バンド紹介:Can


1968年、西ドイツのケルンで結成。現代音楽を学んでいたホルガー・シュカイ(Holger Czukay)とイルミン・シュミット(Irmin Schmidt)の他、ミヒャエル・カローリ(Michael Karoli)、ヤキ・リーベツァイト(Jaki Liebezeit)等が参加した。1969年、デビュー・アルバムの『Monster Movie』を発表。実験的なサウンドながら映画への楽曲提供を通して徐々に知名度を上げていき、ボーカルにダモ鈴木(Damo Suzuki)を迎えて以降はロック・バンドとしての支持を固める。過渡期とも言える1970年の2ndアルバム『Soundtracks』を経て完成した1971年の3rdアルバム『Tago Mago』は、全盛期のラインナップで全曲を制作した最初のアルバムであり、バンドの存在を全欧に知らしめる傑作となった。1972年の4thアルバム『Ege Bamyasi』では収録曲「Spoon」がスマッシュ・ヒットを記録し、商業的にも成功を収める。しかし、1973年の5thアルバム『Future Days』を最後にダモが脱退。バンド自体は1979年に解散した。1989年と1991年にはダモを除くメンバーで再結成し、新作も発表している。2001年、ミヒャエル死去。


ドイツがロックに最も大きな足跡を残したのは間違いなく1970年代前半、いわゆるクラウト・ロックと呼ばれるバンド群によってだが、Canはその代名詞と言っても差し支えない。1970年代後半から80年代にかけての革新的なロック・バンドの多くはCanの直接的な影響下にあり、『Tago Mago』や『Ege Bamyasi』にはPublic Image Ltd.を始めとする様々なバンドのアイデアの源を見出すことができる。実際、Canのサウンドの多様性は驚くべきもので、実験精神を共通項としつつもプログレッシヴ・ロックサイケデリック・ロック、ジャズ、民族音楽電子音楽、ダンス・ミュージック等の要素をそれぞれの楽曲で消化している。残念ながら日本では彼等の音楽性が理解されなかったようで、ヨーロッパでの高い評価に比べて今でも知名度が低いままだ(ボーカルが日本人だったにも関わらず!)。ロックが常に英米を中心に進化してきたと思っている人は、Canを聴けばその考えを改めるだろう。

Tago Mago

Tago Mago

1971年発表、Canの3rdアルバム。当初の構想では1枚にまとめようとしていたようだが、Canのマネージャーでもあったシュミット夫人の提案で最終的には2枚組のアルバムに落ち着いた。その結果、構成のはっきりした比較的聴きやすい1枚目、即興演奏で実験性爆発の2枚目という形で彼等の魅力が最大限に伝わるようになっている。特に2枚目の型に捕われない演奏にはロックの果てしない可能性が感じられ、Canがライヴで見せていたというスポンテニアスでカオスなパフォーマンスを想像させる。時に顔を見せる日本の伝統音楽からの影響は、当然ながらヒッピーだったダモではなく、インテリ音楽家のシュミットによるもの。

Ege Bamyasi

Ege Bamyasi

1972年発表、Canの4thアルバム。最大のヒット曲「Spoon」を含み、前作よりポップでコンパクトにまとまっている分、Canの入門用には最適だ。とはいえ、それは決して浅い音楽を意味しているのではない。むしろ楽曲のバラエティは広がっており、彼等の充実振りを示す完成度の高い作品となっている。なお、本作についてはPavementのステファン・マルクマス(Stephen Malkmus)が3年ほどは寝る前に必ず聴いていたとか、Sonic Youthのサーストン・ムーア(Thurston Moore)がジャケ買いして聴いたらブッ飛んだといったエピソードがあり、Canが時代や地域を越えて影響を与え続けていることを窺わせる。