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2016-12-31

昼11時に思い立って冬コミ(C91)で島本和彦同人誌を入手してきた

 

 

 これは、2016年12月31日、川崎市多摩区登戸在住の男が、昼11時に思い立って、東京ビッグサイトのコミックマーケット(C91)に行き、島本和彦の同人誌を入手してきた日記である。

 

【目次】

(1) 2016年下半期マイブーム大賞

(2) 俺のコミケ奮闘記(時間つき)

(3) 島本「シン・ゴジラ」新刊本感想

 

 

(1) 2016年下半期マイブーム大賞

 

 大晦日は一年を総括する日である。

 向ヶ丘遊園駅南口近く、僕の家から徒歩8分ほどの喫茶店で、モーニングセットを食しながら、僕は2016年のマイブーム(死語)を振り返ってみた。

 僕が2016年にハマったもの、いわゆるマイブーム大賞に選んだのは次の2つ。

 

上半期 ピンク・フロイド(イギリスのロックバンド)

下半期 アオイホノオ(島本和彦の自伝風マンガ)

 

 ピンク・フロイドについては別記事で書く。

(石坂敬一がこの大晦日に亡くなったことだし)

 

 下半期の「アオイホノオ」についてだが、10月7日に「シン・ゴジラ」を見るまで、僕はそのタイトルすら知らなかった。

 

連休二日目、映画二本見るなど -  esu-kei_text

 

 庵野総監督の特撮映画「シン・ゴジラ」を見た僕は、心揺さぶられるほど感動し「アンノすげぇ」と、アニメ「エヴァンゲリオン」のテレビアニメ版、新劇場版、漫画版を一気に鑑賞した。

 それでも、僕のアンノ熱は冷めることなく、その嫁さんである安野モヨコの「監督不行届」を読むに至る。

 

監督不行届 (Feelコミックス)

監督不行届 (Feelコミックス)

 

 この「監督不行届」はダンナ庵野秀明との日常をつづったエッセイマンガだが、その中に島本和彦の名前が出てきたことに僕は驚いた。

 そう、安野モヨコの「監督不行届」を読むまで、僕は島本和彦と庵野秀明が大学の同期生だったことも知らなかったのだ。

 

 こうして、僕は「アオイホノオ」を読み始めて、どっぷりとハマることになる。

 

 さて、12月14日に大学のサークルOB会のようなものに参加した。

 参加者の半数が結婚しているという状況で、自分の現況を話したくない僕がネタにしたのが、島本和彦である。

 夏コミで田中圭一と隣のブースであったことや、「ライオン・キングは許しても、田中圭一は許しません」という手塚るみ子のキャッチコピーについても語ったぐらいだ。

 僕は10月7日に「シン・ゴジラ」を見るまで、何も知らなかったのにかかわらずである。

 ところが、困ったことに、大学後輩のMくんは夏コミの島本同人誌「アンノ対ホノオ」を入手したという。

 はたして、夏コミ当日に並んで買ったのか通販で購入したのか、それを僕がたずねなかったのは、ただ単に嫉妬しただけである。

 もし、後輩Mくんに会話の主導権をにぎられてしまえば、僕が夏コミ時点では何も知らなかったことがバレてしまう。

 ネットの情報では、同人誌の中身までは知ることができない。

 それを打ち消すべく、僕は付け焼き刃の知識を披露し続けたのである。

 Mくん、あのときは悪かった、許せ。

 

 このように、僕は夏コミをめぐる、島本和彦の「シン・ゴジラ」同人誌騒動を、ツイッターまとめで追体験したにすぎない。

 

[2敗でも]島本和彦氏、敗北宣言[1敗だ] #シンゴジラ [発声上映配信] - Togetter

 

 しかし、そんな僕にも当事者になれるチャンスがある。

 島本和彦は冬コミにも「シン・ゴジラ」関連の同人誌を出すのだ。

 その日は、冬コミ最終日、つまり、12月31日なのだ。

 昼11時になって、ようやく僕はこの結論にたどり着いた。

 行くべきか、いや、行くべきだ。

 

 ひとまず、島本和彦公式ツイッターを見てみる。

 

 

 島本和彦「列もそんなにできていません(笑)」

 ……これは、まだ間に合うのではないか?

