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2007-06-30

filinion2007-06-30

疑似科学と教育について。

「NATROMの日記」様へトラックバック

あなたの遺伝子は人間として何年くらい受け継がれてきたと思いますか。

正解は1億5千万年くらいだ。

「新人」といわれる、今のヒトの祖先に当たる骨が確認されているのがこのくらいの年代なのだ。

1億5千万年前の新人の骨って、それなんてオーパーツ

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20070608

いじめられたねずみはストレスでよい遺伝子のスイッチが切れます。

しかし、よい遺伝子のスイッチが切れるのはこのいじめられたねずみだけではないのです。

それを見ていたネズミたちもよい遺伝子のスイッチが切れるのだそうです。

 

いじめは「自分がされるされない」だけでなく「いじめのある場所にいる」だけでその人の能力が十分発揮されなくなるのです。

「いじめをしない」だけではなりません。

いじめはなくさなければならないのです。

 

一人一人の力を十分に伸ばすためにもみんなでいじめをなくしていきましょう。

ほかのこたいをいじめるつよいネズミがはんしょくせいこうするのであれば、つよいネズミのよいいでんしのスイッチがオンになっているってことだよね。

だとすると、いでんしからみたいじめのきょうくんは、

「いじめられたり、ぼうかんしゃになったりせず、せっきょくてきにいじめるがわにまわって、よいいでんしをオンにしよう」

っていうことにならないのかなあ。*1

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20070607

……TOSS(旧称:教育技術の法則化運動)については、以前にも書いたとおりで。

http://d.hatena.ne.jp/filinion/20060827

功罪両面あるとは思うものの、別段、個人的な恨みもないんですが……。

ただ、科学教育(「理科教育」ではなく)に関しては、「罪」の方が大きいような気がしますね……。

 

TOSS道徳では、「力のある資料」を使って心に響く授業をしよう、という主張があって、それはおっしゃるとおりだと思うのです。

実際、活用したこともあるし。

 

ただ、子どもへのインパクト・わかりやすさ(ここ重要)を優先した結果、科学的事実とは遠いところへ行ってしまう、というのでは本末転倒だ、と私は思うのです。

 

「見ろ、この力ある資料を! この力さえあれば、子どもたちの道徳的変容など思うがままだ!」

「待て! お前は力を追い求めるあまり真実を見失っている!」

 

とはいえ、TOSSばかり悪役にするわけにもいきません。

 

思うに、「子どもたちを教えるために必要なら」……と言いつつ、科学的正当性をないがしろにして疑似科学へと傾斜していくのは、実は教育者全体の傾向ではないかと。

 

大阪大学菊池誠教授は、以下のように述べています。

道徳やしつけとニセ科学親和性が高い。

話題になった「ゲーム脳」を例にとってみましょう。

(略)

まともな論文もなく、科学的に証明された説とは言えません。

でも、大人は子どもにゲームをさせない理由がほしい。

「科学っぽい」ゲーム脳説は、そういう大人の「願望」をかなえてくれるわけです。

http://www.asahi.com/edu/university/kougi/TKY200705070320.html

悲しいことに、科学的事実というのは、必ずしも道徳的とは限りません。

獲得形質が遺伝しないとか。*2

 

実際には、

「ゲームが脳に悪影響を与える」

どころか、

「テレビの見過ぎは目が悪くなる」

だって、科学的には証明されていないのが実態です。

テレビ視聴時間と視力の間,テレビゲーム遊びの経験及び時間と視力の間には明確な関係は見出だせなかった。

http://ci.nii.ac.jp/naid/110000038607/

そこへ、正統科学が与えてくれない「道徳の科学的証明」を与えてくれるのが、疑似科学なのです。

それは、教育者にとってはとても魅力的です。

(私自身、「ゲーム脳の恐怖」を題材にした道徳の授業を見たことがありますが、まさにそういう授業でした。

テレビが脳に与える影響は時間の自乗に比例する、とか)*3

 

しかし、それが本当に「科学的証明」かと言えばさにあらず。

上述の「NATROMの日記」様にて、

こんなのは科学の力を借りずに、仏様の力をお借りすれば良いのにと思う

最近の子供には仏様の法力は及ばないのだろうか?

私にとっては、お釈迦様にしかめっ面されそうなことも子供心に辛かったけどなぁ。笑

というコメントがついてますが、実際、

「ゲームをやりすぎると前頭葉が衰えるんだよ!」

「テレビの見過ぎは目が悪くなるよ!」

「いじめは、傍観していても遺伝子がオフになる(意味不明)んだよ!」

「人間の体は大部分水でできていて、悪い言葉を言うと水の結晶が汚くなるんだよ!」

 

……とかいうのは、科学的妥当性という意味では

「嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれるよ!」

「早く寝ないとブギーマンが来るよ!」

と同等なのです。

 

ただ、お釈迦様より「科学っぽい」分だけタチが悪い。

……言う側からすれば、科学っぽい分だけ使いやすいわけですね。信憑性ありげで。

 

