あれから、これから

桜が咲いて、もう散りはじめている。


歩いている人の髪に、桜の花びらがとまっている。
男性にも、女性にも、若い人にも、年配の人にも。
桜は同じように花びらを降らせる。


あの日の前にはもう戻れない。
それはいつのときも変わらない。
何があったとしても、時は戻せない。


痛ましいことがあっても、
喜ばしいことがあっても、
時間は桜の花びらのように、
ただ、降ってくる。


降ってわたしたちの内に積もる。
痛ましいできごとが見えなくなっていく。
よろこばしいできごとも見えなくなっていく。


でも、なくなりはしない。


よろこばしいできごとを大切にするのであれば、
ときおり、上に積もった花びらをとりのけて、
それを眺めたいのであれば、
すぐ横に埋もれている痛ましいできごとも、
大切に抱きしめて生きていくことだ。


両親と妹を失った少女が祖母の膝の上で笑っている。
その笑顔を、自分のこどものその年頃の笑顔の思い出ごと抱きしめて、
わたしはこれからを生きていく。


そうでなければ、そのようにでなければ、
もうわたしは生きていけない。