そんなんあたりまえ


あれはいつの正月の事だったろうか。
姉が帰省した折、おせちの重にゆで卵の飾り切りを添えた。当時未だ喫茶店をやっていた姉が「商売人はこういう風に切るんやで」と横から包丁の先っぽを差し込んでギザギザとやり出した。
ほら、と少し得意げな姉を母は黙って見ていたけれど、一瞬ピクリと眉の上がったあの時の母の顔は 「そんなんあたりまえ」
と云っていたのかも知れない。確か学生時代持たされた弁当の中にはそのゆで卵が度々登場したし、単に姉が忘れてしまったのかどうか。
人はあたりまえの事を追い老い知る事になる。
「親の意見とナスビの花は千に一つの仇がない」とよく母に意見され忠告を受けたりはしたけれど、今思えば確かにそれらの意見は間違っていた訳ではない。よくよく忠告を聞きもしなかったからこその今の体たらくでもある訳で、あぁ、あの時聞いておけば良かった…ということを繰り返す。せめて生まれ変わった時には云われたとおり…なんて云いながらきっと、そのときにはすっかりそんな事も忘れているんだろうねぇ。
今年も早霜月。あっという間に一年が過ぎるよ。