ちょっと前のボーガスニュースから引用。

第二の納豆問題か…。

捏造データを元に「健康になる」とのうたい文句で消費者をだまし、むりやり食材を食べさせるというスキャンダルがまた発覚した。

今度はニンジン、しかも聖域たる教育現場を舞台にした疑惑だ。

(中略)

この教諭は今年4月の着任以来、

ニンジンを食べると血液がさらさらになる

ミネラルを摂取でき、身長が伸びる

など、科学的根拠不明の妄言を繰り返し流布。給食のときにニンジンを残す子どもには、昼休みまでかけて食べさせるなどの問題行為のあった疑いがもたれている。

http://bogusne.ws/article/32046389.html

あ、それ、本校の養護教諭も言ってた。

「タマネギ食べると風邪が治る」

とか、

「牛乳飲むと足が速くなる」

とか。

 

これがネタになること自体、こういう言説がいかに広範囲で当たり前に行われているか、という証明でしょう。

 

こんなささいなことまで疑似科学呼ばわりしなくても……と言われるかも知れませんが……。

 

私、最近、

「教育の名の下に疑似科学に踏み込んでいないか」

……と反省するあまり、こういうたぐいの発言も子どもにはできなくなっています。

 

神経質すぎるのかもしれませんが。

 

ただ、

「偏食を治したり、いじめをなくしたりするという正しい教育目的のためなら、多少の疑似科学も許される」

……という見解にはうさんくさいものを感じます。

 

「“正しい目的”のためなら、科学的事実をねじ曲げても良い」

というのは、いろんなカルトとかがやってることじゃないですか?

もっと大きな例で言えばルイセンコ遺伝学とか。*4

本当にそれが正しい教育目的なら、科学的事実とも合致してなきゃなりませんよ。

 

もちろん、科学的事実はわかりやすくもないし道徳的とも限らないですけど、それをなんとかするのが教師の仕事です。

事実を正しく・わかりやすく教える努力を放棄して、事実の方を改変したのでは、視聴率優先で捏造番組を作る人と変わらないでしょう。

 

TOSSに対しても、

オカルトに基づいた確信的な愚民教育だ」

という批判があるとか。

http://ja.wikipedia.org/wiki/TOSS

 

「言ってることは正しいんだからー」

などという安易な考えで、教師が科学的に疑わしい道に踏み込むことは、結局は、子どもの科学的思考力を低下させ、カルトや怪しげな健康グッズなど、疑似科学産業の被害者を生み出してしまいかねません。

ニンジンなんか食えなくたって立派な人間になれますが、カルトに引っかかったりローゼンベルクの人種理論*5みたいなのにひっかかったりしたら、人生大打撃です。

教師は、しっかりした科学的知見に裏打ちされた教育を行うよう、心しなければならないと思います。

 

しかし、「水からの伝言」にしても「ゲーム脳の恐怖」にしても、教える側が信じ切っているように見えるのが恐ろしいところです。

疑似科学の害を子どもに広げないために、科学と疑似科学を見分ける能力を教師自身が身に付けることが大切なのはもちろんです。

とはいえ、それも一朝一夕には困難でしょう。

 

であれば、志ある教員が声を挙げ、疑似科学教育を許さず、これを排撃する風潮を教育界に作り上げることが先決だと思えてなりません。

本稿が、その一助となれば幸いです。

 

さて先日。

 

H「あ、この歯磨きポスター、K村先生のクラスの?」

私「え、はいそうですけど」

H「あー……。こりゃまずいわ」

私「え?」

H「こういう、歯に顔がついてたり、小人みたいな虫歯菌が描いてあったりするポスターって、コンクールに出しても歯科医師会で賞に選んでくれないんだよ。『子どもに謝った科学知識を植え付ける』ってことで」

私「ええー?」

 

正しい教育上の目的のためには、多少の事実の歪曲は許されるべきであるー。*6

*1:適宜改行を入れました。以下、この稿の引用文全て同じ。

*2:遺伝するのはその人が生まれつき持っている遺伝子だけ、ということ。
生まれてからどんなにがんばって勉強したり体を鍛えたりしても、それは子どもに遺伝しない。
かつてこれに反対した人達は、
「個人の努力は次の世代に遺伝する。つまり、私たち一人一人の努力は、人類という種全体の向上に貢献するはずだ! いや、そうあるべきだ!」
という道徳的なロマンに突き動かされていたが、科学的事実はロマンに冷酷だった。

*3:でもそのグラフ、横軸が時間で縦軸が「ダメージ」なのはいいとして、「脳が受けるダメージ」の単位ってなに? 定量化できるものなの?
そもそも、そんなにきれいに二次関数のグラフになること自体おかしくない?

*4旧ソ連で「正しい」と公認された理論。
色々根本的に間違っていたが、共産主義思想に合致した内容だったためスターリンの支持を受け、これを批判する科学者粛清された。
結果、これがソビエトの遺伝学の遅滞を招き、ひいては農作物の品種改良などにも重大な悪影響を与えた。

*5:アルフレート・ローゼンベルクナチスの理論家。

*6:歯磨きポスターの画像は、
http://www.miyazaki-c.ed.jp/isuzu-e/zukou.htm
より。

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