(第36回)だからこそいま


日経平均の昨年末終値は16,111円でした。時価はこれを上回っており、平均株価で見る限り、今年は悪い年とはいえません。
しかし、多くの個人投資家にとって、今年のこれまでの相場展開は、最悪といってよい状況でした。比較的運用がうまくいっているのは、トヨタのような代表銘柄に投資していた人や、ETFやブル投信など平均株価に準じた動きをする商品で運用していた人くらいで、銘柄をあれこれ選んで売買する普通の投資家の成績は、総じて損失勘定になっていると思われます。
特に新興市場では、何分の一という大幅下落銘柄が続出しており、ありきたりの銘柄ではなく、特色のある銘柄を選ぼうとすればするほど、深刻な下落リスクに直面する結果になったといっても過言ではありません。NYダウ新高値に連動した直近の局面でも、大型優良株の上昇で平均株価が高騰するのと裏腹に、新興市場では年初来安値を更新する銘柄が続出しています。


個人投資家の多くが銘柄選びに自信をなくす状況の中、「素人が個別銘柄に投資するのは愚かなこと」として、ETFや代表的な大型株をタイミングよく売買するのがもっとも賢明な方法だと主張する評論家がいます。日経平均やTOPIX、あるいは主力大型株を買っていれば、機関投資家の買いが入る分、それ以外の一般の銘柄に投資するより好成績が挙げられるというのがその根拠です。
ただし、この根拠は間違っています。今年、日経平均やTOPIX、あるいは大型株指数が中小型株指数や新興市場の指数を大きくアウトパフォームしたのは循環にすぎないと考える必要があります。現在、日経平均採用銘柄(=主力株)と第1部市場全体のPERはほとんど同じですから、主力株が特に高く買われているわけではありません。それ以前は、主力株が中小型株に対してむしろ出遅れていたのです。


大型株と小型株の人気は、相場サイクルの中で循環します。今年前半のような金融相場の最終局面では、相場の先行きに警戒心が強まる中、大型安定株が買われ、先駆した小型成長株が売られるのは自然な相場現象だったといえます。
現在は、業績相場への踊り場に位置すると見られます。業績相場へのスムーズな移行を妨げているのは、本来の克服課題である金利上昇懸念ではなく、景気のピークアウトに対する懸念です。いざなぎ景気超えは確実としても、来年前半の持続には不透明感が漂っています。したがって、金利が低下し、金融相場に逆戻りしたような市場ムードの中、優良大型株が買われ、新興市場銘柄をはじめとする小型株が再び売られているわけですが、この状況はもちろん長続きする性質のものではありません。
景気の不透明感は険悪なものではなく、金利の低下に限界がある以上、大型株の上昇と小型株の下落にも限界があります。景況感が落ち着いてくれば、大型株は膠着的な展開となり、小型株の業績変化率(景気に対する弾性値)の高さが見直される可能性が高く、業績相場の初動期から第1局面までは、大型株よりむしろ小型株の活躍が目立つはずです。


いま、多くの個人投資家のマインドは深く傷ついています。先週発表された統計によれば、9月の最終週、個人は4742億円も売り越しました。先週も4月高値期日の通過で、個人の大幅売り越しが続いたと見られ、見切り売りによる下げがますます個人投資家のマインドを萎縮させています。
6月、7月、8月と新興市場をはじめとする小型株の反発期待が声高に叫ばれてきましたが、ここにきてはほとんど聞こえなくなりました。しかし、株価の状況が安易な期待を許さなくなり、先行きが絶望的に見えれば見えるほど、転換の時期は意外な形で訪れるというのが過去の経験則です。
かつて超小型銘柄が大幅な株式分割を実施すれば、それだけでけたたましく上昇し、普通の銘柄に地道に投資するのが莫迦莫迦しくなるような時期がありました。
いまはその逆で、キャノンや信越化学のような大型優良株でなければ、機関投資家が買わないので上がらないというような絶望感を持つ投資家が増えています。
だからこそ、いま小型株に注目すべきだと私は思います。新興市場銘柄をはじめとする小型株は7月安値に続く二番底をいままさに形成中と考えます。