うしとみ

2006-12-21 (木)

視点・論点「まん延するニセ科学」

http://www.youtube.com/watch?v=9LNRYsyWgEY

これは是非、多くの人に観てもらいたい。

でも、観られない人もいると思う(ネット環境ないとか)。NHKがYoutubeに削除申請をするかもしれない(著作権がなんとかかんとかで)。それはもったいない。ということで、勝手に文章に起してみました。



みなさんは、「ニセ科学」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。

これは、見かけは科学のようだけれども、実は、科学的とはとても言えないもののことで、「疑似科学」や「似非科学」などとも呼ばれます。


『そんなものがどこにあるんだ』とお思いの方も、例として、血液型性格判断や、マイナスイオンや、ゲルマニウムブレスレットなどの名前を挙げれば、『ああ、そういうもののことか』と納得されるかもしれません。それとも、かえって、『え?』と驚かれるでしょうか。


例えば、皆さんもよくご存知のように、『マイナスイオンは健康にいい』と盛んに言われ、ひところは大手家電メーカーもこぞって製品を売り出すほどのブームになりました。マイナスイオン製品がよく売れたのは、もちろん、マイナスイオンの健康効果に科学的な裏づけがあると信じた人が多かったからでしょう。テレビや雑誌などでも頻繁に取り上げられましたから、それを疑えという方が無理な話かもしれません。

しかし、実は、マイナスイオンが身体に良いという科学的な根拠は、ほぼない、といってよいのです。あのブームは、まったくの空騒ぎでした。大手メーカーまでが、なぜ、その空騒ぎに乗ってしまったのか。きちんと検証しておく必要があります。

いまは、ゲルマニウムを使った製品に、人気が出てきているようです。しかし、実のところ、ゲルマニウムを身に付けたところで、せいぜいお守り程度の効果しか期待できません。


いま、このような、科学のようで科学ではない、「ニセ科学」が蔓延しています。

こういった「ニセ科学」のなかに、しつけや道徳に関わるものがあります。その話をしたいと思います。


よく知られている例の一つは、『テレビゲームをし過ぎると、脳の機能が壊れる』といういわゆる「ゲーム脳」説です。しかし、この説に、科学的に信頼しうる根拠はないのです。その意味で、これもまた「ニセ科学」です。

もちろん、どんなゲームにもそれなりの物語性がありますから、人格形成に影響することはあるでしょう。しかし、それだけなら、小説やテレビドラマなどでも同じです。脳の機能が壊れるかどうかとは、まったく別の話なのです。

ところが、この説は、教育関係者に広く受け入れられています。全国各地で、教育委員会やPTA主催の講演会が開かれているようです。

もちろん、子供がゲームばかりするので困っているという親は多いでしょうし、学校の先生もそういう風潮を何とかしたいと思っているのでしょう。
そういうみなさんにとって、「ゲーム脳」説が一見、福音に思えたことは分かりますが、科学的根拠のないものに飛びついても、仕方がありません。

そもそも、ゲームのし過ぎを何とかしたいというのは、科学の問題ではなく、しつけの問題だったはずです。子供が四六時中ゲームをして困ると考えるなら、やめるようにきちんと指導するべきでしょう。しつけの根拠を科学に求めようとしてはいけません。


もう一つ、今度は、水にまつわる奇妙な説を紹介しましょう。

水に「ありがとう」と言葉をかけると、きれいな結晶ができ、「ばかやろう」と言葉をかけると、きれいな結晶ができないというのです。
水の結晶というのは氷のことですから、これは、言葉の良し悪しが氷の形に影響を与えるという主張です。しかし、もちろん、そんな馬鹿なことはありません。

水は、ただの物質です。言葉を聞く耳も、文字を読む目もなければ、言葉の意味を感じる心もありません。『水が言葉に影響される』など、いい大人が信じるような話ではなかったはずです。ところが、これが広く信じられています。『ありがとうは水にも分かるほど良い言葉だ』といわれると、それだけで、『いい話』だと思い込んでしまう人は、意外に多いらしいのです。