 

 ちなみに、前回夏コミでは、待機列がとんでもないことになり、12:55には完売していたらしい。

 

↑「ザ・ツイート・オブ アンノ対ホノオ」前編より

 

 サービス精神旺盛な島本和彦のこと、今回は売り切れないように大量に持ち込んだに違いない。

 ありあまるほどに。

 

 この2016年、島本マンガはおおいに楽しませてもらった。

 今では「アンノがーヤマガがー」と偉そうなことを書くようになったが、それは島本マンガのおかげである。

(さらにいうと、庵野総監督「シン・ゴジラ」を見た衝撃のせいなのだが)

 

 玄人には「コミケをなめるな!」とバカにされるかもしれないが、思い立ったのだから仕方ない。

 コミケ当日昼11時過ぎ、僕は男一人で冬コミで島本同人誌を入手すべく、喫茶店を後にしたのだった。

 

(2) 俺のコミケ奮闘記(時間つき)

 

 では、スマホで撮った写真のexif情報をもとに、昼11時に思い立って冬コミに向かった男が、どれぐらいの時間をかけて、目的の島本同人誌を入手したかを書いてみよう。

 

 

 小田急線向ヶ丘遊園駅の改札に入ったのは11時27分。

 11時34分発の新宿行急行に乗ることにする。

 なお、Googleマップの乗換案内は参考にしなかった。

 登戸に住んでから8年たつ僕の経験は、Googleマップの予測を軽く凌駕するからだ。

 

 向ヶ丘遊園駅から新宿駅までは約23分。

 12時前には新宿駅に着いた。

 迷うことなく、JR埼京線のホームに向かう。

 

 

 そして、12時7分、新宿駅発りんかい線直通の新木場駅行の電車に乗る。

 

 コミケ当日とはいえ、昼11時をすぎているせいか、電車内はそれほど混んでいない。

 座席は埋まっているが、吊革を持つほどではないレベルだ。

 

 

 目的地であるりんかい線国際展示場駅の改札を出たのは12時38分。

 写真では混み合っているように見えるが、コミケ専用迂回ルートを、足を止めることなく進むことができた。

 

 ここに来るのは数年ぶりだが、周囲を見わたすほど目新しいものがあるわけではない。

 人の流れに乗りながら、東京ビッグサイトを目指す。

 

 

 12時44分、コミケ会場に到達。

 しかし、入口付近にコスプレ広場があったせいか、人の流れが乱れていた。

 いつの間に、こんな配置になってしまったのだろう。

 なお、コミケカタログは購入していない。

 島本和彦ツイッターの「ウラ・シマモトは東7ホール」という情報だけが頼みである。

 

 

 12時47分、東京ビッグサイト内に入る。

 コミケ体験をした人は知っているだろう。

 ここから目的のブースに行くのが大変なことを。

 しかも、東7ホールは入口から相当遠い場所にあった。

 

 会場内にはコスプレした人がところどころにいるが、足を止めるわけにはいかない。

 記憶に残っているのはかわいいコスプレよりも女装コスプレばかりである。

 じっくり見ようとしなかったせいだろう。

 もちろん、トイレに行ったり、飲み物を買ったりはしない。

 とにかく、歩くことである。

 脇道にそれたら、とんでもない時間ロスになってしまう。

 

 このように東7ホールに着いた僕だったが、島本和彦のブースがどこらへんにあるかは未調査。

 思いつきで来たせいである。

 番号だけを頼りにひたすら進む。

 やっと宣伝POPが見えてきたものの、待機列は外にあると知らされて(他の人がそう言われたのを又聞きして)出口に向かう。

 

 

