断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

TRPGにおける戦術とストーリー・ゲーム

 先日の、タスク解決とコンフリクト解決から思いついたことをつらつら。


 従来のRPGにおいて、PCは有利な状況を引き寄せるよう動くのが当たり前でした。戦術、ととりあえず呼びますが、実体は小手先で優位さを追求する行動に近いかもしれません。
 例えば、「モンスターの弱点と推定されるものを準備して洞穴に潜る」「調査の手順と、どこに行けばどのような情報が得られるのか把握している」「敵対組織に捕らえられた時、命を長らえる情報の漏らし方」「相手の戦闘手段から、苦手とする状況を推測し、そこで戦うように仕向ける」などです。
 ものによっては特定のシステムでしか有効でない手法もありますが、例えば情報収集や交渉の方法論は、一度覚えれば他の世界でも応用可能です。こういった戦術の蓄積が、GMはより複雑で難しい状況を提供し、プレイヤーは努力の末にそれを突破するという、ゲーム的な楽しみを強めていくことになるのでしょう。
 先週の帰り際、何人かがD&D第3版のモンスター本をネタに会話していました。その中で「形はそっくりだけど、特殊能力や弱点の異なるモンスターが幾パターンか準備されている。例えばこいつ、外見はアンデッドにみえるけど、実はデーモン。プレイヤーを引っかけるために作ったとしかおもえねー。」という話が。笑いつつ、プレイヤー知識を逆手に取った罠が成立することに、D&Dは正統派RPGなのだなと再認識した次第です。


 余談ですがうちのサークルでは、ある程度以上の古株になると「サイコロを振ったら負け」という考えで、シナリオの障害と対峙していく傾向が見られます。要は「ダイスを振ればどんなに低い確率であれ、失敗する可能性がついて回る。大抵のゲームには、ファンブルとか自動的失敗とかあるでしょ。だから、最良の解決方法は、サイコロを振らなくても勝っている状況を作り出すわけです。」(去年Gさんが口にされていたことの丸写し)つーことです。戦略的な動きも含まれるため、この件とは少しずれているのですが、古いゲーマーは割とこういった思考に走る向きがあると感じています。自分も含めて。


 逆にインディ系のストーリー・ゲームでは、僅かな有利さを追求することに、さほど意味のないケースが多いようです。
 これはタスク解決とコンフリクト解決の違いによるものです。殺された知人の日記を探すという行動を例に、差異を見ていきましょう。基本的に前の訳の繰り返しです。また、自分の認識なので、勘違いが挟まっているかもしれません。
 まずはタスク解決。

プレイヤーA(以下PL-A):几帳面な男だって情報があったし、何か書き残している可能性は高いな。彼の書斎を漁ってみるか。
ゲームマスター(以下GM):じゃあ、目星技能で振ってみて。
PL−A:あぶね、ぎりぎりで成功。何か見つかった?
GM:いや、特にめぼしいものは見あたらなかったね。どうやら事件後警察の手が入ったらしく、乱雑に戻した形跡が見て取れたよ。
PL-A:警察署に証拠品として保管されているかもしれないのか。
PL-B:このキャラは私立探偵だから、署内に知り合いがいたりしない?
GM:懇意にしているアル中気味の職員がいるね。彼を通じて警察の保管庫にアクセスできるかは、説得技能で判定してね。
PL-B:じゃあ、手みやげにウィスキーでも買っていくか。修正は得られないかな?
GM:ほいほい。それなら+20%で振っていいよ。

 次にコンフリクト解決。

PL-A:几帳面な男だって情報があったし、何か書き残している可能性は高いな。探してみるよ。
GM:調査に使えそうな技能はあるかい?
PL-A:う、荒事中心の構成だからなあ。(キャラクター・シートを眺めて)学術関係のコネがあるから、殺された男の知人筋に連絡が取れるかもしれない。被害者は、命の危険を感じていたみたいだから、知人に相談したり、何か預けているってことはないかな?
GM:それは理にかなっているな。それじゃそのコネで判定してみて。
PL-A:成功!
GM:それなら、殺された男の友人と連絡が取れた。君が事件を調査していることを知ると、彼は預かったメモ帳を渡したいと言ってくるね。

 つまり前者では適切な能力と適当な行動から解決へ導かれるわけですが、後者だとPCの所持する特徴などから解決の方法を見つけることになるわけです。もたらされる結果は同じでも、プロセスは大きく異なります。
 コンフリクト解決はその名の通り、妨害するものとの争いを判定とするケースが多いです。その争いの過程を、調査の起伏として描写していくことさえあるのです。上記の例は(自分が遊んだ中だと)AGONとかS7Sのやり方ですね。
 コンフリクト解決は、PCの能力や技能をセッションの物語のパーツとして取り込む手法と言ってもよいでしょう。彼らの持つ特徴が物語を進展させる材料となるのです。PCたちをドラマの登場人物と考えれば分かりやすいかもしれません。
 もちろん「何故その特徴がこの状況で使えるのか」筋の通った理由付けが必要です。そうしなければ、プレイヤーが点でバラバラなこと主張しあって、セッションが成り立たなくなるかもしれないからです。PCが物語にアクセスできるキーをいくつか所持いるのは確かですが、それで全ての扉が開くわけではないのです。


 まず利点としてあげられるのは、プレイヤーの知識&経験差の軽減でしょう。キャラクターが物語に組み込まれることからプレイヤーのモチベーションも上昇するかもしれません。そして、戦術的な細かい動きに拘泥されず、目の前の物語に集中できるのも、ストーリー・ゲームが目指す方向性からすればプラスです。
 コンフリクト解決のもう一つの利点は、プレイヤーからの提案で物語に新しい種が蒔かれたり、広がったりする可能性を持つことです。
 先の例だと、殺された男の友人NPCが登場しました。成り行き上、彼は事件の秘密を一部知っているでしょうから、協力者として活用してもかまいません。ひょっとすると彼は犯人と接触があり、PCたちを裏切るのかもしれません。あるいは、中途から狂気の研究に身を投じていくかもしれません。単純に、彼を次なる被害者に仕立て上げてPCの危機感を煽ることもできます。PCからのアプローチも含め様々な展開が考えられます。
 従来のRPGシステムでも可能なことですが、それをルールとして組み込み、意識的に活用するように仕向ける。それがストーリー・ゲームの特徴の一つだと考えています。
#んー、いろいろ書き足りません。困った。