グラン・ヴァカンス ―廃園の天使(1)

飛浩隆
グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)


残酷であることが、良いことであるかのような著者の姿勢には、全く賛同できない。これを喜ぶ読者が多いだろうことも充分理解できるが、いただけない。それを除けば、大変良く出来たエンターテインメントだと思う。暴力・残酷・エッチな描写をふんだんに盛り込んだ幻想文学風の仮想世界SFである。

著者は、「清新であること、残酷であること、美しくあることを心がけた」と書いているが、その著者のイメージは、見事に具現化されている。構成や背景設定、立っているキャラ、幻想的な描写など、実力は確かだ。

が、底浅いと感じてしまうのは、歳を取ったからか。先日見た『シン・シティ』という映画も、暴力・残酷・エッチな描写がふんだんに盛り込まれたフィルムノワール的な犯罪映画だった。これを誉めたたえる人々がいるのは、充分理解できるスタイリッシュな映画だった。

グラン・ヴァカンスが、透明なクリスタルグラスに注がれた水のような美しさを目指しているとすれば、シン・シティは、機械油に光る鋼鉄のような美しさを目指している。

どちらも才能を無駄なことに使っているような気がしてしまうのは、これも歳を取ったせいか(笑)。児童文学を縛っている倫理や道徳というフレームワークを外して、素直に作ってしまうと、どういうものができるのかを示す、典型的な例だろう。これはこれであって良い。が、なぜこうも底浅く感じてしまうのか、そこに鍵がある。

続編の『ラギッド・ガール』も買ってしまったので読んでから、もう一度振り返ってみるか。