【アンディー・メンテ】泉和良=ジスカルド=ジェバンニpの代表曲紹介

 

エレGY (講談社BOX)

エレGY (講談社BOX)

 
 「[rakuten:book:12989206:title]」という自伝的小説で流水大賞優秀賞を受賞し、作家デビューを果たした泉和良は、これまで「アンディー・メンテ」というサークルの中心人物ジスカルドとして、数多くのフリーゲームを発表してきた。
ラブリーポリス・トリクーガ
"ラブリーポリス・トリクーガ(MISA 2)"

アンディー・メンテ初期の
ノンフィールドRPG
 そのほとんどはDelphi製によるボタン入力型ノンフィールドRPGという形式で、極端にかたよったゲームデザインが成されていた。その奇妙な作品群は独特の輝きを放っていて、少なからずの人の心をひきつけた。
 彼はそんなゲーム制作の一方で、Youtube開始の2005年以前から、動画コンテンツ配信を活発に行っていた。自作曲のPV、自主制作短編アニメ、さらには日常生活を映した数分の動画を「まゆみ王子クエスト」というコーナーで連載していたこともある。
 ほかにも、「ピースアイランドパーク」という公園でおこなうゲームを開催するなど、アンディー・メンテは、ソフトウェアの配信だけにとどまらない創作サークルであったのだ。
 
 そして、2007年12月からは、アンディー・メンテ以外の活動として、ニコニコ動画ボーカロイドを用いたオリジナル楽曲を次々と発表し、ジェバンニとしても知られるようになった。
 
 小説・ゲーム・動画と、さまざまな分野で創作活動を続けるジスカルドこと泉和良だが、その本質はミュージシャンではないかと思っている。
 
 多才な彼が発表してきた楽曲のすべてを追うことは難しいが、すでにニコニコ動画Youtubeでアップされている動画をもとに、その軌跡を紹介していこう。
 
アンディー・メンテゲーム制作サイト「まおうせい」
※これらの楽曲を収録したアルバムは、一部をのぞき、アンディー・メンテのネットショップで購入できます。
 
【紹介曲目一覧】
1.REI'S MEDICINE
2.キューティーライダー
3.Train
4.World is Pink!
5.I wish
6.ばかばかばかの魔法
7.Merry X'mas Miss.Y Our life is perfect
8.Special Gamer
9.牛乳戦隊ニューレンジャー
10.フレーフレー アンディーメンテ
11.あんこくねこぐんだん
12.AM FANCLUB
13.リンカーネーション
14.どこまでもツヅク色
15.すすすす、すき、だあいすき
 
 

1.REI'S MEDICINE

 

http://www.youtube.com/watch?v=uUm9H51KkZ4
 
 コンテスト受賞には縁がないと思われてきたアンディー・メンテだったが、このPVはテックウィン誌コンパク2003年9月号にて、銅賞を受賞している(テックウィン誌コンパクでは、ゲーム作品だけではなく、ネットコンテンツ全般のアマチュア作品を募集していた)
 アンディー・メンテのゲーム性は、その未精製さゆえに多くの支持を得ることはなかったが、初期からそのBGMはフリーゲーム愛好家の間でも高く評価されていた。
 

あんでぃー・めんて・だいすき
収録アルバム
"あんでぃー・めんて・だいすき"
 この「REI'S MEDICINE」をはじめ、アンディー・メンテのボーカル曲の多くを歌っているのがREI。この曲では、そのREIをタイトルにしている。テクノを基調にしながらも、和太鼓をモチーフとしたパーカッションが楽しい。
 浮き沈みの激しいアルバム「あんでぃー・めんて・だいすき」の中で、もっとも安定感のある曲だが、その詞の世界は「朝マック」「シーチキンライス」など生活感あふれるもの。しかし、当時の世相を反映した「武力行使」という言葉を忍び込ませるなど、一筋縄ではいかない歌詞となっている。
 この曲で何度も連呼される「00-6435p」という錠剤は、ゲームでは胃腸剤ではなく、精神安定剤として登場する。「アイラム・イヴ」という医療シミュレーション・ゲームでは、患者の一人としてREIが出演しているが、彼女に00-6435pは絶大な治療効果を持っている。
 「腹痛」もアンディー・メンテの重要キーワードである。楽曲「教祖まゆみ様誕生」(アルバム「ばかばかばかの魔法」収録)や、小説「[rakuten:book:12989206:title]」で、それは主題のひとつとなっている。
 このPVの後半ではなぜか宇宙船が出てくる。この唐突さとSF志向もまた、アンディー・メンテらしさといえるだろう。
 ただの良質な楽曲ではなく、いたるところにアンディー・メンテというサークルの独自性が織り込まれた曲だ。
 アルバム「あんでぃー・めんて・だいすき」に収録。
 
