている部分もあるでしょうけど、
ホワイトカラーはデフレの危機がありますか…。交換可能の要素が高いからかなぁ。

trshugutrshugu 2010/01/06 11:02 たしかにgoogleの経営と同じくらいの人間力があれば日本は勝てると思いますが、そんな経営者は見たことがありません。
ブルーカラーもホワイトカラーもコストベースな考え方が常識とされているからだと思います。

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