鹿児島相互信用金庫の不祥事

鹿児島相互信用金庫の不祥事が凄まじすぎておもしろい。

2017年12月15日「不祥事件発生のお知らせとお詫びについて」
https://www.kasosin.com/news/news20171215-1.pdf

2018年4月20日「第三者委員会調査報告書(要約版)の公表について 」
https://www.kasosin.com/news/news20180420-4.pdf

2018年4月20日「第三者委員会の調査結果に基づく不祥事件等の報告について 」
http://www.kasosin.com/news/news20180420-1.pdf

出るわ出るわ。

2018年3月14日に公表された事故者5名。
2018年4月20日に公表された事故者18名。

この数字は「今回の調査でバレて公表された事故者」のみなわけで、実際はもっといるはずだ。

どうでもいいが、事故者はすべて男性である。鹿児島相互信用金庫、職員数670名のうち200名は女性である(2017年3月末日現在)。
それで事故者に1人も女性がいないというのも不自然な気がする。不祥事が生じやすい営業担当に女性はあまり配属されていないのだろうか。ちょっと考えにくいが。

それはともかく、不祥事の内容としては、「顧客から預かった金の流用、不正使用(使い込み)」と「顧客が払うべき金の立替」が多い。

読んでいると、職員の不正認識が限りなく薄かったことがうかがえて、たとえ現場に居合わせた同僚などが「それ、まずいんじゃないですか?」と指摘しても、「え?何がダメなの?」「問題ないでしょ」と真顔で返されたりしただろうな、全然話が通じなそう…という現場の風景がまざまざ想像できてしまう。

「仕事で扱っている(顧客、契約毎に)区分されるべきお金」と「自分のお金」の区別する意識がほとんどなくて「どんぶり」な感じがすごい。

読んでいると、「これ、昭和の話じゃないんだ。2018年にもなってこんな金融機関が日本に実在するんだ」ということにある種の感動を覚える。

そして確信をもって断言するが、「鹿児島相互信用金庫では、絶対にまた類似の不祥事がいくつも起こる」。

まず、発覚した不祥事のうち、「立替入金」「利息を自ら負担」「預り金の流用(支払期日までには支払った)」というものについては、「何が悪いのか理解できない」「不正とされるがそんなに悪いことではないと思う」という人が一定数いる。

なお、研修などをしても「なぜダメなのか」を理解する人を増やすことはできるが、すべての人に理解させるのは無理だ。

また、今回の不祥事の動機として「ノルマ消化目的」が多い。
相当無理なプレッシャーがかけられていたことが推測できる。保険の自爆営業や、ノルマ消化のために顧客に無理やり契約してもらったローンの利息を職員自ら負担している件は、むしろ事故者に同情する人も多いかもしれない。
あと、立替入金についても、業務量が多すぎて物理的に集金の時間がとれない状態だった可能性がある。

事故者の中には、「不正行為を行うことを暗に示唆された」「事実上、不正行為を強いられた」と認識している人もいるだろうし、「事故者はある意味では被害者という見方もできる」ケースは確実にあるだろう。

調査報告書によれば、稲葉直寿理事長は不祥事を「知らなかった」と供述しているらしいが、それはありえない。
稲葉氏の鹿児島相互信用金庫在任期間は長い。ディスクロージャー資料をみると、2008年時点で副理事長となっている。長年、この信用金庫の経営に携わっていて「知らなかった」はありえない。

「不祥事は出すな(不祥事は俺に知らせるな。うちうちで始末しろ)」と指示して「知らなかった」体を装っているというのが実態だろう。

鹿児島相互信用金庫、事実上、組織的な(理事長はじめ経営陣公認の)不祥事だな、というのが率直な感想だ。

理事長や専務理事(営業統括本部長兼融資統括本部長)が退任するのは当然として、退任時に退職金が支払われるのは不適切だと思うが、さて、いくら支払われるのか。
ぜひ週刊誌等々、取材して公表して欲しいと思う。

