かめくん

北野勇作


いたるところに散りばめられた過去のアニメ、SF映画、日本のSF小説の断片、と、商店街や図書館、安アパートなどのどこにでもある日本の街の風景の合体した作品で、それ自体は、楽しくはあるがそれほど目新しくはない。SFアニメやSFマンガで良くあるスタイルだ。そして私は、それ自体は安易に思えてあまり好きではない。これくらいなら横山えいじのマンガを読んだ方がずっと面白い。

カメ、というモチーフにしつこく、しつこく食い下がるあたりや、言葉遊びに走るあたりは、懐かしい日本SFという感じがする。そして、これももうレトロな感じすらして、あまり好きではない。

でも、単に楽しめた、という以上に残るものがある。それは何だろう。

たぶん現代を鮮明に写しているから、だと思う。あぁ、これは「いま」だなぁ、今の日本だなぁ、と。

北野氏は、その意味で優れた作家だと思う。微妙で捉えづらい「いま」の雰囲気が、背中が痒いような、首筋がひきつるような妙な感じでうまく作品に凝縮している。かめくん、は、かめくんでしか無いのだけれど、同時に、私であり、北野氏であり、みんなであり、日本である。その鏡を見るような感覚が、不思議な魅力なのではないだろうか。


2002/1/1
few01