 入場してから20分、昼1時9分に島本和彦ブース「ウラ・シマモト」の待機列に並ぶことに成功する。

 先の夏コミでは大混乱の果てに「待機列の最後尾に並ぶ待機列」もできていたらしいウラ・シマモト だが、今回はきちんと統率がとれていた。

 スタッフが重点地点として、管理を徹底したからであろう。

 スタッフによると夏コミ既刊本「アンノ対ゴジラ。」も在庫に余裕があるとのこと。

 12月14日に大学後輩Mくんに会ったときに「アンノ対ホノオを読ませて」と喉から手が出るほど頼みたかったのに、先輩の意地で口にしなかったことを後悔していたのだが、これでMくんにも知ったかぶりできるようになったのである。

 やったぜ。

 

 

 しかし、サプライズは待機列に並んですぐにやって来た。

 ナマ・シマモトこと島本和彦本人が様子を見に来たのである。

 スタッフに「問題ないか?」と声をかける姿は、まさにナマ・シマモト。

 もちろん、 ナマ・シマモトに僕ごときが声をかけるわけにはいかない。

 ゴジラ本だけではなく、この冬コミでは「ユーリ・オン・アイス」の二次創作本も出しているのだ。

 おかげで、待機列には女性の姿もちらほらいた。

 まあ、僕の前に並んでいたのは、バッグのファスナーが空いていた男一匹オタクだったんだけど。

(僕も男一匹オタクだが、その不用心さには、声をかけたほうが良かったのかもしれない。でも、下手に声をかけると「あなたが盗んだんでしょう!」と怒鳴られるかもしれないので、僕にできることは無言で彼をガードすることだけだったのだ、と言い訳しておく)

 

 閑話休題、とにかく、ナマ・シマモトを目の前にした僕だが、何もすることができなかった。

 過密スケジュールで疲労困憊な島本和彦に、待機列に並んでいるだけの僕が声をかけるなんてマナー違反だろう。

 ただ、ナマ・シマモトの襲来に気づいていなさそうな人が多かったのが想定外だった。

 ウラ・シマモトの待機列に並んでいるのに、島本和彦を知らないなんて、そんなバカな、と思われるかもしれないが、まわりの様子はやけに落ち着いていた。

 もし、連れがいたら、僕は島本和彦に聞こえよがしにこんなことを話していただろう。

 

「おい、あれ、ナマ・シマモトじゃないか?」

「ナマ・シマモトってなんやねん。島本センセに失礼な」

「スタッフをねぎらっているみたいだけど、意外と列が少ないのにガッカリしてるのかな?」

「なんでそう考えるねん。並んでいる人が困ってないか、島本センセみずから確認してるんやろ? 優しいヒトやん」

「まあ、俺の前で売り切れたりしたら、俺は島本和彦をうらむだろうけど」

「昼11時に電車に乗ってノンビリ来たアンタにそんなこと言われたくないって。だいたい、アンタ、10月に『シン・ゴジラ』見るまで島本センセのマンガにまるで興味なかったくせに。偉そうなこと言わんといてや」

 

 と、島本和彦に聞こえる声量で話していたら、ナマ・シマモトに肩をポンとたたかれて「在庫はまだあるぞ、安心してくれ!」と例の口調で声をかけられたかもしれない。

 待機列での会話すらツイッターでネタにする島本和彦のこと、せっかく冬コミに来たのだから、おとなしく並ぶだけだったのはもったいなかった。

 せめて、並んでいる人には「あれがナマ・シマモトだ!」ということを伝える努力をするべきだったのかもしれない。

 

 

 なお、今回のウラ・シマモトのスタッフジャンパーは、おなじみの夏コミ扉絵をプリントしたもの。

 かなり気合が入っている。

 事前準備もきちんとやってきたのだろう。

 

 

 ついでに、そのスタッフが持っていた「ウラ・シマモト」の「最後尾ではありません」カンバン。

(カンバンというのは僕が適当につけた名称である)

 

 今回で91回目の同人誌即売会コミックマーケットは、その長年の経験をいかして様々な工夫がされている。

 初めて来た人はそんなオペレーションを体験するだけでも楽しめるだろう。

 

 

