finalventの日記

2009-08-11

「ブラック・スワン」、読んだ。

 とんでもない本だった。

 いや、トンデモ本ではない。すごい本というのとも違う。村上春樹の小説なんかに近い文体とテーマでもある。

 総じて呆れた。こういうやつがいるんだなぁというか。

 自分はタレブほどではないが、世界を変なふうに考えるのだけど、タレブのほうは筋金入りの変だった。

 というか、これは、シリアの正教徒的というのか、とにかく私たちが現代社会普通に目にするタイプの知性ではなくて、古典の知性だ。ギリシア哲学とかに近い。

 数学的にはというか、哲学的には、人口に膾炙された「ブラック・スワン」の問題というより、ベルカーブではないランダム性の持つ必然というあたりだろう。ということで、マンデルブロ的な安定分布の変異なのだろうが、つまり、それすらもわからないこともあるというのが世界認識の前提なわけか。

 私はブラック-ショールズ方程式とか理解できないのだが、その前提がベルカーブだとしたら、それは必然的にブラック・スワンを出現させることになるのだろう。へぇと思った。

 あと、これがごく単純な話だけど、現実世界というか自然がランダム性を見せるのは、根底的な物質の不確定性原理とかではなく、多元性というか、人間の認識の問題なんだろうな。観察者問題とは別の意味で、理解者問題とでもいうべきものなのだろう。

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ブラック・スワン[上]―不確実性とリスクの本質: ナシーム・ニコラス・タレブ, 望月 衛

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ブラック・スワン[下]―不確実性とリスクの本質: ナシーム・ニコラス・タレブ, 望月 衛

 もう少し考えてから、自分の考えをブログのほうに書くかもしれない。

 どっちかというと文系的な文体で書かれているけど、統計学経済学とか哲学の基本とかないと、ちょっとしたディテールがわかりづらいかもしれないとは思ったというか、自分がわかっているというわけでもないが。

 タレブはポパーが気に入っているようだし、たぶん、後期のポパーのもの、実在論とか、読んでいるだろうと思うが、そういう部分は出て来ない。そういうところはタレブには関心がなく、その分実務的な印象を受ける。人間原理の理解なども、分析哲学的な深みはなくあっさり切っていた。ヴィトゲンシュタインを曖昧な修辞とするのは、前期ポパーの文脈からわからないでもないけど。

 タレブは文学が好きなのだろうな。エーコを気に入っているのがよくわかる。独自のエロスの感性もあるように思うのだけど、抑制的に書かれているように思えた。

 今回の危機についてはブラック・スワンというより、リスク管理だったのではないかな。

 こんな感じ⇒「ブラックスワン」の助言、プラス50%超の運用成績生む−大暴落でも - Bloomberg.com

 これも⇒翻訳者が語る『ブラック・スワン』 原書発売から訳書発売までに見たこと | 注目の新刊ちょっと読み | ダイヤモンド・オンライン

richmondrichmond 2009/08/11 23:03 私も読みました。文章が「まぐれ」よりかなり饒舌で彼の思考の展開について行けたかどうかは怪しいものです。ブラックショールズは標準偏差前提で、少なくとも日本の金融実務家の間では、「そういう前提を採用すればそういう結果になる」というだけのもの、でも一応世間がその共同幻想を採用するならそれに従わないとけないよね、という了解は得られていると思います。こういう代物を日経さんなどは、先端の金融工学ともてはやすので、なんじゃそりゃ、と皆思っているのでは。15年前にクレジットデリバが出た時には、こりゃおしまいだ、それは大数の法則に組み込めない、と思ったものですが、それでも15年もったのですから、勝ち逃げする人が出るに十分な期間で、その予想が正しかったのやら。

finalventfinalvent 2009/08/12 10:11 richmondさんへ。タレブの根にある思考法があの奇妙な文体を生んでいて、そこが価値でもあるのですが、読みづらいのは確かですね。金融工学をバカにはできないけど、いろいろな仕立てとして利用された分には、どう対応していいのか、どう見抜くのかは難しいところです。そのあたりがタレブがああいう思考法を投げつけたのかもしれませんが。

summercontrailsummercontrail 2009/08/13 06:22 おはようございます。読みづらいといえばパウロの書簡なんかもじつは私には独特の論理で読みづらく感じます。英語の聖書とかで読めばもっとわかりやすいのかな。

finalventfinalvent 2009/08/13 09:05 summercontrailさんへ。「パウロの書簡なんかもじつは私には独特の論理で読みづらく感じます」は、こういうと偉そうな言い方に聞こえてはいけないけど、よく気がつきましたね。昔私もあれを一部ギリシア語で読んだとき、あれ?と思ったものでした。各国翻訳が間違っているわけではないけど、原文はかなり不思議なロジックを持っています。おそらく、あれは、ソフィスト盛んなりし時代から続く、ギリシア=ヘレニズムの独自の修辞がふんだんに含まれていて、そういう修辞側面を解き明かさないと、何を言っているかがわかりづらいと思います。加えて、あれからパウロの神学を読み、現代的に理解する人が多いのだけど、パウロはこういうと誤解されるけど基本的には古代人で現代とは異なる世界観の中を生きているので、その中で再構成しないと理解にならないのではないか、と思います。特に終末論ですが。

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