はてなダイアラー映画百選 「シェルブールの雨傘」



 シェルブールの雨傘(Les Parapluies de Cherbourg / the Umbrellas of Cherbourg)
 アマゾンだと、ASINB00005LMHE (色処理のせいか、買うには、ちと高いのが難)
 1963年フランス、91分、ミュージカル
 監督・脚本ジャック・ドゥミ(Jacques Demy )
 音楽ミシェル・ルグラン(Michel Legrand )
 出演カトリーヌ・ドヌーヴ(Catherine Deneuve)ジェヌビエーブ役
     ニーノ・カステルヌオーヴォ(Nino Castelnuovo)ギー役


 あらすじ:フランス北西、イギリス海峡に面する港町シェルブールの雨傘屋の16歳の娘ジェヌビエーブには、20歳の恋人ギーがいた。ある日、ギーに召集令状が来きて出征するのだが、その前の晩、これが最後の別れかもということで一発やりまくる。でも、そのシーンは映画には出てこない。後に彼女は妊娠したことを知る。ギーからの連絡がなく戦死したのではと不安な気持ちで待ち続けながらも、母親の勧めもあって、宝石商のオヤジ、カサールと結婚。このオヤジもけっこうかっこいいし、ワケアリ娘というのも了解の上。それから数年後、ギーは戦争で負傷してフランスに帰還した。が、雨傘屋にジェヌビエーブはいない。ぁぁ♪、人の妻ぁ♪、つうことで、他の娘と結婚し子供もできた。そして、数年後のある夜、ジェヌビエーブは、偶然にギーと出会い、短い会話だけして、永遠に別れていく。それだけの、話。


 finalvent口上:まさか私に「はてなダイアラー映画百選」が回ってくるとは予想だにしていなかった。id:yasaiさんのちょっとしたBombです。「スターウォーズ ジェダイの復讐」から来たので、こりゃ、私の大好きな「フラッシュゴードン」と行きたいところだが、ちょっくらマジこいて、4月から47歳ってことにしたオヤジだから(id:yasaiさんくらいの娘がいても、おかしくねー歳だな。ホントの誕生日は秘密)、ちょっとオヤジ風吹かせて、「シェルブールの雨傘」を薦めよう。


 って言っても、この映画が青春で懐かしいっていうオヤジは私より5歳から10歳年上。全共闘世代か。ま、どの時代の思春期でもちょっと背伸びして上の世代のカルチャーを覗き見るもの。「シェルブールの雨傘」はまさに、思春期の私が、大人の世界ってこういうものかと思った作品だった。実際、大人になってみると、それは、確かに大人の世界そのもの。この映画を、何度見たことか。見るたびに、青春っていうものの痛みがうずく。


 「シェルブールの雨傘」がフランスで作成されたのは1963年。日本では翌年昭和39年10月公開。東京オリンピックと同じ時期だ。同年には、オードリ・ヘップバーンの「マイ・フェア・レディ」が公開される。英派がオードリ、仏派がドヌーヴか。時代は、最初の戦後生まれの世代が青春を向かえたころ。私は小学校1年生。この映画を見たのは中学生の時だ。高校の文化祭に忍び込んで、見た。その後の感動の夕暮れの世界の記憶は今も生々しい。思い返すと、今でも思春期の少年のような気持ちになる、が、あの頃ほどわけもなくチンコが勃って困る歳でもない。


 話はあらすじのとおりで、なんのヒネリもあったもんじゃない。娘の心境の変化っていうのも、なぜここでオヤジに転ぶんだよぉ、と若い日にはツッコミたくなるくらい。だが、ハイティーンの娘と限らず、若い女性の心というものは、そーゆーものなのだ、と知るのは、自分がオヤジになってからだ。今にして思うと、宝石商の若オヤジの気持ちのほうがわかる。アテが外れた青年の心境は、たぶん、いずれ、ほとんどの青年が味わうことになるものなのだ、と言いたいところだが、今時は30代前半の男がナンパとかやってっからなぁ。オメーらいつまで思春期だよ、とも思うが、青春の痛みをホントに引き受けることができなけりゃ、オヤジにはなれないし、子供を育てることなんかできないよ。


