『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の旅』は結局、5度目の再読。ちょっと間を置いたので、精読中。いくつかパズルが解けた。符牒的なパズルではないので、恣意性が若干残るが、その解でだいたいこの作品の不可解さのようなものは解けるように思えた。
ひとつだけ前回のパズルに似た部分をいうと、色と五人の関係は、"Order of the Eastern Star"のような五芒星の連想もありそう(なお、これは基本女性)。これは五行よりは弱いけれど。
というか、そういう連想を欧米翻訳の際に起きるような仕掛けというべきだろう。
この五芒星の場合は、色の対応は五行ほど明確ではないが、つくるが黄色と置くと、クロと緑が重なる。ここは恣意的なのだけど、シロが「直子」で、クロが「緑」という『ノルウェイの森』の洒落があるかもしれない。
パズル的には五芒星が護符ということで、これで悪魔封じなっていた。つくるの黄色が抜けることで、護符がとけて、悪魔=悪霊、が出てくるというわけね。
⇒Pentacle - Wikipedia, the free encyclopedia
It is often worn around the neck, or placed within the triangle of evocation. Protective symbols may also be included (sometimes on the reverse), a common one being the five-point form of the Seal of Solomon, called a pentacle of Solomon or pentangle of Solomon.[2]
それとパズルとしては、最終行の「白樺の林」だが、これは、「鶴林」の比喩があるのだろう。(白樺の林は、なお、エリとの再開に参照されてはいる。)
⇒鶴林 とは - コトバンク
《釈迦入滅を悲しんだ沙羅双樹(さらそうじゅ)が枯れて鶴のように白くなったという伝説から》沙羅双樹の林。転じて、釈迦の入滅。「鷲嶺(じゅれい)に月かくれ、―に煙つきて」〈著聞集・二〉
比喩の対応を見ると、沙羅の死を暗示しているかもしれないが、より近い比喩は沙羅が白(シロ)になったということ。
あるいは、つくるはここで死んで、鶴林が出現したという暗喩かもしれない。
ただし、こうしたパズルは、五行を含めて、一種のエンタイメント要素で、作品の本質とはどうも関係がない。
というわけでこれらは作品論からは別扱いにしたほうがよさそう。
再読でわかったのは、灰田と沙羅の物語が、未消化の書かれざる物語という印象を初読で思ったのが、どうもそうではなく、かなり完結していることだ。つまり、そのあたりが読解の中心になる。