エスパルス28節 / ユングベリ教室


夕飯を食べて帰るつもりだったけど、BSプレミア中継の録画を忘れていたのを思い出して急いで帰宅した。今夜は「マージーサイド・ダービーリバプールvsエバートン戦なのだ。
はっきり言って格は全然違うのだけれど、自分にはリバプールを、ついつい‘オラがチーム’エスパルスの姿と重ねてしまう癖がある。大黒柱のジェラードは足首の手術からようやく戻ってきたけど、まだ試運転の段階。中盤の構成力がないままに、サイドからのクロスかロングボール一発のスアレス頼みのサッカーをやっているリバプール。こんなはずじゃない。そんな焦燥さえ似ていると思うと、なんだか他人事とは思えなくなってくるのだ。


エバートンのCFはケーヒル。清水・アレックス、名古屋・ケネディと同じくオーストラリア代表FWの大エースは健在だった。そういえばボスナーがエバートンに在籍した頃、ユングベリアーセナルにいたのだ。後半、途中出場したフィリップ・ネヴィルはフレディと同じ34歳。かつては同じピッチでさんざんやりあったことだろう。
まったく別世界のプレミアリーグリバプールの街を赤と青に二分するダービーの模様に、さっき見てきたばかりのJリーグをダブらせるのだった。



【 10月 2日 / Jリーグ第26節:清水 2−0 名古屋 / ‘適材適所とユングベリ教室’ 】



     


福岡がガンバに勝ち、甲府が柏に勝つのだから、清水が名古屋に勝ったってべつにおかしくはない。ただ、降格争いで「尻に火が着いた」チームが、おそらく死にものぐるいの、火事場の馬鹿力を発揮したらしいのと違って、今日のエスパルスは普通に名古屋を上回っていた。
やっと岩下とボスナーが目立たない試合を見れた。CB二人がゲームメイクしながらDFラインを統率するという、相当ハイレベルな無茶なサッカーをやってきた今シーズンのエスパルス。それがやっと是正された試合、というのが第一の感想。


     


四日前にナビスコカップ終戦。その試合、見てなくてもだいたいの想像はついた。相手にみすみすボールを渡してカウンターを許しあっさり失点。淡泊な攻撃からずるずる後退して防戦一方になるいつものパターン。
少なからずその敗戦のショックはあるだろうと思われたのに、今日のエスパルスにその面影は欠片もなかったのはなぜか?


     


その答は小野伸二のポジションにあった。
今シーズンここまでの彼はトップ下を意識して前線に埋没することが多かった。彼が攻撃に専念するということになると、今年のチームにバランサーはいなくなってしまうのだった。
今日はユングベリと並ぶというよりは、絶えず互いの位置を意識しあいながら、時に後方まで下がってボールを受けていた。ボールに多く触ることで自分のリズムもチームのリズムもつくっていく彼本来の姿に戻って、水を得た魚のようにプレーしていた。


     


幸いなのは、ユングベリにもバランサーの感覚があることで、小野の仕事も分担できること。彼はけして(助っ人外国籍選手にありがちな)攻撃一辺倒の選手ではないのだった。常に味方のポジションを正確に把握しながらプレーできるから、ファーストディフェンスにも行くし、ヨンアピンの横のスペースを埋めに戻ることもあるし、カウンターのチャンスには最前線に飛びこまずにバイタルエリアにとどまって、こぼれを狙う位置を取っていた。
小野とユングベリの同時起用。それは競演というよりも、互いを助け合って共存する形で実現されていたのだった。


     


これまでの清水は右なら右、左なら左の一回限りの仕掛けをしくじって逆襲されることが多かった。サイドで詰まれば戻してつくりなおす、相手CBを動かしながら引き出してから仕掛ける、そんな余裕のある試合運びはほとんど見られなかった。特に高木は孤立しがちでボールの奪われ方も悪く、相手カウンターの起点になることもしばしばだった。
一度リセットする作業をユングベリのプレーは担ってくれる。それが左右のバランスやポジション修整の時間をつくってもいる。だからドリブルの得意な選手が多い名古屋アタッカー陣に時間もスペースも与えなかったし、DFも余裕を持って対処できたのである。GK海人まで含めて、今日は全員が自分の仕事に専念できて、実感として楽だったはずである。
今季さんざん安直な失点を重ねてきたDFラインのメンバーは変わっていない。なのに今日は安心して見ていられた。ということは、これまでの失点はただ守備陣だけの問題ではなかったということだろう。中盤の構成力不足がいかに守備に負担をかけ、チーム全体のバランスを乱してきたかを反証するゲームでもあった。
(本当にそこまで見越してのヨンアピンユングベリの獲得だったのなら、ゴトビの眼力は凄い)

 
     


決定機を演出するとか一対一に強いとか、個人的な単発的なプレーのみならず、チーム全体に好影響を及ぼす‘ユングベリ効果’恐るべし。実戦を重ねることで、大前や高木は彼から大事なことを学んでいくだろう。実は今季の成績より、来季以降、必ず表れてくる成果にこそ期待すべきなのかもしれない。ユングベリ効果というか、ユングベリ教室、開講中なのである(期間限定。生徒より先生が先に卒業予定)。ワイルドな風貌のせいでそう呼ぶのはいささか憚れるのだが、「ユングベリ先生」の下で彼らが優等生でありますように……。
しかし、そんなユングベリ効果を最大限に発揮させる小野伸二は、もっと恐るべし! 彼はユングベリ学院の影の学長なのである。
84分、34歳のスウェーデン人が名古屋の左をブッちぎった。ユングベリのハッスルぶりには小野も大いに刺激されているだろう。ちょっぴり「困ったもんだな」と思っているかもしれないが。先週、小野は32歳になった。


     


ほんの数日前に無様な試合をやったばかりなのに、今日はまるっきり別チームのようだった。新潟に行ったのはダミーだったのだろうか? 永年サポーターをやっていても不可解なところはあいかわらずの面白いチーム、エスパルス(笑) マガジンとダイジェスト両誌の表紙巻頭を飾ったユングベリも新潟戦の汚名を一気返上。
明らかに名古屋には油断があった。今度の水曜に同じ相手とのナビスコ準々決勝が控えていたなら、また違う内容になっていたかもしれない。とはいえ、今日の勝利は今シーズンずーっと探し続けてきた答の一つではある。
今季最高? 現時点ではね。でも、ベストではない。2-0なんかで満足してもらっちゃ困るのである。これは「標準化」の第一歩にすぎない。パズルのピースはまだ余っている。今季最高はまだこの先に、きっとある。