アル・カポネによろしく

いやはやまったく。

今年は雨が多いですね。

そのうえ寒い。


春らしい気分もどこへやら。

早くスカッと晴れてほしいものです。


今日のおすすめ本。

2015年4月13日はこちらです。


『カポネ』

佐藤賢一著 角川書店


 ソーダパーラーとは名ばかりで、やはり客にビールを飲ませてくれる店だった。

それもアルコール分を法律の規制値まで落としてしまう、いわゆる「ニアビア」

などではなく、渇いた喉をきっちり喜ばせてくれる本物のビールである。

 違法の商売であるとはいえ、誰が咎めるわけでもない。流れるような筆記体

デザインされた「ソーダパーラー・マチルダ」の看板は、サウスワバッシュ大通りと

ハリソン通りの角を西に三ブロックばかり進んだところに、堂々と出されていた。

 もうサウスサイドに近いので、いくらか雑然とした風のある界隈である。

ソーダパーラー・マチルダ」は背丈ほどもある大きな硝子窓を、ハリソン通りに

臨んだ壁一面に並べていて、その清潔で明るい雰囲気が自ずと往来の目を惹くような

店だった。

 いざ店内に進んでも、おかげで開放的な風がある。が、やたら風が強いシカゴでは、

それも度がすぎてはいけない。たちまちにして、寒々しい感じになるからだ。

「ったく、派手にやってくれたもんだな」

 茶化す口ぶりで始めなければ、アルは自分を抑えられそうになかった。

なにをしたいのかもわからぬまま、闇雲に駆け出したい衝動さえあるのだ。が、

それも努めて押し殺して、かえって慎重にすぎるくらいの足運びを心がけるのが

最初だった。

 一歩ごとに足の裏に、かりかり硬いものが、細かく砕ける感触があった。

ソーダパーラー・マチルダ」が売りにしていた窓硝子が、全て叩き割られていた。

いたるところ店内に散乱しているのは、その砕けた硝子片というわけだった。

(中略)

「あっ、カポネさん」

 そう名前を呼ばれながら、アルでいいといったろうと直さなかった。もちろん、

こちらとしては「アル」と呼ばれたほうが、はるかに気が楽なのだが、そういうわけにも

いかないときがあることを、そろそろアルも弁えるころだった。

 ボルサリーノの純白の中折れ帽に、やはり光沢のある白生地で仕立てたスリーピースの

スーツを合わせ、あげくが黒金の縞のネクタイを締めるという、この日もアルは

笑い話のように派手な出で立ちだった。

 それもこれも、アルなりの工夫である。周囲には立派にみえなければならないからだ。

この男は頼りになると、理屈抜きで直感させなければならないからだ。

(本文より)


実在のギャング、アル・カポネ



映画『アンタッチャブル』ではデ・ニーロが、

カポネ役を嬉々として演じておりました。




こちらは初版本で単行本は現在絶版となっております。

信販売もさせていただきますので、

お気軽にお問い合わせくださいませ。

69fabulous@gmail.com


日々のおすすめ本から、

貴方のお気にいりの一冊が見つかりますように。