 

2.キューティーライダー

 

http://www.nicovideo.jp/watch/sm2821732
 
 2003年に公開された「キューティーライダー」という自主制作アニメは、全27話となっているが、そのうち作られたのは9話分のみであり、公開順もバラバラだった。多くのアンディー・メンテ作品と同じく、このアニメは「作りたい部分だけを作った」未精製作品である。

キューティーライダー
収録アルバム
"キューティーライダー"(廃盤)
 
 このOPはネットでは公開されず、サントラ「キューティーライダー」に特典として収録されたものである。
 「QTR」と略されることの多いこの作品は、大空明日香というメガネをかけた地味な女性が、キューティーライダーというスーパーヒロインに変身して、世界平和のために活躍するという内容だ。アリスソフトの「超昂天使エスカレイヤー」を連想されるかもしれないが、この企画「NEW SPRING」は女性色が強いため、キューティーライダーはセクシーキャラではなく、自称おしゃれ泥棒である。
 
 このスタッフロールに出てくる名前の多くは、ジスカルドの変名である。「桜死美(さくらしすみ)」もその一つで、この頃から曲のクレジットで「jiscald」ではなく「sismi」を用いることが多くなった(もちろん、このスタッフロールには、実在するアンディー・メンテの他メンバーも登場している)
 そんQTRのOPとして作られたこの曲のアレンジは、ボーカルのガイドメロディが耳に障るが、独特の疾走感が心地よい。特に終盤は、彼ならではの劇的な展開を見せる。
 サントラ「キューティーライダー」では、フルバージョンを聴くことができるが、現在は廃盤(2009/7/24現在)
 
 

3.Train(QTR第5話より)

 

http://www.youtube.com/watch?v=DAuP9mc0E48
 

キューティーライダー
収録アルバム
"キューティーライダー"(廃盤)
 全27話と銘打ちながら、面白そうなシーンのみ制作されたのが「QTR」だが、この第5話は本筋にまったく関係なく、「Train」という曲のPVとして作られた意味合いが強い。決して、5番目に公開されたわけではなく、QTRとして制作された9話の中では、最後に公開されたと記憶している。
 この「Train」は、きわめてヒップ・ホップ色がこい。もともと、テクノをバックボーンとしたジスカルドだが、ゲーム「クレイジー・コロシアム」あたりから、世界観にヒップ・ホップ色を導入するようになった。
 この携帯の待ちうけ画像のキャラは、ゲーム「ピンブル」に出てくる。このように熱心なファンにしかわからない要素が「QTR」はふんだんに盛りこまれている。
 「QTR」というアニメは、断片的に作られているからこそ、ジスカルドというクリエイターが何を作りたかったのかを知ることができる作品だ。
 
「キューティーライダー」再生リスト
 
 

4.World is Pink!

 

http://www.youtube.com/watch?v=sFHBGBVJbqg
 

ばかばかばかの魔法
収録アルバム
"ばかばかばかの魔法"
 「QTR2」のOPとして制作された曲。なお、QTR2という作品は、このOP以外に存在しない。
 開放感あふれるイントロにあわせて、三人のキャラが一枚絵で登場する。はっきりいって、これを見せたかったためにアニメ化したのだろう。後半からは、QTR1でのシーンが使いまわされている。
 このヴァージョンは、通常のアニメOPと同じく、90秒きっかりに作られていて、ミュージシャン泉和良としての意地が感じられる。
 ただ、この曲はフルバージョンのアレンジをぜひ聴いてほしい。
 もともと、テクノのミニマム・ミュージックに強い影響を受けた彼は、この曲ではそれぞれのヴァースで使われたパーツを進行とともに重ねあわせるという構成をとっている。このような手法は、他にゲーム「アールエス」のOP「永い夜が明ける」(CD「R.S.1」に収録)でも聴くことができる。
 
