2009-02-24
命に命が触れるとき・・・/「豚のPちゃんと32人の小学生」黒田恭史
先日、図書館から借りてきた「豚のPちゃんと32人の小学生」を読みました。
今から15年以上も前に、実際に大阪北部の小学校で一人の新米男性教師が、自分が担任を受け持った32人の生徒に「クラス(学校)で豚を飼う」ことを提案し実践した、900日にわたる日々のことを綴った本です。
昨年、妻夫木聡さんが先生役を演じた「ブタがいた教室」という映画の原作本でもあります。(DVDは4月に発売予定)
- 作者: 黒田恭史
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2003/06
- メディア: 単行本
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命の授業
久し振りに読んでいて息が詰まる思いがしました。4年生で黒田先生の提案により、豚のPちゃんを飼い始めたのはいいものの、5年生のクラス変えでみんながバラバラになる時、6年生で卒業する時、
- 大きく育ちすぎてしまったPちゃんを誰が世話をするのか?
- Pちゃんの今後をどうするのか?
大人である先生や、先生の同僚の職員たち、生徒の父母達でさえも手に余る問題なのに、子ども達で結論を出すことを度々突きつけられるシーンは、読みながら生徒達に感情移入してしまってかなり凹みました。私も生徒と一緒になって悩み、最良の答えとは何なのか?考えは二転三転するばかり。
情けないことに読み終えた今でも「これだ!」と確信をもって言える答えらしきものは何一つ持ち合わせてはいません。けれど最終的に黒田先生のとった行動には、もろ手をあげては賛同出来ない。ただ、黒田先生が示したかった事は、当時関わった人達の中に何らかの形で確実に根付いていたと思う。(黒田先生は否定していらっしゃいましたが)
ある生徒の母親からの手紙
卒業前の2月、一人の生徒の母親からこんな手紙が届く。(長くなりますが、とても感銘を受けたので、途中略しながら引用させていただきます。)
ファミコン・リカちゃん人形を相手に大きくなった都会っ子。土など知らずに育った子供達が豚を飼育するなんて・・・・・・。
私がPちゃんをはじめて見たのは子供が5年生の夏休み。Pちゃんの掃除だと言うので車で送っていきました。あまりにも大きいのでビックリ*1。それにくさい。
子供達はこわがらずに小屋の中へ、「大丈夫かしら」入口はあいたままになっています。突然Pちゃんが私の車めがけて突進してきました。「キャーッ、助けてー」私は大声をはり上げていました。「大丈夫だよー」という子供たちの声、車がゆれはじめました。ユッサ、ユッサ、Pちゃんが車で体をかいているのです。
(〜中略〜)
次に感動したのは、6年生の春休みでした。雨が何度も降り続いていました。Pちゃんは雨の中泥んこの土の中で悲しそうな目をして突っ立っていました。まあ、かわいそうに。私は子供達がどうするのか車の中からしばらく様子を見ていることにしました。Pちゃんの小屋には、10センチメートル以上水がたまっています。排水口も作ってあるそうですが、その役目ははたされていません。
(〜略〜)
かさもささずに頑張っている子供を見ていると、こわさも忘れて私も車から飛び出していました。別の所にみぞを作り水が流れるようにしました。ほんの少しですが、水かさが減ったように思えました。
えさ入れが見当たりません。Pちゃんが泥の中へ埋めてしまっています。それを取り出すのがまた大変でした。ホースも見当たりません。子供は泣き出しそうな顔をしてさがしに行きました。ドロドロになったえさ入れを水できれいに洗い、えさを入れてやると、あっという間に食べてしまいました。
夜が来ても、Pちゃんは雨の中、泥水の中で立ったまま寝なければなりません。ベニヤ板を見つけました。小屋の中へ苦労して入れてやりました。でも、Pちゃんはそれを取り除こうとしています。