この説が、いくつもの小学校で、道徳の授業で使われていることが問題になっています。言葉遣いを教えるのに、格好の教材と思われたようです。

しかし、本当にそうでしょうか。

この授業は、たくさんの問題をはらんでいます。

まず第一に、明らかに科学的に誤っています。理科離れや学力低下が言われる今、道徳だからといって、ここまで非科学的な話を、事実であるかのように教えていいはずがありません。

しかし、それ以上に問題なのは、言葉遣いの根拠を、水という物質の振るまいに求めようとしていることです。

言葉は、人間同士のコミュニケーションの手段ですから、その使い方は、あくまでも、人間が自分の頭で考えなくてはならないはずです。「ありがとう」はどんな状況下でもいい言葉なのか。それを考えてみれば、この話のおかしさは分かるはずです。

「ゲーム脳」がしつけの根拠を科学に求めるものだったのと同様、ここでは、道徳の根拠を自然科学に求めようとしています。それは科学に対して多くを求め過ぎです。

しつけも道徳も、人間が自分の頭で考えなくてはならないことであって、自然科学に教わるものではないはずです。


さて、「ニセ科学」が受け入れられるのは、科学に見えるからです。つまり、ニセ科学を信じる人たちは、科学が嫌いなのでも、科学に不審を抱いているのでもない、むしろ、科学を信頼しているからこそ、信じるわけです。

たとえば、マイナスイオンがブームになったのは、『プラスは身体に悪く、マイナスは身体に良い』という説明を多くの人が「科学的知識」として受け入れたからです。

しかし、仮に、科学者に、『マイナスのイオンは身体にいいのですか』とたずねてみても、そのような単純な二分法では答えてくれないはずです。

『マイナスのイオンといってもいろいろあるので、中には身体にいいものも悪いものもあるでしょうし、身体にいいといっても取りすぎればなにか悪いことも起きるでしょうし、ぶつぶつ……』と、まあ、歯切れの悪い答えしか返ってこないでしょう。

それが科学的な誠実さだからしょうがないのです。


ところが「ニセ科学」は断言してくれます。

『マイナスは良いといったら良いし、プラスは悪いといったら悪いのです。

また、ゲームをし過ぎるとなぜ良くないのかといえば、脳が壊れるからです。

ありがとうは、水がきれいな結晶を作るから、良い言葉なのです。』

このように、「ニセ科学」は実に小気味よく、物事に白黒を付けてくれます。この思い切りの良さは、本当の科学には決して期待できないものです。

しかし、パブリックイメージとしての科学は、むしろ、こちらなのかもしれません。『科学とは、様々な問題に対して、曖昧さなく白黒はっきりつけるもの』科学にはそういうイメージが浸透しているのではないでしょうか。

そうだとすると、「ニセ科学」は科学よりも科学らしく見えているのかもしれません。


たしかに、なんでもかんでも単純な二分法で割り切れるなら簡単でしょう。しかし、残念ながら、世界はそれほど単純にはできていません。その単純ではない部分をきちんと考えていくことこそが、重要だったはずです。そして、それを考えるのが、本来の「合理的思考」であり「科学的思考」なのです。二分法は、思考停止に他なりません。


「ニセ科学」に限らず、良いのか悪いのかといった二分法的思考で、結論だけを求める風潮が、社会に蔓延しつつあるように思います。そうではなく、私たちは、『合理的な思考のプロセス』、それを大事にするべきなのです。


大阪大学教授 菊池誠


テープ起しというものを初めてやったのですが、大変だね、これ。

なんか、菊池氏に失礼なことをしているような気がしています。文字で読むのと、声で聞くのとでは受ける印象も変わってくるし。


参考:

マイナスイオン - Wikipedia

マイナスイオンは、日本にて1999年ごろからマスコミに頻繁に登場し、2002年夏に流行のピークとなった流行語である。


「水からの伝言」を信じないでください


kikulog 菊池氏のブログ。このへんこのへんで「視点・論点」出演に関する話が。コメント欄すごいな。


1月8日追記:nakanishi氏らによる英訳

TransFreeBSDTransFreeBSD 2006/12/21 18:13 同じく多くの人に観てもらいたい&知ってもらいたいです。
ので、出来ればブックマークからリンクを張りたい、というよりブックマークに転載したいと思いました。

というわけで不躾なお願いなのですが、ココ↓に転載してもよろしいでしょうか?
http://b.hatena.ne.jp/entry/3527481

f_iryo1f_iryo1 2006/12/21 20:06 好意的な反応が多くて嬉しいです。
ブックマークへの転載、しちゃってください。どなたかよろしくお願いします。

TransFreeBSDTransFreeBSD 2006/12/21 21:00 早速転載させていただきました。ありがとうございます。

きくちきくち 2006/12/22 08:42 文章に起こしていただいてすみません。ありがとうございます。
実は原稿の電子データは手許にあるんですが(^^;)、公開をさぼってました。お手数かけてしまい、申し訳ないです

fanfanfuzzy1219fanfanfuzzy1219 2006/12/23 00:46 同じく、書き起こした文章、抜粋して転載させてください!!
http://d.hatena.ne.jp/fanfanfuzzy1219/

きくちきくち 2006/12/23 22:21 えーっと、しゃべった本人ですが(どうやって証明できるか、不明ですが)、僕はどこに転載されても構わないので、僕の許可は不要です。あとはf_iryo1さんがよければ、いいのでは。文章だけならNHKの許可はいらないはず

f_iryo1f_iryo1 2006/12/23 23:09 >きくちさん
わざわざありがとうございます。本人の証明は……、とりあえず、私は信じます。
私は、転載してもらいたいと思って書いたようなものなので、いろいろなサイトに広がっているようで嬉しいです。ありがとうございました。

きくちきくち 2006/12/24 22:15 僕が本ものかどうかはともかく、きくちのブログにここのURLが書かれているので、よいのです↓
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1166547413#CID1166890166

YoshiyaYoshiya 2006/12/25 13:44 血液型占いの事を「はてなのgoldwellさん」で質問したので、特に興味を持って読ませていただきました。 
ブログの中にある「水からの伝言」は私も聞いた事があり、そんな非科学的な事ある訳ないと思っていました。 しかし、混沌とした世界に住んでいる現在では、こんな馬鹿げた事を信じる人は沢山いるみたいです。 この現象は論理的な考えからの逃避かもしれませんね。 論理的に物事を考えると、どうしても自分にできない事、不利な事から逃げてしまう傾向が人間にはあると思います。
オカルトを信じるという事は、弱い人間そのものかもしれませんね。

apjapj 2006/12/27 19:33 ここへのリンクもした上で、内容を私のページにも転載しました。こういうのは、流通させた方がいいと思うので。

ks2394ks2394 2006/12/27 21:31 私も勉強のために、お気に入りさせていただきます、いろいろみたいです、よろしく

nakanishinakanishi 2007/01/07 22:05 事前にお伺いするべきだったのですが、Kikulogで英訳してほしいという人がいたので、ここの原稿をもとに英訳してしまいました。勝手に転載していますが申し訳ありません。

f_iryo1f_iryo1 2007/01/08 00:35 >nakanishiさん
すごいなあ…。
このページはいまだに多くの需要があるようですので、ここからも英訳に飛べるようにしておきたいと思います。
http://www.stat.phys.kyushu-u.ac.jp/~nakanisi/Opinion/NiseKagaku/2006-12-ShitenRonten.html

カワバタヒロトカワバタヒロト 2007/01/14 14:17 f_iryo1さん、お疲れ様です。
リンクを張り、転載もさせていただきました。

Martin921Martin921 2007/02/02 14:15 ニセ科学もよく観察すれば「この江原と細木は絶対、正解だ・脳内麻薬乱用ダメ、ゼッタイ・お金儲けは絶対で格差社会」という歪から蔓延しているような気がします。本質を見せたらハッタリだけど日本では科学の本質を語る事がなく「なんとなく病」に伝染しているような気がします