 この「World is Pink!」のサビの部分では、REIボーカルにエフェクトをきかせて、まるで楽器の一つのように演出している。このような手法が、ボーカロイド鏡音リン」をすぐに使いこなし、四日連続で新曲をアップしたという「ジェバンニp伝説」を可能にしたのだろう。
 フルバージョンはアルバム「ばかばかばかの魔法」に収録。
 
 

5.I wish

 

http://www.nicovideo.jp/watch/sm5219979
 

クロニクル
収録アルバム
"クロニクル"
 ジスカルドの作風を一言でいってしまえば「時空をこえたロマンティズム」である。そのロマンのためならば、彼にとって、性別や物理距離、時間などは取るに足らないものなのである。
 ファンタジー世界でも、宇宙を舞台にしたSFでも、東京の品川区でも、長野でも、そのロマンをいだき続けたことが、彼のもっとも偉大な才能なのだ。
 このロマン至上主義が、多くの作品を未精製のまま公開する結果を招いたわけだが、それとともに多くの女性ファンの心をひきつけることになった。
 
 自伝的小説「[rakuten:book:12989206:title]」では、彼がフリーウェアゲーム作家として、いかに生計を得ようとしたかが語られている。もともと「ボーイズ・ラブ」文化への理解があった彼は、18禁ボーイズラブ作品をシェアウェアとして通販することにより、生計の足しにしようと考えた。女性ファンは通販に慣れており、ゲーム性の優れたボーイズラブ作品は希少であったため、勝算があると彼は判断したのだ。
 こうして、制作が進められたのが「自給自足」であった。もともと、それは彼のほとんどの作品で使われたDelphiではなく、NScripterによる育成シミュレーションゲームとして公開される予定だった。しかし、制作作業は難航し、結局、ジスカルドは「自給自足」を使い慣れたDelphi製によるフリーゲームとして公開することにした。
 フリーゲーム愛好家は男性の割合が高いため、「自給自足」のゲーム性の高さは評価されたが、予期せぬボーイズ・ラブ展開は多くの反発を招いた。しかし、少数派であった女性愛好家は、このアンディー・メンテの試みを歓迎したのではないか。
 
 その「自給自足」のシェアウェア化断念の代わりに有料ソフトとして作られたのが、この曲を主題歌とした「I wish」という18禁ノベルアドベンチャーである。これはNScripterで制作されていた(現在は販売終了)
 おそらく、そのノベルアドベンチャーの出来に自信がなかったのだろう。だから、自身の得意な音楽とアニメによるPVをOPとして用意したのだ。
 その経緯のせいか、この曲はゲーム内容とほとんど関係のない、質の高い楽曲になっている。
 個人的には「たぎりきらめく」というフレーズが素晴らしいと思う。このような詩的なフレーズをピタリとはめさせることに関しては、生粋のロマンティスト、ジスカルドに勝る者はいない。
 
 こうして、NScripterによるやりこみゲームの制作を断念した彼だが、それはDelphiによるゲーム画面のデザインをさらに追求させる結果を招いた。女性ファンを意識してか、「自給自足」以降の作品では、ゲーム画面のボタンにも彩りを添えるようになる。
 その試みは「怪盗プリンス」では動作不安定などの不具合をもたらしたが、それを経たからこそ、「銀河迷宮宝物」「アイラム・イヴ」、そして「アールエス」などの、他者の追随を許さないゲームデザインを構築することができたのだ。
 また、この頃からBGMも大きく変化している。「自給自足」と「I wish」の楽曲は、サントラ「クロニクル」に収録されているが、このアルバムは安らかな睡眠をもたらすBGMとして個人的に愛聴している。
 この曲を収録したアルバム「クロニクル」は、他にも「自給自足」のタイトル曲である「誰もいない浜辺」のOPがおさめられているので興味がある方は聞いてほしい。聴き心地の良さは彼のアルバムの中でトップクラスだと思う。
 
