千と千尋の神隠し

宮崎駿


宮崎監督が自由奔放に想像力を膨らませたファンタジー映画です。造形されたイメージが細部まで贅沢にてんこ盛りで、かなり強引にさまざまな要素を盛り込んであります。中には、もうほとんど模倣と言って良いほどのものも平気で取り入れられています。でもそれらが散漫にならず、ごちゃごちゃとしながらも全体として一つの作品を形作っています。ストーリーは、もののけ姫と違いスケールの小さい、個人的な小品です。でもそれが作品としての成功の要だと思います。奇想天外な架空の世界構築に遊ぶ余裕があります。

千尋と白が握っていた手を離して、白の手だけが残るショットが印象的でした。千尋がちっとも美人ではないのがいい。白龍を追いかける紙の鳥にあっと思いました。釜じいのせりふに笑いました。ご都合主義的にすすむ所も多いけれど、ちっとも気にならないのが不思議です。千尋の心理の動きが丁寧で嘘がないからかな、と思います。リアリティというのは論理的に矛盾がないことととは違うのだな。銭婆のいる森の駅の、電車が行った後の暗さが懐かしい不安を呼び起こしました。魔女の宅急便ににています。銀河鉄道の夜をほうふつとさせます。いろんな過去の映画、アニメ、お話、絵本、それに自分の体験、自分の書いた話、いろんなものが重なり合って思い出されてきます。千尋の両親の乗る車は四駆のアウディでした。

絵が綺麗すぎないのもいいです。となりのトトロは、自然の風景がやたらに綺麗でした。綺麗すぎて登場人物の心の動きが見えにくくなるほど。この映画では、意図してかどうかはわかりませんが、端折るところはあっさりと描かれています。逆にそれが肝心な所に集中するのを助けます。とても独特で複雑な設定の映画なのに、説明シーンが少ないのが偉いなと思います。見れば大体はわかるように作られています。

しかし見終わった後で、見た人がみな満足するような映画とは思えませんでした。あらを指摘する人もけっこういるのでは、退屈に思う人も、怖いと思う子供も、いるのでは。でも私は満足です。もう一度、もっと静かな環境で浸るように見てみたい、そう思いました。

音楽はすこし大げさですが、悪くはないです。エンディングに流れるテーマ曲は綺麗ですね。

終わり方はベストだと思います。あれ以外の終わり方はありえないし、それを正しく選んだ監督は偉い。

個人的には、宮崎監督の映画でこれほど文句がないのはカリオストロの城以来です。不満なのは超ヒット作なため映画館の客の質が低いという点です。途中でうろうろしたり、子供が喋っていたり、あげくに携帯電話の着メロが鳴り出しました。ビジネスとしての映画の成功と、作品の良さが、私の経験からすると妙にミスマッチでした。しかし小泉首相といい、この映画といい、映画ファンや政治評論家でない普通の人の選択眼がレベルアップしていると感じます。日本はずいぶん興味深い時代に入っているのかもしれません。


2001/8/21
few01


2003/5/27追記
この時は金熊賞アカデミー賞に選ばれるとは露ほども思っていなかった。何よりグローバルから、ほど遠い映画だったからだ。しかし、これも国際的選択眼を軽く見ていたということなのだろう。また小泉首相を選んだのは、正しくは国民ではないが、当時の小泉氏の支持率に後押しされる形で党が選んだので、という意味で書いた。