復活!!!
今日のおすすめ本。
2017年9月13日はこちらです。
『自我の構図』
三浦綾子著 光文社刊
なんの葉か、地面一面に黄色に散り続けている。右手の崖下の
どうどうというひびく川の上にも、そして笹薮にも、木の葉が
絶え間なくひらひらと、風もないのに舞い降りていた。山の匂いが
快かった。少年の頃、沢深くやまべを釣った時に知った匂いである。
無数の大小の岩に挑みかかるように、青い水の流れはしぶきを上げて
流れていた。
二人は細い山道に立って、その渓流を眺めた。
「水というのは、なかなか描きにくいもんだねえ」
慎一郎は嘆息していった。
(中略)
(形は描ける。が、この水の動きは描けない)
絵はしょせん、激しく動くものを描き得ないのか。流れや、雲や、
そして生き物の動いている姿を描き得ないのか。何にもまして、
近頃、慎一郎が考えるのは、人の心の動きを、ほとばしりを、
描き得ないという嘆きだった。美枝子に対する自分の思いを、
心の動きを、自分の筆では、なんとしても絵に描き得ない。
それが、慎一郎の自分自身の絵に対する不満であった。動きの中の
一瞬を捉えて、動きを出す。それは、あまりにもむずかしいことのように、
慎一郎には思われた。
(本文より)
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