 

6.ばかばかばかの魔法

 

http://www.youtube.com/watch?v=HL_Op3NE_9k
 

ばかばかばかの魔法
収録アルバム
"ばかばかばかの魔法"
 2004年、生活費が困窮し、ガスを止められたジスカルドは、その打開策としてオリジナルアルバムを販売することを思いついた。そんなバカけた理由で制作されたアルバム「ばかばかばかの魔法」は、10曲+ボーナストラックを収録し、当時の彼の生活を切り取った、まさに人生のサウンドトラックというべき質の高い楽曲集となった。
 PVの意味不明な誇大広告に首をかしげた人でも、この曲の持つキャッチーなサビには心を奪われるはずだ。
 この前半で「おしまいだ、もうおしまいだ」と歌っているのがジスカルド本人である。決してうまいとはいえないボーカルだが、彼自身が歌うことに意味がある。アルバム「ばかばかばかの魔法」では、この曲を含めると、8曲で彼のボーカルを聴くことができる。
 このPVだと、ヒップ・ホップ風に「くそったれ」とつぶやく彼の歌声はタワゴトのように聞こえるかもしれない。しかし、フルバージョンでは、執拗なほど「くそったれ」と繰りかえされ、サビになかなかたどり着かない。大宇宙に思いをはせるロマンを抱きながらも、ガス代すらも払えないという現実。そのギャップが「ばかばかばかの魔法」というアルバムのテーマとなっている。
 
 個人的に、アンディー・メンテの最高傑作はなにか、とたずねられたら、この「ばかばかばかの魔法」というアルバムだと答えるだろう。「[rakuten:book:12989206:title]」も読んだし、「アールエス」もスタッフロールまでプレイしたが、このアルバムの魅力にはかなわないと思う。
 アルバム「ばかばかばかの魔法」のタイトルチューンであり、一曲目に収録。
 
 

7.Merry X'mas Miss.Y Our life is perfect

 

http://www.youtube.com/watch?v=A2z1O1lQJrM
 

ばかばかばかの魔法
収録アルバム
"ばかばかばかの魔法"
 ロマンティストであるジスカルドにとって、クリスマスというのは決して無視できないイベントであるらしい。このほかにも「メリークリスマス アンディーメンテ」や「SUNSHINE X'MAS」などのクリスマスソングを作っている。
 この曲は、その中でもっとも装飾が少ないアレンジで、当時の生活が歌われている。彼にとって、アンディー・メンテとは他者と自分をつなぐ唯一といっていい絆であり、そのために、彼はゲームなどのコンテンツを創作し、それをネットという海に放流し続けていたのだ。
 数多くのハンドルネームを使いわけたり、「しすみ」という女性名をなのりだすなど、変身願望が強い彼だが、この曲では一人の男として率直な愛を歌っている。その真摯さはいつ聴いても胸をうつ。
 アルバム「ばかばかばかの魔法」の7曲目に収録。
 
 

8.Special Gamer

 

http://www.youtube.com/watch?v=gCDgldsv5So
 
 アルバム「ばかばかばかの魔法」で重要な曲のひとつが「教祖まゆみ様誕生」である。コミカルなタイトルだが、その音楽性は硬派なハード・ロックであり、サビの部分では韻のふんだ英語を聴かせてくれる。
(なお、アルバムには、この「教祖まゆみ様誕生」のアニメPVも収録されているが、ネット上では未公開)
 

Mourdred
収録アルバム
"Mourdred"
 その曲で自信を得たのか、彼はLUPIAというハードロック・ユニットを結成する。その後「まゆみ王子クエスト」という短編動画劇場で、LUPIA名義の楽曲となった「catlemutyration」の本人出演のPVが公開された。段ボール製のギターを壊しまくるという狂った映像が面白かったのだが、今では公開停止。
 