 そして、13時25分ぐらいに、目的の三冊をゲット。

 夏コミ既刊本一冊と、冬コミ新刊本二冊である。

 公式ツイッターで喧伝されていたとおり、ウラ・シマモトの売り子さんは手が早く、事前に渡されたカタログの番号を口にしただけで入手することができた。

 しかも五人体制だ。

 約20分並んだが、列の動きは早く、ナマ・シマモトの襲来などもあり、列を並ぶ退屈さを感じることはなかった。

 ひとまず、人のいないところまで移動し、記念撮影をした。

 なしとげたぜ。

 

 目的の本を入手した。

 あとは脱出するだけである。

 事前調査をせずに、カタログすら購入していない僕には、知っている人が出展していても、そこまでたどり着けるかどうかは難しい。

 それに、閉場時間までいると、帰りのラッシュの心配がある。

 

 

 こうして、13時40分に東京ビッグサイトを脱出成功。

 脱出ゲームなら「コングラチュレイション!」の文字がおどっている画面である。

 

 これまでの僕は、コミケではいつも企業ブースに寄っていた。

 僕のようなニワカ野郎でも楽しめるのが企業ブース。

 しかも、今回は春にアニメ化する「エロマンガ先生」の特設ブースがあったはずなのだ。

 この僕、実はひそかに(実にひそかに)「エロマンガ先生」を全巻そろえているので、特設ブースに行けば、きっと楽しめただろう。

 それ以外にも、来期以降のアニメ期待作を知ることはできたはずだ。

 島本和彦は50代にして「ユーリ・オン・アイス」の同人誌を本業の合間に書き、僕は30代にして企業ブースにも足を向けないのだ。

 なんという差であろう、これでは僕の人生がつまらないのも納得だ。

 2017年は島本和彦を見習って、もっと新しいことにチャレンジせねばなるまい。

 

 こうして、コミケ会場を出た僕だったが、入口のワナには気づかなかった。

 いつの間にか、コスプレ広場の通路に入っていたのである。

 じっくり観察すればいいと思われるかもしれないが、人の波が尋常ではなく、落ち着いて見ることはできやしない。

 

 

 とりあえず、「忍殺」ことニンジャスレイヤーのコスプレをしている人がいたので、歩きながらパチリ。

 二人いたのだが、両方が写った写真を撮ることはできなかった。

 足を止めるには輪の中心に近づかなければならず、そうなれば出ることが難しくなってしまう。

 期せずしてコスプレ広場の通路に入ってしまった僕は、いちはやくそこから脱出したかったのである。

 

 ようやくの思いで外に出る。

 国際展示場駅までの通路には、いつもの大道芸人さんたちが待ち構えていたのだが、それも無視である。

 そのときの僕の心境は「ストイックな俺、カッコいい」なのだが、今にして思えば「もったいない」としか言いようがない。

 せっかくのコミックマーケットに来たのだから、もっと楽しむべきであっただろう。

 

 

 国際展示場駅から、りんかい線に乗ったは13時50分ごろ。

 電車内は混んでおらず、悠々と島本同人誌を読むことができたぐらいである。

 「俺はエロ同人誌を入手したわけじゃないんだ」と堂々と電車内で同人誌を読む。

 そんなコミケもあるのである。

 おかげで、乗った電車が埼京線直通ではなく大崎駅止まりだということに気づかなかった。

 電車内が空いていたのはそのせいかもしれない。

 まあ、コミケ当日の国際展示場駅のホームには来た電車を見送るスペースなんてなかったのだけれど。

 

 

 14時32分、新宿駅を降りてアルタ前でパチリ。

(隣の時計を映そうとして失敗した)

 

 なぜ、自宅のある登戸ではなく新宿で降りたのかといえば、年末最後のミッションを

果たすためである。

 

 

 歴史的大爆死確定アニメ映画「ポッピンQ」を見るというミッションだ。

 なぜ、そんなミッションを自分に課したのかというと、2016年は前評判の良い映画ばかりを見てきたからだ。

 「シン・ゴジラ」「君の名は。」「この世界の片隅に」と、いずれも映画館で見る価値のあった傑作であった。

 しかし、それでは自分の映画観は育たない。

 たまにはダメな映画を見なければなるまい。

 そんな決意で、2016年最後の日に「ポッピンQ」を見ることにしたのである。

 「神作画のクソアニメ」としか言いようがないこの「ポッピンQ」感想については、別記事にて。

 

