うしとみ

2015-03-01 (日)

『幕が上がる』は『桐島』を超えたか 〈舞台装置〉としてのももクロ

映画『幕が上がる』を観た。

いい映画だった。かなりいい映画だと思う。

映画『幕が上がる』公式サイト


青春映画である。田舎の高校の弱小演劇部が、全国大会を目指す。新任のすごい先生と、強豪校からの転校生。挫折と成長と事件を通して主人公たちが成長していく、言ってしまえば、よくある話。


この映画の主演は、ももいろクローバーZの5人だ。彼女たちはアイドルであり、女優ではない。いや、なかったと言うべきか。女優ではなかったはずだが、映画ではまったく自然な演技を披露している。

アイドルが出演する作品を観るときは、それなりの覚悟がいる。きっと大根なんだろうな、棒読みなんだろうな、キラキラ顔のアップばかり映るんだろうな、そういうものを受け入れる覚悟がいる。『幕が上がる』において、それらは杞憂だった。

ももクロメンバーたちの演技が、特別に優れているとまでは言わないが、黒木華やムロツヨシと並んで残念な気持ちになるようなことはない。「普通にうまい」という表現がちょうどいいだろうか。平田オリザの影響が相当強いのだろうなと感じる演技だ。

演技以外の点でも、アイドル主演ということを意識させない映画になっている。やたらと笑顔ばかりが映るようなことはなく、むしろ、意地の悪い表情や、生気のない表情が印象的なシーンも多い。ももクロは5人グループだが、事前知識なしに映画を観たとしたら、誰と誰がももクロなのかエンドロールまでわからないかもしれない。「少なくとも主役の部長はももクロだろう、このショートカットもそうかな?この狂言回しっぽいのは?この転校生は違うかもな、この後輩ってそうだったのか」みたいな。

そんなわけで、「アイドルが主演してる映画ね、はいはい、そういうのはいいや」と捨て置くのは、ちょっと違うよ、ということを強調しておきたい。


映画を観ていて何度も思い出したのは、『桐島、部活やめるってよ』だ。

高城れにが廊下を走り回るシーンや、玉井詩織と有安杏果が屋上で大道具をつくるシーン。東京の小劇場からの帰り道で、2年生が佐々木彩夏の行動についてコメントするシーン。ちょっとした場面から、ときおり『桐島』っぽさを感じた。

ひとつのスクリーンのなかで、複数の物語を、まったく同時に進めることは、難しい。けれど現実には、ひとつの空間のなかに複数の集団があれば、併行してそれぞれの物語が進行している。『桐島』はそれを、序盤のカットバックの多用などから、終盤の屋上での大集合とその後を劇的に描き、個人それぞれの物語の存在をあらためて提示した。『桐島』は、「みんながひとつのことを目指す青春映画なんて虚構だ」と言ってみせたのだった。


対して、『幕が上がる』は、青春映画をアイドル映画と併走させるという方法で、『桐島』へのアンサーを提示してみせたのではないか。

主演のももクロは、現実世界において、まぎれもなく青春ドラマの主人公だ。手弁当の営業活動から始まり、次第にファンが増えていき、紅白歌合戦などの大舞台に立ち、いまも活躍のまっただ中にいる。主要メンバーの脱退もあった。そんな「アイドルグループとしての物語」を、この映画にいっさい重ねないというのは難しい。

富士ケ丘高校演劇部は、同時に、ももいろクローバーZでもある。いや、同時にではないかもしれない。映画のなかでは、彼女たちは役者であり、アイドルではない。けれど、たびたびBGMとして流れるももクロの楽曲や、ももクロと関わりの深い人物のカメオ出演、ももクロのテーマカラー(赤、黄、紫、緑、ピンク)を連想させる小道具などにより、観客はいま観ているものがアイドル映画であり、ももクロがそこに映っているのだと認識させられる。

つまり、『幕が上がる』という映画において、ももクロは役者でありながら、舞台装置でもあるのだ。

現実世界において、圧倒的に青春ドラマの主人公をやってみせているアイドルたちが、青春映画の王道を演じている。しかも、その演技はまったく自然である。これは、かなり面白い現象だと思う。


そんなわけで、『幕が上がる』は、ある意味では『桐島』を超えたかもしれない。

『幕が上がる』には、『5つ数えれば君の夢』のような鋭利な美的感動はない。『桐島』の示したような批評性も、ないように思う。平田オリザの原作小説にあった面白さは、ずいぶん取捨選択がなされている。

ももクロのファンとして、アイドル映画好きとして、原作小説のファンとして、いろいろとまとまらない気持ちはある。少なからず、物足りなさはある。でもそれは、100点満点だけを目指すことの狭量だろう。

幕が上がる (講談社文庫)

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