欧州憲法条約ばかりで申し訳ないが

結局リアル・ライフでもこの話ばかり。もっとも週末くらいには話題としては、ローラン・ギャロスの決勝にとってかわられ、ツール・ド・フランスが始まるころには忘れられるだろう。今晩は、60代の年配の人たちとの食事の席だったが、アペリティフが始まって15分もしないうちに、誰からともなく「ところでレファレンダム」...地域別の投票結果の差の話で盛り上がる。血中アルコール濃度0.8g/l以内で切り抜ける。

この日記では、欧州憲法条約 Traité Constitutionnel Européen (TCE)については、まとまった議論を展開しなくとも、まだ小さな話題やクリッピングだけでも、しばらく気長にフォローしていきます。さて、5月29日の投票行動について、media@francophonie で、世論調査結果をわかりやすく紹介しているが、世代別のウィととノンの差について、日本から見ていてちょっと分かりにくいかもしれない点について、補足解説。

ウィとノンの年齢層別統計をみると、ウィが過半数を越えているのは、60歳以上の層だけ。60−69歳で56%、70歳以上が58%。45−59歳で38%だけがウィというのと鋭い対照をなす。これまで伝統的に若者層はヨーロッパ派という傾向があるが、今回は18-24歳で44%だけがウィというのと比べても、60歳以上の層のウィの比率は格段に高い。引退生活者は失業の恐れがないからというのが一つの見方にはなるが、経済状況にあまり関係なく、この年齢層が世論調査で欧州統合に最も積極的な傾向を見せるというのは以前からよく知られている。第二次大戦後の欧州統合の推進者のこの世代にとって、EUとはそもそも、2度の大戦の反省の結果から欧州の平和を維持するためのものとして生まれたものだというのが常に理念の中にあり、そしてその結果として60年にわたって基本的には平和が続いていることをこの世代はいまだに意識している、というのがその説明だ。今日も60代の方たちと話をしていてやはりそれを感じた。「若い人たちにとっては、EUと関係なく平和というのはあたり前にようにあるものだからね」とある人は言い、「経験というのは究極には伝達不可能なもの」とあきらめたようにまたある人は答える。

じっさい、ユダヤ人として強制収容所体験があり、人口中絶の合法化運動に果たした役割で、左右の政治的立場に関係なく尊敬されているシモーヌ・ヴェイユ−−1927年生まれだから今年で78歳になるはず−−が、憲法評議会員としての中立義務を一時的に棚上げにして、賛成派の擁護の公的表明を積極的に行い、平和と人権のことばで、欧州統合の緊急性を訴えたが、結局それは彼女の同年代の人々の耳にしか達せず、若い人には影響を及ぼさなかった。この彼女のことばがほんとうに時代遅れのものになっているとすればそれはそれでいいことなのだが−−

あなたがたにとって平和は失われることのない既得物なのでしょう...しかし、勘違いしないでください。1918年にも同じことが言われていたのです。平和と和解は建設され維持されていかなければなりません。...[統合]欧州の歴史はまだもろいものです。欧州は未来と希望の担い手ですが、まだ完全にその成果を結んだものとはいえないのです。
Pour vous, la paix est un acquis irréversible ... Pourtant, ne vous y trompez pas. On entendait déjà cela en 1918. La paix et la réconciliation doivent se construire et s'entretenir....L'histoire de l'Europe reste fragile. L'Europe est porteuse d'avenir et d'espoir mais ...loin d'avoir porté tous ses fruits .


ニュース・クリッピング、2つ。


オランダ国民投票開票中間結果−−EU憲法を63%以上の反対で否決。
Selon un résultat provisoire, les Pays-Bas rejettent la Constitution de l'UE à plus de 63 %

LEMONDE.FR | 01.06.05 | 21h24 • Mis à jour le 01.06.05 | 21h39


「ヴィヴ・ラ・フランス!」−−アメリカのネオコンは喜びを表明。
"Vive la France !" : les néoconservateurs américains expriment leur joie

LE MONDE | 30.05.05 | 14h30 • Mis à jour le 30.05.05 | 14h30

反省 ^^;

やっぱり、車に乗って事故を起こす可能性があるくらいのアルコール血中濃度のときは、はてなで、ジグザグやるのもよくないようだ。一夜明けて、昨日の記事のブックマークについているコメントを見ていると、この日記を読みにきてくれる方に誤解を与えたのではという危惧を感じ、ちょっと反省。EU憲法条約の国民投票の結果については、これからも書いていくが、仏国内の議論の中での特定の政治的立場だけにポイントをしぼった書き方は、議論の前提条件を共有しない読み手にとってはあまり意味がないので、方向転換をしますということが本旨だった。id:nobody さんの「えくすくずもあ」は私には寝耳に水...その著作も読み個人的には期待もしているド・ヴィルパンの首相起用についても、日本でのある方面への人気を意識したあまのじゃくから、わざと意地悪な書き方になっていました(笑)。

EU憲法条約のフランスの国民投票の否定について、「基本的な前提をすっとばして、EUがこれでおしまいになったかのような、あるいはフランスがEUを離れるというような意味付けに単純化した論点」云々と書いたとき、ニース条約、これまでのさまざまな条約の積み重ねで、少なくとも経済的、域内政策的には、そして憲法の第2部にあたる人権規約の部分でもすでにEUは機能しているし、機能していくということ、およびそれを踏まえた上でのEU憲法条約の意味付けについての確認なしに、「史上最大のノン」でEUはこれで終りというような一口予言で全てをすましてもしょうがないということ、そして、id:cinna85mome さんがじょうずに問題を提示しているように「「「ノン」派の主張の厚みをもっと伝える」ことを怠れば今回の現象を単に「フランスの世論がEUに反対」というような短絡化に陥ってしまうことになり、これについては私自身のこれまでの−−一つの政治的立場に特化した−−説明のアプローチにも誤解を生む余地があったということを−−id:cinna85mome と同じ迷いを共有しながら−−昨晩は言いたかったのだが、舌足らずになってしまっていたようだ。

そして、その「EUがこれでおしまいになったかのような、あるいはフランスがEUを離れるというような意味付けに単純化した論点」、2つの誤解に対しては、id:Montferrandさんの今日の日記 「ヨーロッパは立ち止まらない」で、短いがはっきりした説明が書かれている