 それに続いて「まゆみ王子クエスト」で公開されたのが、この「Special Gamer」のPVである。こちらも本人が出演している。これが、奇才ジスカルドの素顔である。
 生活感にじみでる部屋をバックに、ゲームセンターのハイスコアにかける男の子の情熱が歌われる。このような題材で、見事な歌詞に仕上げるジスカルドのセンスは、やはり他者の追随を許さないものだ。
 個人的には二番の「降るメティオライトくぐりぬけていく その先で会おう約束のGAME」というフレーズがとても気に入っている。
 LUPIAの2ndアルバム「Mourdred」に収録。
 
 

9.牛乳戦隊ニューレンジャー

 

http://www.youtube.com/watch?v=yaBVQIhTqA4
 
 「QTR」に続く第二弾自主制作アニメ「牛乳戦隊ニューレンジャー」は、そのタイトルのとおり、くだらなさを売りにした内容である。その本編も、ボーイズラブ要素がおりこまれたりと、決して、万人にオススメできるものではない。
 もともと、ボーイズラブ路線に参入以前から、アンディー・メンテは変態的な作品を発表していた。その最たるものが「わんこ」というフリーゲーム。このゲームをプレイすれば、彼がボーイズラブ要素を取り入れた理由が、通販目的だけではないことがわかるはずだ。
 
 さて、このニューレンジャーは、10話のうち、1〜3話が一期、9,10話が二期として公開されている。二期では、ジスカルドは深く関与していないので、別作品と見ていいだろう。
 一期では、EDは歌詞があるものの、メロディーがないために、声優が好き勝手に歌っている。そのカオスさを愛せない人は、このニューレンジャーを楽しめないと思う。
 個人的に大好きなのが「第三話 苺ミルクはハネアリ誘う」。技発動→敵撃破→エンディングを一曲のBGMですませるという投げやりな展開が、身悶えするほどたまらない。
 なお、第1話〜第3話の次回予告で霜月師走(じゅういち・じゅうに)を演じているのが、ジスカルドにゲームにされたこともある美声の持ち主Kaska。完成度の高い次回予告と、集中力のカケラもない本編とのギャップが楽しい。
 ニューレンジャーのサントラは発売されていないが、アルバム「ばかばかばかの魔法」に、これらニューレンジャーの動画はすべて収録されている。
 
 

10.フレーフレー アンディーメンテ

 

http://www.youtube.com/watch?v=cMcXEttIbFY
 

あんでぃー・めんて・だいすき
収録アルバム
"あんでぃー・めんて・だいすき"
 こちらは、「ばかばかばかの魔法」より二年前に制作されたアルバム「あんでぃー・めんて・だいすき」より。
 2002年(だったと思う)もはや恒例行事であったホームページ閉鎖騒ぎのあとに復活したアンディー・メンテのトップページで、このPVが突拍子もなく公開された。自分で「僕らのアンディー・メンテ、がんばって!」と歌うこの楽曲を聴いて、多くの人は「ジスカルドは狂った」と考えた。
 僕自身、この曲を受け入れるのに一ヶ月ぐらいかかったが、今ではアンディー・メンテ賛歌として楽しんで聴いている。
 
 この曲の「誤字脱字は勇気の支え」というフレーズの通り、アンディー・メンテ作品は誤字脱字にまみれていた。そのせいで「中学生が作ったゲーム」と批判されることが多かった。その人たちは、今、彼が小説家になったことをどう思うだろう。
 当時の彼の文章は、完成度は高くなかったが、彼にしか書けない面白さがあった。展開が飛躍しすぎたフィクション作品には辟易していたが、彼の日記は本当に面白かった。僕のクリエイトについての考え方は、半分ぐらい彼から教わったといっていい。
 
 この曲が収録された「あんでぃー・めんて・だいすき」は浮き沈みの激しいアルバムで、みずから歌うことで生きる活力をえたかった彼の思いが反映されている。それらの歌詞は冗談のようであり、痛切であり、魂をゆさぶるものである。
 次の「暗黒猫軍団」と表裏一体の曲。
 「あんでぃー・めんて・だいすき」では、2曲目に収録。
 
 