神作画のクソアニメ映画「ポッピンQ」徹底批評

 

(3) 島本「シン・ゴジラ」新刊本感想

 

 

 では、冬コミ(C91)で頒布された「ザ・ツイート・オブ アンノ対ホノオ」前編後編の感想を。

 ページ数は前後編とも50ページ。

 島本ツイッターによると、12月19日にゴジラ本のネームを作り始め、21日にゴジラ本二冊分の表紙を作り、22日に「ユーリ・オン・アイス」の最終回を見て感動し同人誌を作る決意を固め、24日にゴジラ本前編脱稿・後編ネーム完成、26日に後編完成・「ユーリ」ネーム開始、27日「ユーリ」ネーム完成、2日の完徹で29日朝に「ユーリ」本50ページ脱稿、という無茶苦茶なスケジュールである。

 この間の島本ツイッターをまとめたものがこちら。

【応援感謝】【ユーリ!!!】【ゴジラ】島本和彦氏 ユーリ on ICE に感動する #冬コミ31日東7a17aウラシマモト - Togetter

 

 12月19日から50ページ本を三冊出すなんて正気の沙汰ではないのだが、島本和彦は疲労困憊の表情で親指を突き立ててこう言うだろう。

 「これがプロのマンガ家だ!」と。

(ちなみに12月29日に印刷屋に出しても間に合うのは、島本和彦が毎回コミケに出している実績があるからで、フツーの人には許されない蛮行である)

 

 そんな過密日程で作られた、今回の同人誌。

 「島本側から見た、夏コミと発声可能上映会の真相」と宣伝しているが、別に「業界のウラを暴露した」内容ではない。

 

 精神的限界に追いつめられながらもツイッターをやめない島本和彦は「失言」とは程遠い人である。

 他人の迷惑になるような発言をしないことには定評があるのだ。

 それは、この同人誌でも同じである。

 

 では、何が書いているのか。

 まず、なぜ、マンガ版ホノオではなく、島本和彦でもなく、ドラマ版の柳楽優弥演じるホノオで「アンノ対ホノオ。」を描いたかの理由が語られる。

 

 

 屁理屈である。

 しかし、この屁理屈こそが、島本マンガの魅力であり、また弱点なのだ。

 

 例えば、マンガ版アオイホノオでは各回の終わりにホノオを叱咤激励するナレーションが書かれている。

 ホノオは作者の分身的存在だから、これは過去の自分を現在の自分が叱咤激励しているだけだ。

 その口調がハマる人はハマる。

 今回の同人誌は、逆にアニメ版ホノオが現実の島本にツッコむという構図なので、島本作品が好きな人は、そんなメタツッコミも違和感なくなじめるだろう。

 

 島本マンガの名言といえば「逆境ナイン」の「それはそれ! これはこれ!」や「燃えよペン」の「あえて寝る!」が有名だ。

 これらは屁理屈である。言い訳である。

 しかし、このような言い訳を力強く叫ぶことによって、ともかく登場人物は足を進めるのだ。

 それが前か後ろかはともかく。

 

 島本作品の魅力は、言い訳を誇らしく叫ぶ謎の屁理屈でキャラクターが走り出す「勢い」である。

 もちろん、これは欠点でもある。

 代表例が「無謀キャプテン」で、そのマンガは「掘った墓穴は自分で埋める!」という意味不明な屁理屈で、無謀なことにチャレンジしていく主人公を描いた無謀なマンガである。

 あまりにも無謀な展開に、作者も手が負えなくなり、短期連載で終了してしまったのは、ファンの間では有名だ。

 

 ともあれ、島本作品のキャラクターは、屁理屈ではあっても行動にきちんと動機がつけられている。

 「なぜ、このような行動がされたか?」ということがきちんと説明されているのだ。

 それは、島本和彦本人にもいえることで、後でキャラにツッコミを入れてしまうぐらい無謀なことをやっているにも関わらず、きちんと行動に動機づけされているのである。

 だからこそ、「シン・ゴジラ」という観客を圧倒する映画に対し、島本は早くからツイッターで発言をすることができたのである。

 普通の人ならば「この映画はスゲえ!」で終わっているところを、きちんと説明できたのだ。

 島本和彦がツイッターで「失言」をしないのも、自分の発言に理由づけしてからしゃべっているのだ。

 ただ、その理由づけが時として強引すぎるだけなのだ。

  