そんな鹿児島相互信用金庫の再発防止策をみてみよう。
11項目も挙げられている。


1.倫理、コンプライアンスに特化した研修会の実施
2.自店検査の厳格な原則的方法での実施による内部統制機能の強化
3.預金の一時的流用に対する不正認識の教育
4.不祥事件報告制度の周知徹底と実践
5.不祥事件が発生した場合の厳格な処分★
6.外郭団体預金管理の内部統制の確立
7.支店長権限行使に対する内部牽制の確立
8.職員の経済状況の調査と確認
9.不祥事リスクの洗い出しと迅速な調査
10.内部通報者の保護★
11.事務取扱規定の厳格な運用

この中で最も重要なのは、5番目の「不祥事件が発生した場合の厳格な処分」だ。

調査報告書をみてみよう。

「不祥事件が発生したにも関わらず、事故者が退職していないために、金庫では不祥事件を起こしても退職させられることはないとの風評が組織内で一部情勢されてしまった」
(「不祥事件に関する第三者委員会 調査報告書(要約版)」P.11)

というか、事故者がいままで通り勤務していれば、職員は「別にそれはやってもいいことだ」という会社からのメッセージと受け取る。つまり不祥事件は「会社公認」となる。

調査報告書で「職員の間で、内部通報者に対する報復人事や不利益な扱いがなされるのではないかとの不安が払拭しきれていない」とのべられているが、「事実上、不祥事故は会社公認」で、理事長も「不祥事はだすな(俺に知らせるな)」という意思表示をしていたなかで、不祥事件の指摘などしたら、「余計な事を言う煩わしい奴」として報復人事や不利益な扱いをもろに受けるのは火を見るより明らかだ。実際、報復人事等々をくらった職員もいたのではないか。

鹿児島相互信用金庫が組織一丸となって告発者を沈黙させて潰してきただろうことは報告書から読み取れるわけだが、例えそうでなくても、「事故者から内部通報者を守る」ことは難しい。

はっきり言って、不祥事件の内部通報者が誰だかは大抵事故者にバレる。
状況的に不祥事件を知りうる立場の人間は限定されるし、普段の言動からの推測もある。どうしても誰が通報者かはバレざるをえない状況の場合が多い。

そして、処分後も事故者が同じ社内に勤務していれば、通報者が事故者から報復を受ける可能性が高い。それを完全に防ぐのは非常に難しい。報復を完全に防ぐのなら事故者を退職させるのが一番確実だ。大きい会社ならまったく接点のない部署に異動させることも可能かもしれないが。
正直、「不祥事件が明らかになれば事故者は退職する」という確信がなければ内部通報はリスクが高すぎるので普通しない。当たり前だ。

「厳格な処分(事故者を確実に退職させること)」は「内部通報者の保護」にも直結するのだ。


それにしても鹿児島相互信用金庫の再発防止策、「職員の経済状況の調査と確認」など、どう実施するのか、また効果があるのか意味不明なものも含め、11項目もあるのに、「ダイレクトにもっとも効果が大きいはずの防止策」がない。

不祥事件を見ていると、明らかに職員が現金集金しているケースが多い。

事案C:日常の集金活動が多忙であったためにお客さまを訪問することができず
事案D、E、G:お客さまから預かった定期積金解約金や集金先の売上金の流用を繰り返し
事案F:お客さまから預かった定期積金掛込金を自己の借財返済等に充当。
事案L:お客さまからお預かりした定期積金掛込金を流用。流用したお金は、集金業務が間に合わず集金できていない他の定期積金に入金し約定集金率が悪化するのを防止。
事案M:定期積金の延滞発生を防ぐため自らの金銭による立替入金
事案R:ローンについてお客さまの自宅を訪問できず、当該ローンの延滞発生を回避するため融資返済を自らの金銭により立替