 宮台真司は現代は恋愛の過剰流動性ってなシャレを言うが、今の若い人たちは恋人を取っ換え引っ換えしているのだろうか。わからない。私は、自分の恋人だったと思える人は、片手で足りるが、少ないとも思わない。その時、本当にその人が好きだったという気持ちと、それが破れていって、人生ってそういうものだと諦める気持ちと、それにまた、あのころ、いくら好きでも、そのままやって行けっこなかったんだと納得するようになる気持ちが、なんか人生っていうのを、暴風のように通り過ぎていく。30歳過ぎた頃には、自分の周りは、ばたばた、離婚し始めたな。恋愛沙汰なんざ、若い時やっておかなきゃ、人生の半ばでやることになるんじゃないのか。とも言えないか。それでも、そうしたなにかが、「シェルブールの雨傘」にシンプルに表現されていて、その核心を突く、強さに、驚く。


 この映画、全編ミュージカルだ。今時の映画にはあり得ない90分という作品でもある。渡る世間は鬼ばかり特番より短いかもしれないのだから、騙されたと思って見てご覧なさい。できたら、誰もいない一人だけのクリスマスイブに見るといいとも思う。もしかすると、身体のなかの涙を全部掃き出せるかもしれない。


 主役のカトリーヌ・ドヌーヴ、この作品で国際的に有名になった。時代感覚もあるのかもしれないが、この映画のドヌーヴの美しさはそら恐ろしいほど。が、ちょっと悪なキンクな雰囲気もある。というか、この年、彼女はド・サドの古典「悪徳の栄え」(Vice and Virtue)にも出演している。この映画は私は見ていない。ナスターシャ・キンスキーのB級映画時代のような面白みがあるのか疑問でもある。が、こういうお趣味に答えるべくっていうか、1967年には「昼顔」(Bell De Jour)に出演。古典的西洋のお変態っていうのは爆笑できるので、その意味ではお薦めかも。ただ、そのお趣味の人は見ないほうがいいかも。おフランスのお変態はけっこうヤキが入っているので予言しておくが杉本彩なんかもフランスで受けると思う。話をドヌーヴに戻して、これもお変態ものとも言えるのだが、私生活でも共にしたマルチェロ・マストロヤンニ(Marcello Mastroianni)との共演シリーズの頂点「ひきしお」(Melampo)は面白い。「シェルブールの雨傘」が青春の痛みだとすると、こっちのほうは中年の性がらみの恋愛っていうか、汚れっちまった悲しみの趣がある。これって、現在の30代の女性でも楽しめるのではないか。


 音楽はミシェル・ルグラン。あ、もう彼の解説は要らんでしょう。「シェルブールの雨傘」の主題歌のメロディは一度聞いたら忘れませんっていうか、今でもあっちこっちで流れてくるアレだ。この主旋律はCをキーにするとEの半音ずれで始まるという不安定なものだが、主題はまるでバロック時代の音楽のように数学的に展開されている。きれいすぎるよなという感じだ。


 監督ジャック・ドゥミ、日本に「シェルブールの雨傘」のファンが多いせいか、映画「ベルサイユのばら」(LADY OSCAR)に狩り出されて駄作を作った人のいい人。色彩や言葉の感覚はいいのだろうけど、映画監督には向いてないかもぉ。


 さて、歴史finalventとしては、この映画の背景になったアルジェリア戦争に触れないわけにはいかない。「シェルブールの雨傘」は、フランス人にとって、戦争の映画でもある。フランスの地中海を挟んで対岸のアルジェリアはかつてフランスの植民地だった。ジュリア集合のガストン・ジュリアやノーベル賞作家アルベール・カミュはなどアルジェリアの生れだ。アルジェリアは、フランスの支配から独立するために、1954年から8年間に渡って独立戦争をした。アルジェリア各地で解放区ができた。1958年には戦争は頂点に達し、アルジェリア武装勢力13万人にフランスは80万人の兵を投入。これなら、あっけなくアルジェリアが敗れそうなものだが、世界歴史は植民地の廃絶に向かっていた。エジプトのカイロにアルジェリア共和国臨時政府が成立し、社会主義国やエジプトなどアラブ諸国の承認を獲得。思えば、このころ、エジプトがアラブ世界の盟主のような存在だった(ソ連は軍事的にもアルジェリアに荷担していた)。だから、イスラエルとも戦争したのだが。こうした中、フランス側での混乱を収拾すべく、58年に現代フランスにつながるドゴールの第五共和政が現れ、1962年、エビアンで、アルジェリア戦争和平協定が実現し、アルジェリアでは国民投票(今回台湾でやったの同じようなreferendumだ)によって独立した。


 さて、バトン。いつも読ませていただいているid:yukattiさんのお薦め映画が知りたいなと思うで、どうでしょうか?