 さて、今回の同人誌は、前後編と分かれているが、前編は「混乱の夏コミ」までを描いたもので、後編は「発声可能上映会」の模様をつづったもの。

 

 前編でもっとも面白かったのは、島本和彦のご子息である。

 

↑気軽なノリで参加した島本ジュニアだったが

 

↑コミケ史上まれに見る混乱の犠牲者に

 

 大変申し訳ないが、この場面にはメチャクチャ笑った。

 そりゃまあ、ひざまづいて涙ぐむしかできないだろう。

 熟練のコミケスタッフですら最後尾がわからないという、前代未聞の混乱だったのだから。

 

 いっぽうの「発声可能上映会」の様子を描いた後編ではそれが「無茶ぶり」であったかを執拗に語られる。

 

 

 「シン・ゴジラ」とはまったく無関係な島本和彦が、「発声可能上映会」のスペシャルゲスト待遇にされてしまったのだ。

 それを可能にしたのは庵野秀明の政治力(東宝の上の人を動かす力)。

 「庵野、俺の負けだ」と観客の前で崩れ落ちることが期待された場に、島本は出向かなければならないということだ。

 なにが庵野をそこまで駆り立てたのか。

(自分をネタにしたマンガ「アオイホノオ」への仕返しかもしれないけど)

 

 それでも、島本和彦は逃げなかった。

 さすがプロの漫画家である。

 そして、上映後のインタビューで、観客を巻き込みながら「アンノ、俺の負けだ!」と叫び、発声可能上映は終了するはずだった。

 

  

 ところが、その後に現れたのは、庵野本人。

 島本には知られていなかったサプライズ演出である。

 これに、島本は喜んだかといえば、そうではない。

 メチャクチャ動揺してしまったのだ。

 「言い訳番長」の異名を欲しいままにする島本でも、この流れでは「自分の負け」を認めなければならない状況だった。

 

 

 しかし、庵野は恐ろしく機転をきかせた応答で、島本を立たせたのだ。

 この様子はネットで中継もされているし、ツイッターでもまとめられている。

 これぞ友情といいたくなる、素晴らしいシーンになったのだ。

 

 

 その後の集合写真で、庵野だけウルトラマンポーズをとったことについても、マンガで語られている。

 やはり、この二人、互いのことがよくわかっている。

 これらのエピソードが事実に即していることはネット情報で確かめることができる。

 無茶ぶりだったはずの「発声可能上映」は、驚くほどの大団円で幕を閉じることになったのだ。

 

 なお、島本同人誌では、この続きが語られている。

 庵野サプライズ出演の真相が、最後に明かされるのだ。

 

↑島本画による安野モヨコ(庵野嫁)も出てくる

(「監督不行届」でおなじみのロンパース姿で)

 

 ここで読者は気づくだろう。

 庵野は良い嫁を持った、と。

 やはり、庵野はどこか抜けていると。

 そして、読者は叫ぶだろう。

 

「ありがとう、モヨコ!」

 

 ちなみに、僕は今回の島本同人誌のタイトルの元ネタとなった「ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ」を購入していないニワカである。

 

 

 そもそも映画「シン・ゴジラ」を鑑賞した衝撃で、島本和彦を知ったようなものなのに、島本同人誌だけを入手しただけで満足するのは問題ありだ。

 ぜひとも購入して、映画館で味わった興奮を追体験しようと思う。

 

 ひとまず、2016年の締めくくりとして、この島本同人誌は大いに楽しめた。

 思い立って冬コミに行ってよかった。

 そして、島本和彦が既刊本も含め、在庫を多く持ってきてくれた良かった。

 

 ありがとうございました、島本先生!

 

↑しかし自分を美化して描きすぎやしませんか、島本先生