11.あんこくねこぐんだん

 

http://www.youtube.com/watch?v=Dk8ORw59YQQ
 

あんでぃー・めんて・だいすき
収録アルバム
"あんでぃー・めんて・だいすき"
 アルバムでの表記は「暗黒猫軍団」と漢字になっている。アルバム「あんでぃー・めんて・だいすき」の3曲目に収録。
 ファンにとって王子様だったジスカルドが乱心したかのような歌詞だが、その直接的な内容は彼でなければ歌えない鋭さを持つ。
 この「暗黒猫軍団」とは何だろうか。負の感情を撒き散らすように、ありったけの言葉で吐き捨てて、この曲は歌われる。
 特に、終盤の「死にたい」の連呼は、この人でしか歌えない。「死にたい」と歌う人は多いが、その後に泣き崩れたのはこの人だけだ。
 この曲には個人的思い入れが強い。鬱状態だった頃に、この曲はとてつもない励みになった。死にたいけれど、死にきれない精神状態にあるとき、この曲はどんなメッセージよりも胸に響いた。
 救いのない曲ではあるが、その感情を歌ったことにより、この曲は多くの人を救ったのではないかと思う。
 
 

12.AM FANCLUB

 

http://www.youtube.com/watch?v=vppUqGuGSYI
 

ばかばかばかの魔法
収録アルバム
"ばかばかばかの魔法"
 フリーゲーム制作を中心にした活動したアンディー・メンテは、その特異性から、多くの人に敬遠される一方で、熱狂的なファンを生んだ。
 たとえば、コミック・マーケットにアンディー・メンテが出展しても、むしろ、ファン有志による「パンティー・メンテ」のほうが盛り上がっていたことがある。ボーイズラブ要素をもりこんだアンディー・メンテ作品をプレイした女性ファンにより、それらの二次創作は(あまり表に出ることはないが)活発に行われた。
 しかし、そのような女性ファンばかりではなく、彼の創作活動は多くの男性ファンを生んだ。そんな彼らに向けて作られたのが、この「AM FANCLUB」である。
 
 この曲では、アンディー・メンテファンの名が続々と出ている。中でも有名なのが、ステッパーズ・ストップのポーンだろう。彼は3分ゲーコンテストで優勝するなど、広く知られるフリーゲーム作家のひとりだ。ほかにも、「ニューレンジャー」二期のEDを作曲したazeなど、ただのファンにはとどまらない、クリエイティブな才能の持ち主が、ジスカルドのもとに集まったのだ。
 この楽曲では、間奏でのジスカルドなりにがんばったサービスシーンなど、そんなコミュニティに向けた愛情がたっぷりこめられている。
 アルバム「ばかばかばかの魔法」の6曲目に収録。
 
 なお、これらアンディー・メンテのコミュニティによる活動をゲームとしたのが「品川魔人学園」というADV。無意味にテキサスな内容だが、アンディー・メンテの遍歴をかなりくわしく追うことができる。
 今では多くのコンテンツが公開終了になっているアンディー・メンテだが、その足跡を追うならば、「品川魔人学園」をプレイし、「[rakuten:book:12989206:title]」を読んでみるといい。そうすれば、彼の抱いていた「フリーウェアゲーム・スピリット」が何であるかを知ることができるだろう。
 
 

13.リンカーネーション

 

http://www.nicovideo.jp/watch/sm1886358
 

リンのぜんぶ!
収録アルバム
"リンのぜんぶ!"
 2007年12月27日に、「初音ミク」に続くボーカロイド鏡音リン・レン」というソフトウェアが発表された。
 このとき、翌日から四日連続で、鏡音リンのボーカルによるオリジナル楽曲を発表した者がいた。
 鏡音リン初音ミクよりも使いにくいという評判の中、彼が公開した作品の鏡音リンは、曲の調和を乱すことなくボーカルをとっていた。
 その作者は「X-FILE」と名のっていたが、ユーザーはその仕事の速さからジェバンニp」と呼んだ。やがて、彼自身もそう自称することになる。
 このジェバンニpが、アンディー・メンテのジスカルドであることを連想した人はどれぐらいいるだろうか。僕のように、言われてみればそうだ、と後から納得した人がほとんどではないだろうか。
 この「X-FILE」、当初の評判はよくなかった。何しろ、発売直後に「りんりんりんってしてくりん♪」という彼女のテーマ曲を意識した作品を発表したのである。今から鏡音リンによるボーカル曲を制作するクリエイターにとって、それは迷惑千万なものだった。そもそも、ボーカロイドのクリエイターには独自のコミュニティが形成されていたのに、その「X-FILE」なる人物は、どこからやってきたのかわからない得体の知れない存在だったのだ。
 このX-FILEの楽曲が正当に評価されたのは、しばらくたった後のことである。ユーザのなかには、彼を自分の領域を荒らした盗賊のように感じた者が少なくなかったようだ。
 