きくちきくち 2007/02/11 01:57 ついにYouTubeの動画は削除されたようですね

ニセ科学批判批判ニセ科学批判批判 2007/02/15 14:40 http://coleopteran.seesaa.net/article/33542524.html

ニセ科学批判の自己目的化がまずいのは、批判者やその同調者の「優越感情」が醜いからというより、ネットでの議論が内藤朝雄のいういじめにおける「いま・ここ」の論理に引きずられてしまいがちであり、ニセ科学批判もその例外ではないからだ。

うまうま 2007/02/16 22:34 リフレ派、知の欺瞞、ニセ科学批判
http://awarm.blog4.fc2.com/blog-entry-323.html#comment243

アクセス禁止アクセス禁止 2007/02/24 14:01 ニセ「ニセ科学批判」
http://seisin-isiki-karada.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/post_93a6.html

塩川伸明―読書ノート塩川伸明―読書ノート 2007/03/13 16:36 ソーカル、ブリクモン『知の欺瞞――ポストモダン思想における科学の濫用』
http://www.j.u-tokyo.ac.jp/~shiokawa/ongoing/books/sokal.htm

共著共著 2007/03/17 23:35 きくちさんは計算機保守の専門家で「国家の品格」みたいな本を科学用語を使って書いてテレビに出ているトンデモな人じゃないんでしょうか?
http://d.hatena.ne.jp/osakaeco/20070313#c1173889989

きくちさんは既にかなりいい年こいた「よい大人」のはずなんですから、「外挿」するときは、もう少し注意を払いしょうね。
モンテカルロ屋のモンテカルロ・ステップがローカル・ミニマム近辺で巡廻しているのはよくある話です
http://d.hatena.ne.jp/osakaeco/20070313#c1174026190

菊池誠先生の論文菊池誠先生の論文 2007/03/18 15:00 > しかし本とかまとまった論述とかを書いていないのに教育テレビで話ができるというのも問題ですよね。

う〜ん、でもニセ科学批判には何か『基本文献』がちゃんとあるらしいよw

# きくち 『ああ、「うま」氏はここの常連だった?コメント読んでないから、気づきませんでした。みんなが反応したのは「啓蒙精神」ですよ。でも、無駄でしたね。基本文献を読んで出直してください。

http://d.hatena.ne.jp/osakaeco/20070313#c1173975520
http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20070112#c1169383493

f_iryo1f_iryo1 2007/04/03 08:44 以下のコメントを削除しました。
>>
きくち 『先生といなば先生:
http://d.hatena.ne.jp/ese-kagaku/』 (2007/04/02 15:11)
<<
興味がある方は、
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1174435333
を参照してください。

いままで放置してたけど、ハンドル名を騙るのは酷すぎると思う。

政治活動政治活動 2007/08/26 10:37 なんだって。政治活動なら、そうなるわな

津村ゆかり:「ニセ科学」関連・最終記事
http://ytsumura.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_05f4.html

水野水野 2007/08/31 13:16 ぼくは、あの番組をみながら、泣いていました。
ぼくの大切な人たちにも知ってもらいたいので、転載させていただきます。
菊池先生と f_iryo1 様の会話を拝見させていただいた限りでは、その転載に関しては問題がなさそうですが、問題がございましたら、お手数ですが、http://www.mizuno.org/postmail.html よりご連絡くださりますよう、お願いいたします。
礼儀をわきまえていない行為かもしれませんが、とにかく知ってもらいたいのです。
ご理解・ご容赦くだされば、幸いです。
失礼いたします。

水野水野 2007/09/04 19:46 菊池先生と直接お話しさせていただき、文章の掲載許可を頂きましたので、ご連絡申し上げます。

2。З2。З 2009/10/15 00:58 書き起こした文章、転載させて頂きます!!

よろしくお願いします。

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト

コメントを書くには、なぞなぞ認証に回答する必要があります。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/f_iryo1/20061221/shiten