「なぜ!」もう病気になって死んだってしらないから。雨の中、かさもささずの作業が2時間ほど続きました。
(〜中略〜)
夏休み。子供達の待ちに待った夏休み。ラジオ体操も終わり今日から朝寝坊が出きると思ったやさき、ピンポンとチャイムの音。Pちゃん当番の手が足りないので手伝ってくれないかとのおさそいの声。まだ眠ってる子を起こし車で学校に送る。このような日が3日続きました。
子供達はぐち一つこぼさず、当番を続ける。なぜ平気で!それにしてもくさい。Pちゃんの掃除を終えた後の子供達を乗せると鼻をつくようなにおいが一日中、車の中から消えませんでした。
ファミコンや人形、テレビ、塾等、どれも子供達にやさしさ、がまんすること等を教えてはくれない。人間の親でさえ子育ての難しさに悩むのに。
Pちゃんは、しらずしらずのうちに命の大切さや、やさしさ、がまんすること等たくさんの教訓を子供達に与えてくれた。Pちゃんが下級生にもらわれていく。なぜかホッとして、Pちゃんの掃除の思い出を書きつづってみたくなり、ペンを走らせたしだいです。
この方は、どんな気持ちでこの手紙を書かれたんだろう・・・その心に想いを馳せると、私も様々な葛藤がこみ上げてきました。
自分が感じた事を、こうして言葉にするのはとても難しい。私もこの本に感じた事を言葉にすることに、とても強く躊躇いがありました。でも、この方が素直に感じた事を綴った手紙の部分を読み返す度、「あなたが感じた事そのままでいいんですよ」って、背中を押していただくような気持ちになったんです。
先生の決断
私は、前出の手紙の方のおっしゃるように、そしてPちゃんを育てていく中で黒田先生が感じた事もあるように、Pちゃんの飼育の過程で何かを学びとる事こそが大事なんじゃないかと思う。
だから、感情的な反発心かもしれないけれど、子どもたちの卒業を控えた直前になって、今後のPちゃんの処遇を最終的に子ども達の手で決定させるのは、(そして、その決定をその後先生自身が覆すのも)ちょっと納得のいかない部分もありました。
けれど、一人の児童が(Pちゃんは食肉センターにひきとってもらうのが妥当)だという自身の親に向けて告げた
「飼育もやったことのない大人にそんなこと言われたくないわ」
この言葉は、色んな意味を持って私の胸に深く刺さりました。
- もっと早い時期から今後の方針をどうするのか先生が動きを作っていたら
- そもそも、先生が最初から処遇を明確にしていれば
本を読んで現実にあった事を知る私は、起きてしまった事実に対して感じたことを「たられば」で後から何とでも言えるけれど、実際にこの現場に関わっていたら、確固とした意志を持って発言し行動が出来るかというと、そんな自信なんてまったく無い。
本書で黒田先生はご自身の弱みも挫折も隠すことなく、極めて客観的に「ひとつの記録」として、この出来事を書き綴っていらっしゃいます。その真摯な姿勢には心から敬意を表したい。
本書を読んで、何を感じるか、何を見出すかは人それぞれ違うと思いますが、己の手で命に触れた生徒達の「生きた言葉と記録」が、この本にはぎっしりと詰めこまれていました。
この本も読んでみたい
- 作者: よしもとただし,みずかみみのり
- 出版社/メーカー: 農山漁村文化協会
- 発売日: 2003/03
- メディア: 大型本
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同じ「そだててあそぼうシリーズ」で、「ニワトリ・肉牛・乳牛・ヒツジ・ヤギ」なども出版されているようです。実際に個人で育てることは無理だと思いますが、飼育から食糧になり加工されるまでが追って書かれているみたいなので、ぜひ読んでみたいです。
また、id:gintacatさんの以前のエントリーで「いのちの食べ方」という、興味深いテーマの映画を紹介されていますので、ご興味をお持ちになった方はぜひぜひご覧になってみて下さい。
*1:この時点で150kg前後












