2009-10-25
■[創作] twnovel-01
Twitter上で書いた140字(タグの制約で131字)小説群.
冷凍庫でキンキンに冷やした月を夜空に掲げて,そこから降りてくる靄を静かに肺に満たせば,いつの間にか季節は冬になって,月は小さく遠くなり,僕の手もまるであの天蓋の上にまで届いているかのように長く長く見えてくるのであった.
冷蔵庫から買い置きの月をひとつ取り出してみると,前に買ったのより少し小さいような気がした.かじってみるとがりりと音がした.月の堅くなる季節が来たのだ.もうすぐしたら凍月が作れるな,と思いついて僕の喉が鳴った.月を肴に一献.冬はこれに限る.
「冬の空に向かって舌を出したらだめよ」と祖母は教えてくれた.どうして,と幼い僕が訊ねると,彼女は舌を小さく出して答えた.「月に舌がくっついて取れなくなっちゃうのよ.冬の登り棒みたいにね」――それ以来だ,僕が登り棒を舐めないように気を付けているのは.
徐に彼は徳利を傾けた.水滴が水面に落ち始めた.僕も彼も,赤い水面に浮かぶ光の河を見つめていた.星たちだけが瞬いていた.ぽとん・ぽとんと波紋が何度も何度も星々を揺らし,――とうとう一つが僕たちの杯に落ちた.僕たちは歓喜の声を挙げて星の浮かんだ酒を煽った.
梶井の奴が書いてから桜は血の色ということになったもんだが,俺ァ,兄さんよ,あの月は檸檬だと思うんだ.おう,あの檸檬よ,智恵子の噛んだアレよ……おっとそいつは別かな.ともかくほら見上げてみなよ兄さん,梶井の奴ァあんな天辺に爆弾ひとつ据えて逝ったんだぜ!
立春から幾日かが過ぎたけれど,見上げた雲は相変わらずずしりと重く,大気は僕の顔を突き刺すように冷たかった.せっかくポケットで手を暖めたのに,握っていた携帯電話が震えた.悪態をついた僕に『花見の予定を立てましょう』とメールは言った.今年の春はこんなふうに始まった.
「それから貴方はこのプルダウン・メニューからタイムゾーンを選ぶの」と彼女は言った.オーケイ,1853年から1869年を選ぶよ.僕はメニューを開き,(幕末)という項目を押した.「日本,幕末期.間違いない?」ないとも.「それじゃあ,来世へ出発ね.良い旅を」
「アルデバランの裏側にはもう一つの地球があって,そこにもう一人のあなたが住んでいるの」と彼女は言った.きみもそこにいるのかい,と僕が訊ねると,彼女はただ微笑んだ.それで,僕たちはお別れをした.さよなら.さよなら,また.そうして地球には彼女だけが残った.
2009-09-26
■[創作] 20分間でどんなものが書けるか
こうなりました.
二十分で小説を書く.午前中にそんなことがTwitter上で言われていた.二十分という感覚は特に意識したことはないが,ものを書く時の数十分というのはあっという間に過ぎる.気がつけば空腹で,いや,空腹で気がつけば日が暮れているなんていうこともある.
でも今はそんな心配も無い.もう日は暮れた六時一分で,ほんの三分前まで僕は布団の上にいた.僕はきりの良い数字というやつが好きで,その良いキリの直前に思い立ったことにはすんなりと手を付けることができる.……考え事をする時間は,きりの良い時間から逆算して決めることにしようか.
この辺までは書き始める時から何となく決まっていて,勢い良く書いているのだけれど,そろそろネタも無くなってくる.推敲をしない分進む速度は大きいけれど.そう,速度が速いとは書かない.そういうリダンダントを私は嫌う.頭が頭痛で痛いとかよく言うよね.でも,辞書で単語を引いたら,例えば「巍峨」という言葉を引いたら――これは今まさに引いてみたのだが――「山や建造物などが高くそびえ立つさま」なんて書いてあって,じゃあ「剣が峰は眼前に巍峨として聳え」とか書いたらリダンダントになるのだろうか,と時々思う.その辺は,まあ,辞書の説明の都合なのだろうけれど.
何の話をしていたのだったか.そうそう,もう日が暮れているのだった.今は十八時七分で,実は辞書の起動が遅かったり,miが折り返しモードになっていなかったりで,一分ばかり時間を取られているけれど,まあ七分だ――八分が過ぎた.今の言葉で分かるように,私はMac OS Xの上でmiを使ってこれを書いている.タイトルは名称未設定 2だ……折り返しモードが即座に反映されなかったので,閉じて新たに開いたのだ.そういえばまだ保存していなかったのでここで十秒ばかりを行使して安全策をとっておく.フールプルーフという言葉があるけど,とりあえずフールである私は予防策をとることでフールでないことを示してみたり.
日が暮れているという話に再び立ち戻ってみると,今日はもう九月の末で,私が進級してからもう丸六ヶ月が経過したということになる.この六ヶ月で何を学んだかと言われたら少々心もとない.去年からずっと考えてきた悩みは解決したので,前進はしているのだけれど,その間には学問は疎かだったので.追試だけは免れたのは不幸中の幸いと言えるだろう.復習を怠らず,しかし新しい知識を積極的に吸収していきたい.
この時刻に日が暮れると,今月の前半に北海道に行ったのだけれど,その時もこれくらいの時間には日が暮れたなあということを思い出す.特に最初の晩は,もう今の東京よりも寒くて上着を羽織っているのに焚き火にあたっていないと震えてしまうほどの寒さの中で,網焼きのジンギスカンを食べていたのでよく憶えているのだ.ラム肉だと言っていたけれど,あまり癖はなくて,羊肉とはどのようなものかと身構えていた私にもおいしく食べられた.あれなら常食にしても良いと思うくらいだ.そうそう,あの時に食べたサンマの刺身は実においしかった.その後の北海道巡りの間,その味が忘れられずに,2回さんまの刺身を頼んでみたのだけれど,結局最初のあれに勝るものはなかった.あれはどうやって手に入れたのか,提供者のおじさんに訊いてみたいところだ.
蝉の鳴き声がいつのまにかしなくなったな,ということを意識するのも,この時間だろうか.東京にはあんまりヒグラシがいないようで,近くに神社の森があるにもかかわらず,カナカナという声は聞こえてこない.ステレオタイプなイメージではあるが,あの声は一日の終わりだとか夕方だとか帰り道だとかいう少年の日の記憶を呼び起こす.しかし私は当時も今もアクティブな人間ではなく,その帰り道というのは習い事の帰りだったのだけれど.
おや,意外に書けないものだ.当初の予定はこの2倍弱は書けると思っていた.ちょっとした道草と,誤変換の多いことえりのせいだろうか.巍峨が一発で変換できれば,辞書を引かずに文を組み立てたので,もう少し時間を稼げたのだが.そういえばLSDを入れるのを忘れている.おっと,麻薬じゃないから理系の人はググってください.それを入れても用語が足りないことはままあるのだけれど.そろそろ時間切れかしら.……ほら,20分になった.
1カ所文意が通らないところがありますねえ.注意したつもりだったんですが.あと,自分の文章には逆接が多いですね.
しかしおもしろかった.きっかけを作ってくださったG.A.W.さんに感謝.