外債投資の10年を総括する

2008年3月に投資を開始した外債のファンド4つのうち、2016年に繰り上げ償還となった1つを除き、保有していた3つのファンドをすべて売却した。年末に満期償還なので、そろそろ売却時期を探る必要があったところ、円高になってきたので、これ以上利益が目減りしないように対応したのである。


2016年に繰り上げ償還となった1つを含めて、4つのファンドへの10年間の投資による利益率は、たった1.98%(税引き後。税引き前では3.08%)。いくばくかの利益が出たという意味では成功かもしれないが、気苦労と労力の割に利益が小さかったという意味では、「失敗」に近い。


まず、4つというのは、通貨建を分散したためである。その資金配分は、①豪ドルに資金の約35%、②ポンドに約20%、③NZドルに約35%、④ユーロに約10%、だった。この4つのうち、運用による利回りの成績は、良かった順に、①30%→③28%→②5%→④4%である(これは税引き前)。しかし、すべてプラスの利回りだったにもかかわらず、②と④では、損失を出した。


以下では、なぜ「失敗」したのかを考察したい。


最大の敗因は、2008年3月という異様な円安時に、資金を集中的に投下してしまったことである。言い換えると、外国通貨高の時期に、高値づかみをしてしまった。最初から、「失敗」が確定していたと言える。しかも、投資開始から半年ほど経った2008年秋になって、「100年に一度」の世界金融危機が発生し、40%以上もの強烈な円高が急激に進行した。この極端な円高は、その後、特に2013年以降に、黒田緩和でかなり修正されていったが、結局、4通貨建てのファンドすべてで、購入時よりも円高で売却(償還)となってしまった。為替レートの変動は、①:93円→81円、②204円→145円、③81円→76円、④155円→115円、であった(購入時→売却時)。


もちろん、投資の開始時には、円高リスクとその対策も、考えていたのである。具体的には、(1)通貨建てを4つに分散しつつ、(2)債券の利回りによって為替差損を打ち消すこと、で対策をしたつもりだった。


だが、通貨建ての分散は、リスク回避にはなっていなかった。そもそも、ポンドやユーロといった先進国通貨同士であれば、一方が大幅な円安になりつつ他方が大幅な円高になる、ということはあまりなく、むしろ同じような方向に動きやすいので、通貨を分散しても、必ずしも為替リスクの対策にはならない。分散するなら、逆方向に動くと考えられる通貨のペアにしておくべきだった。


もうひとつの誤算は、世界金融危機で、利回りが極端に低下していったことである。このような事態は、円高の進行以上に想定外なことだった。おかげで、利回りによって為替差損を打ち消すという目論見が崩れた。利回りは、それぞれ①年6.449%→年0.905%、②年4.601%→年0.188%、③年7.654%→年1.330%、④年3.397%→年0%と下がっていった(購入時→売却時。④については、利回りが0%になったため、2016年に繰り上げ償還)。


10年間の外債投資の「失敗」から得られる最大の教訓は、投資時期を分割することがとても大事だ、ということである。10年前の心境を思い出してみると、当時は、(外債の)高利回りに惹かれ、資金を投下することじたいが目的化してしまい、その時期の妥当性を吟味するという意識がなくなっていた。しかし、焦ることなく、ドルコスト平均法で投資すれば、極端な円高時にも資金を投下することができて、もっと利益を出せたはずだ。わたしが心がけるべきだったことは、4つの通貨建という空間的な分散ではなく、投資時期をずらすというという時間的な分散だったのだ。


また、円高もあって時価で30%以上のマイナスとなる時代が長く続いたことはストレスだったが、ドルコスト平均法で投資すれば、このようなストレスに見舞われることもなかったはずだ。投資で無用なストレスを抱えるべきではない。それは、気分を滅入らせることになるだけでなく、投資判断の誤りを引き起こしかねない。


他方で、一時期は時価で30%以上のマイナスとなりながら最終的にはプラスになったということも、記憶にとどめておく必要がある。為替のオーバーシュートは、年月のなかでやがて是正されていく。為替レートが完全に元に戻らなくても、いくばくかの利回りがあれば、それで為替差損をカバーできる。ただし、そこに至るには、決して短くない時間を要する。したがって、もう一つの平凡な教訓は、投資で短気を起こしてはいけない、ということになる。