鹿児島相互信用金庫、現金集金多過ぎ。

ここで同時期に大きな不祥事件が発覚したソニー生命のホームページをみてみよう。

金銭の取扱について

当社では、2017年9月以降、担当者が現金・小切手をお預かりする取扱を廃止しています。

担当者が以下の対応をすることはございません。
お客さまより現金・小切手をお預かりすること
(名目の如何にかかわらず、お預かりすることは一切ございません)
お客さまに代わって振込手続を行うこと
保険料のお振り込みに際して、「ソニー生命」名義以外の口座(社員名義・募集人名義の個人口座や、代理店名義口座等)をご案内すること
当社社員がお客さまとの個人的な金銭貸借を行うこと

当社からお客さまへ金銭をお支払いする際は、「ソニー生命」名義で振込を行います。直接現金でお支払いすることはございません。
当社からお客さまへ金銭をお支払いする際は、あわせてお客さま宛にお支払いをお知らせする通知物をお送りしています。内容・金額等に相違ないかご確認ください。

(出典:ソニー生命 詐欺等の金融犯罪にご注意ください
http://www.sonylife.co.jp/info/popup/crime.html

ソニー生命、10年以上前から「担当者による現金集金」は禁止になっていると理解していたので2017年に廃止というのは意外だ。
おそらく、「原則禁止」から「例外なく禁止」に変わったのだろう。

現金集金はどうしても事故も不祥事件も起きてしまう。ついでに手間暇もかかる。

コスト削減の面からも普通は口座振替を推進しているはずだ。

いまだに現金集金が多い金融機関というのは、「真面目に不祥事件防止に取り組んでいない」「無能」と断言できる。

とはいえ、ソニー生命鹿児島相互信用金庫ではまったく顧客層が違う。

信用金庫で現金集金を完全廃止することは難しいだろうことは理解する。
でも口座振替を推奨して「口座振替キャンペーン」でもやれば劇的に現金集金件数を減らせるはずだ。

職員の業務負担の軽減の面でも重要だ。

大体、職員も「ていうか口座振替にすれば現金集金なんて必要ないのに。いまどき現金集金とかないから」と思いながら仕事するのは精神的にもすごくきついのではないか。


なお、現金預かりのある金融機関も、通常タブレット端末を導入している。
いまどき手書きで預り証を発行している金融機関なんてほぼないのではないか。

と思っていたが。

渉外業務等において、お客さまから現金等をお預りした際に、手書きで発行していた「お預り証」を電子化し、携帯型プリンターにて印刷して発行することにより、渉外業務の効率化と期日・保管管理を強化し、併せて職員の不正防止を図ります。

(2015年5月29日「タブレット端末の導入について」長野銀行
https://www.naganobank.co.jp/uploaded/attachment/1477.pdf

え。長野銀行、2015年まで「手書きの世界」だったのか。割と衝撃である。

いつ、誰から、いくら預かったか、また、預かった現金は確かに入金されたかを即時にシステム的に把握するにはタブレット端末導入はかかせない。

タブレット端末を導入した方が、預り証を手書きする状況より、事故や不正を低減できるだろう。
だが、タブレット端末を導入しても立替入金などの不正を防ぐのは難しいだろう。

例えば、支払期日がせまっているにもかかわらず、訪問しても留守が続いた場合、立替入金の誘惑に抗える人間は少ないだろう。

また、預り証が適正であることにまったく頓着しない顧客の方が多数派だ。
例えば、本来毎月入金しなければいけない積金や保険料などを、実際は3か月に一度の集金にしてしまって職員が立て替えたり個人的に預かったりするなどの顧客と営業職員のなれ合いをなくすことなど現実問題として不可能だろう。

不祥事件防止の観点からも、職員の稼働軽減の観点からも「いまどき現金集金なんてない」。

危ない金融機関の指標として「現金集金を行なっている顧客数および全顧客に占める現金集金実施顧客の割合」はすごく使えると思う。

どこか調査しないだろうか。