2007-03-11
■春は名のみの風の寒さよ(注:超長文)
三月十日、土曜日。
寒の戻りがきつくて朝から大変な冷え込み。しかも雨降り。そんな篠突く雨の中を、九州国立博物館「若冲と江戸絵画展」に行って参りました。
元々美術には疎いので、ジャクチューて何?誰?と言う人なんですが、去年の夏、東京で始まった若冲展と連動してこのはてなダイアリーに若冲の絵画がモチーフに使われ出したのが始まり。現在テーマに使用しているモザイク画に心を奪われてしまいました。東京でしか見られないんだったら諦めたかも知れませんが、九州にもやってくる!だったら見に行かないと、実物に会わないと!
しかも母親が夏休みに東京美術館巡りの〆に若冲展に行ってきた、と自慢するもんだから悔しくて仕方なかった(笑)
しかしここ半年ほど体調を崩していて、去年の時点では行く気満々だったのに、年明け、いざ九博展が始まる頃にはすっかり気が鬱いで外出が億劫になり、一度は諦めました。人混み嫌だし、疲れるだけだし。
それなのに街中で鮮やかなポスターを見る度に、テレビでスポットが流れる度に、やっぱり見たい。それに、今回を逃したら、次に見られるのはいつになるか分からない。こんな大々的な若冲展が今後三十年以内に開催されるとは限らない!
やっぱり行こう、とようやく決意したのは実は九日、金曜日の夜。
バスの時間を調べ、電車の乗り継ぎを調べ、どうせ行くなら、と「ぶろぐるぽ」にまでエントリーしていざ出発。
普段美術展に足を運ぶことがないので比較が出来ないんだけど、やはり楽日前日と言うことで、人は多かったんだろうと思う。特に目玉である若冲作品の前はすごい人だかりで、間近で見るには並ばなければならないほど。
まずは噂の葡萄がお出迎え。
いくら恵まれた環境にあったとはいえ、二十歳そこそこの若者がスポーツカーではなくてこれを選んだというのが素晴らしい。世の中のお金持ちには、ぜひ、こういう風にお金を遣っていただきたい、と一庶民は思います。だって私らが一生働いたって、このコレクションと同等の美術品を一点、無理して二点買うのが関の山だろう(いやむしろ買えないだろう)。これだけのものを蒐集し、管理し、保存していくなんてのは無理。プライス氏にはひたすら感謝、の一言。これからもぜひコレクションに力を入れてください。で、またいつか見せてください。
そして次で皆足を止めていた。圧巻の猛虎図。
パラノイアチックに書き込まれた毛並みは、毛足の長い布を貼り付けているんじゃないかと疑いたくなるほどの質感。顔はユーモラス。韓国絵画の虎によく似ている。
江戸の画家にとって虎はよほど魅力的なモチーフだったらしい。今回も六点ほどの虎図があったが、長沢芦雪の虎の前では皆が絶句し、足を止め、次いで苦笑を漏らしていた。以下は私の隣にいた若者たちの会話。ちなみにワタクシも同感です(笑)
「これさあ…虎見て描いてないよね?」
「絶対背中にチャックがあるね。で、中には人が入ってる」
「タイガーマスクだよ、タイガーマスク」
勿論芸術性の高さは必ずしもディティールの正確さとイコールではないんだが、この猛虎図は、写真やテレビで本物の虎を見慣れている現代人からすると「ありえねえ!」の一言。しかし見たこともない虎の絵をこうも雄々しく、精悍に描けるのは素晴らしい。
芦雪は他に白象と黒牛の屏風(でかい!そして可愛い)牡丹孔雀屏風、軍鶏図等がありましたが、猛虎図で苦笑していた他の観客たちもそれらにはただただ見入っていました。
前述の若者たちは軍鶏についても面白いことを言っていました。ちなみにワタクシも(以下略)
「この軍鶏は足がいいよね、こう、太くて」
「物凄い強そうだよね」
「てゆーか、性格悪そう。絵って描いた人の性格出るよね」
…確かに一筋縄ではいかない御仁だっただろうなあとは思うけどさあ(苦笑)
美術には疎い私が、今回事前に名前を知っていた画家はただ一人。円山応挙。しかも足の無い幽霊を初めて描いた人、と言う認識でしかありませんでした。だから実は応挙がそれ以外にも素晴らしい作品を多数残していたなんて知らなくて、懸崖飛泉図屏風の前で呆然。特別展示、と言うことでガラス張りではなく、素のままで晒された屏風。約40秒の感覚で移り変わっていく照明。明るい光の下ではよく分からなかった松の緑が、照明が少し落ちると鮮やかに浮かび上がる。墨だけでこんな表現が出来るとは。奥が深い。
酒井抱一、鈴木其一の作品群も素晴らしかった。其一の狐の嫁入りはとても微笑ましい作品だが、これに対するプライス氏のコメントも微笑ましい。誰か狐の嫁入りについてもっと解説してあげて下さい。
江戸琳派の各作品では、植物を描いたものが特に好きだった。其一の貝図は残念ながら今回展示されていなかったようだったが、柳に白鷺、青桐・紅楓図の透明感がいい。鈴木守一の秋草図は、その鮮やかさに思わず息を呑んだ。
そしてお師匠様、抱一の三十六歌仙図。昔ッから、こういう事考える人っていたのね…きっと描いてるご本人が一番楽しかっただろうなあ。
そして大目玉。伊藤若冲「鳥獣花木図屏風」。色鮮やかな楽園図。18世紀の作品だというのに、今ですら(だからこそ?)斬新に映る色彩。単純化された動物たちの造形の素晴らしさ。このブログのテーマに使われているのは左隻です。
右端にいる、正面を向いた鵞鳥が可愛くてお気に入り。
右隻の左上にいるイタチのような謎の動物は、子ども向けパンフによるとラッコらしい。ラッコ…?
四階の文化交流展示室前の待ち合わせ用メッセージボードに「楽しんでくだサイ プライス」とあったのは、誰かの悪戯だったんでしょうか。洒落てるわ。
時間をかけて見たかったので、ゆっくり回ったのは確かですが、気がつくと三時間が経過していました。記念に図録を買って、勿論太宰府天満宮の参道で梅が枝餅を買って帰りました。ああ、長い一日だった(そしてここまで読んでくださった方、お疲れ様でした)







