非属の才能

山田玲司
非属の才能 (光文社新書)


「非属」というのは、群れに属さない、という意味だ。最初のページに以下のように書かれている。


・「空気が読めない奴」と言われたことのあるあなた
・まわりから浮いているあなた
・「こんな世の中おかしい」と感じているあなた
・本当は行列なんかに並びたくないと思っているあなた
・のけ者になったことのあるあなた


おめでとうございます

こういう事を言うと、いまちょうど高校受験のため、夜中まで塾に行っている娘に、申し訳ない気もするが、学校というのは本当に変な所だ。エネルギーの塊のような若い連中を、4〜50人も閉じ込めて、右向け右、左向け左と年がら年中同調を求める。

私が学校に行っている頃、また就職してからも、嫌いな言葉がある。「普通、そうじゃない」というやつだ。普通はそんなことしないとか、普通じゃないとか、普通に考えろよとか、普通やってるぞとか、まぁバリエーションはたくさんあるが。一般に否定的な意味で使われる。普通ってなんだよ、てな感じで反感を持った。それなのに、いまや私も職場では、必ずしも異端児を許容できる人間ではなく、組織として大丈夫か、という「普通」を同僚に強要することがある。なんというか「普通の人」を演じていることがある。

この本は、世間、世の中、先生、親、上司の示す、当たり前に従えない連中へのエールである。

著者は『ゼブラーマン』を描いた漫画家で、世界中の非属の才能にインタビューをし、それを漫画にしている。チベットの高僧から、歌舞伎町のホストまで、ありとあらゆる人に会った経験に裏打ちされた言葉は、狭い社会で汲々としてきた小さな常識を打ち壊す説得力を持っている。

次から次に刺激的なフレーズが出てくる。

  • みんなの行く方向にただついていくことに慣れてしまうと、正しいとされることを必死で努力しているのに、いつまで経っても報われない事態になることが間々ある
  • その時点で、いつの間にか人生の定置網にひっかかっていたのだ
  • 問題は、医者や弁護士や東大生や電通マンになる試験はあっても、ブルース・リーになる試験はないということだ
  • 大半の人は、「ただなんとなく有名だから」といった漠然とした理由で定置網にはまり、そのなかでうさぎ跳びをしながら、出る杭に嫉妬している。

すべてに同意できるわけではないが、多くのフレーズに共感を憶える。

このような「人と違う考え方を大事にする」とか「異端児であることに価値がある」という意見を聞いた時に、すぐに思い浮かぶ考えが、それが許されるのは一部の天才だけじゃないか、凡人で奇人だと単に迷惑なだけじゃないか、というものだ。例えば親としては、確率の低い天才の道で成功するよりも、多少なりとリスクの低い成功の道に行ってほしい、と思うだろう。

それに対し、山田氏は、次のように言う。


偏差値の高い大学を出て、誰もが知っている大企業に勤め、良家のお嬢さんと結婚し、高級住宅地と呼ばれる成城や芦屋に住む。本気でそういった人生が最上であると信じている人間が、僕のまわりにも腐るほどいる。(中略)彼らには、「良い群れに属さないと幸せになれない」という親からの呪いがかけられている。

そして、せめて良い群れに入って、苦労のない人生を送ってほしいという親心は、自分の子供の背中に「私は凡人」というタグを貼りつけているのと同じことだ、と言う。成功した異端児が珍しいのではなく、「子供が凡人になるのは、親がそう仕向けているからだ」と。

私も思う。もちろん世間が良いという生活や社会的地位に、大きな価値を見いだす人もいるだろう。ただ、それはどれほどのものか。金は大事だが、金で「やりがい」や「好奇心」は買えない。ほとんどの社会的地位は定年で消え去る。

ブランド品や高級料理など、他人が良いというものを、「他人が良いというから」嬉々として選ぶ人もいる。私には全くピンと来ないのだが、そういう人がいてもいい。ただ虚しくないのかなと思う。自分で良いと思うものを見つけて、それに時間と努力と金を投資した方が、私には楽しいように思う。

さて、この本の最終章で、山田氏は、世界を変えうる予備軍たる異端児たちに、非属の先輩として自分病という病を避けよと書いている。

  1. 自分病その1「私は変わっているんです」病
  2. 自分病その2「自分はいつも正しい」病
  3. 自分病その3「メジャーだからダメ」病
  4. 自分病その4「俺は偉い」病

本質的に非属の才能を持つ連中が、どこまで避けられるかはわからないが、私個人的には大事なことだと思う。こういう自分病の人の話は、評論家ぶっていて、うんざりする。山田氏は、自分病を避ける事は、非属の才能と両立しうるし、逆に視野を広くし、才能を伸ばすのに役立つと書いている。そうであってほしいし、そういう非属の才能が増えれば、日本もずいぶん楽しくいきいきとなるだろう。