 そんな初期四曲の中で個人的に気に入っているのが、この「リンカーネーション」。鏡音リンの名をかけたそのタイトルは、発売日に向けて入念に準備されていたことがわかる。エコーをきかせたリンの使い方は、アンディー・メンテ作品のREIボーカルのアレンジに酷似している。
 これら、ジェバンニpの楽曲の多くは、アルバム「リンのぜんぶ!」に収録されている。
 
 

14.どこまでもツヅク色

 

http://www.nicovideo.jp/watch/sm2598525
 

リンのぜんぶ!
収録アルバム
"リンのぜんぶ!"
 発売日から四日連続でオリジナル曲を発表したあと、X-FILEは去った。当初は、荒らしのような存在と見なされていた彼だが、その楽曲は次第に評価を得てくるようになる。
 そして、1ヵ月後、X-FILEは復帰する。他者に名づけられたジェバンニpをみずから名乗るようになって。
 こうして、今では安定した支持を受けている彼だが、ジェバンニp名義の中で、個人的にもっとも好きな楽曲がこの「どこまでもツヅク色」。
 もともと彼の曲は「歌いやすさ」を重視していないのだが、この曲のメロディは誰もが口ずさめる普遍性を持っている。
 曲だけではなくPVも素晴らしい。動きは少ないながらも、歌詞の情景を見事に表現している。
 
 

15.すすすす、すき、だあいすき

 

http://www.nicovideo.jp/watch/sm2651481
 

リンのぜんぶ!
収録アルバム
"リンのぜんぶ!"
 ジェバンニpの中でもっとも人気が高いのがこの曲だろう。ユーザによる手書きPVが人気を博し、さらにかたほとりpによるアレンジが作られ、広い支持を得ることになる。
 ジェバンニpのアレンジはあまり歌いやすさを考慮にしておらず、生の声には向いていないのだが、かたほとりpのアレンジの誕生により、この曲のカラオケは爆発的に広がった。
 ニコニコ動画ボーカロイド動画の再生数は、熱狂的ファンの工作もあって必ずしもあてにならないのだが、この曲はYoutube鏡音リン曲としてはトップクラスの人気をほこる。
 気づけば、英語バージョンも登場し、世界中の人に歌われるようになっている。
 「あんこくねこぐんだん」を知る者として、彼がこのような楽曲が発表する日がくるとは思いもしなかったが、あらゆる手法を模索した彼だからこそ、独特のポップさを確立することができたのだろう(この曲の作詞のクレジットは別人だが)
 
 
ばかばかばかの魔法
"R.S.2"
 彼の作品の中は、ネット上で未公開のものが少なくない。
 例えば、ファンの間で人気の高い「hebi the hebi」にボーカルをつけた「エイジオブアスa.k.a."ぼくらの時代")」は、CD「R.S.2」に収録されている。
 この曲は、初期から中期にかけてのアンディー・メンテのテーマソングといってもさしつかえのない曲なので、ファンならば、ぜひとも聴いてほしい曲である。
 
 
 今回は、アンディー・メンテのジスカルドであり、ジェバンニpであり、泉和良である彼の楽曲の中から、ボーカル曲に限定して紹介した。ただし、これらは、数多くの作品を世に放った彼の創作物のごく一部にすぎない。
 
 ぜひ、これらの楽曲に興味を持ったならば、彼のCDや小説を手にしてほしい。それはすべての人に支持されるものではないだろうが、確かな光が宿っている作品である。
 
 その光に触れたとき、あなたは、心の内に脈々と流れる生命のせせらぎを耳にすることができるはずだ。