新生児が哺乳瓶で「飲む」行動に伴うリスクとは何か 3 <経産婦さんの赤ちゃんは哺乳瓶の時のような飲み方>

生後2日ごろを境に、それまでくちゅくちゅと待っているようなくわえ方が多かった新生児も、一気に飲むことが多くなります。
また、それまで1回に5mlも飲まずにやめてしばらくしてはまた飲んでと繰り返していた哺乳瓶での授乳でも、一度に20ml、40mlと日に日に量的にも多く飲むようになっていきます。


やはり哺乳瓶は簡単で、飲みやすいのでしょうか?
赤ちゃんは調節をすることが難しくて、太りすぎてしまうのではないでしょうか?
心配ももっともだと思います。


<哺乳瓶は簡単で、一気に飲んでいるのか?>


40ml近い量を一度に飲むようになっても、決して新生児は哺乳瓶をくわえたとたんに一気にぐびぐび飲んでいるわけではないのです。
前回昨日の記事に書いたように、最初くちゅくちゅと少しだけ吸ったあと舌で乳首を少し押し出して、かといって乳首を出すわけでもなく軽く舌で巻き込んだまま「何かを待つような」行動のあと、急にぐびぐびと飲み始めるのです。
そういう行動を何回か繰り返したあとにしばらくくちゅくちゅしてからいきなりペッと哺乳瓶から離れようとします。


まさに母乳の直接授乳と同じ行動をしながら飲んでいるのですね。


経産婦さんであれば早ければこの生後2〜3日目には、初産の時の2〜3ヶ月目のような感じで急激に母乳分泌量も増えます。
入院中の経産婦さんは、「赤ちゃんが起きて授乳を始めたな」と思って5分後ぐらいに行って見ると、もう赤ちゃんも授乳を終わって満足ということがよくあります。
まるで哺乳瓶で飲ませたような早さです。


そう。だから哺乳瓶での授乳は、経産婦さんの赤ちゃんの直接授乳と同じようなペース。
それだけのことだと思います。


初めてのお母さんの場合には、もちろんこの経産婦さんの授乳の早さを知る由もないことでしょう。
ですから「おっぱいをあんなに時間をかけて吸わせたのにその後にこんなにたくさんの量を早く飲むのは、やはり足りなかったから。」と「自分のおっぱい不足」の責任を感じてしまいやすいのだと思います。


初めての分娩もゆっくりゆっくり時間をかけて陣痛によって子宮口や産道を柔らかくして出産に至るように、初めてのお母さんの場合にはおっぱいもそれなりに時間をかけて・・・という必要性や必然性があるのでしょうか。
経産婦さんの場合には分娩所要時間も痛みも短いように、母乳に関しても体のキャリアが違うという感じでいきなり出始めてきます。
2人目以降の赤ちゃんの授乳に時間がかかっていたら、2人、3人の子育てをしていられないですね、きっと。


初産婦さんの新生児と経産婦さんの新生児では、授乳のペースも胎便から母乳便に代わる変化のスピードも違います。このあたりも後日また、まとめてみたいと思っています。
ひとりひとり違う新生児の変化も、初産婦さんと経産婦さんというグループでみてもさらに違いがあるということです。


ですから哺乳瓶での飲み方が早いことに対しても、経産婦さんの新生児の直接授乳の早さを考えれば、特に問題はないのではないでしょうか。


<哺乳瓶でのミルクの授乳は、太りすぎにさせやすいか?>


新生児期の赤ちゃんがどのようにして体重増加をしていくか、それはただ授乳量やカロリーでは単純に説明がつかないことを、doramaoさんのどらねこ日誌「母子の健康と母乳育児ー母乳育児を考える4」の<7.生理的体重減少と腸内細菌叢について><8.生理的黄疸について>で書きました。
こちらの記事にリンク先を変更しました。


事情があってお母さんが先に退院して、赤ちゃんだけをお預かりした経験が何回かあります。赤ちゃん自身には医学的には問題がないのでミルク授乳で体重がどんどんと増えそうなものですが、案外平均的なものでした。
生後数日ぐらいは1回量も80ml前後で、なかなか体重増加期に入らず体重がよこばいの時期が1週間ぐらい続きました。もう少し量や回数を増やそうとしても、赤ちゃんは頑として飲みません。でも、便・尿回数も十分あるし、元気なのです。
生後2週間を越えた頃から、いきなり体重増加期に転じました。1週間で数百gは増えたと記憶しています。それでも、ミルクは1回80〜100ml程度でした。
粉ミルクの缶に書いてある1ヶ月ごろの平均的な授乳量120〜160mlを飲むような赤ちゃんの方が少ないのではないかと思います。


新生児期から乳児期にかけての体重増加もまた個人差が大きいです。
たとえば生後1〜2ヶ月ごろの一日の平均体重増加量は25g前後ですが、あくまでも平均です。
中には3ヶ月ごろまで一日60g以上の体重増加量の赤ちゃんもいます。
母乳だけでもそれぐらい増える赤ちゃんがたくさんいます。
またミルクを足しても、一日20g前後のゆっくりな赤ちゃんもいます。
どちらも全体的な元気さや発達をみて問題ないとされていることでしょう。


1日60〜70gぐらい体重が増えて、「あげすぎ?」「太りすぎ?」と心配させられて小錦とか朝青龍と呼ばれていた赤ちゃん達も、その後体重増加も落ち着いて体形も変化していきます。


哺乳瓶でのミルク授乳と肥満についての研究や情報も、探しても案外と見当たりません。今後もまた調べ続けてみたいと思います。
現時点としては、ミルクの授乳も基本は「赤ちゃんが欲しがるときに欲しいだけ」でよいのではないかと、お母さんたちにはお話しています。



<哺乳瓶での授乳についてのおまけ>


哺乳瓶での授乳、よくみていると赤ちゃん達はうまく哺乳行動を行っていると思います。
決して受動的な態度で「飲まされている」わけでもないし、「楽な方法を覚えていく」わけでもないと思っています。


WHOの母乳育児成功のための10か条を「守っている」病院に卒後すぐに就職する助産師や看護師がふえていることでしょう。そういう方たちは、おそらく哺乳瓶での授乳の機会も体験量も少ないことと思います。
最初から「哺乳瓶や人工乳首は新生児に使ってはいけない」と教え込まれたら、それは本当にそうなのかと他の視点から見直すことはなかなかできることではないのではないかと思います。
哺乳瓶や人工乳首を否定的に捉えるほどの観察の機会がない職場であることは、認識されておいたほうがよいのではないかと思います。


私自身も卒業したての頃は先輩がやっていることを見よう見まねでお母さんたちに説明をしていました。
「その説明は本当にお母さんたちに有益であったか」という点を常に見直していかなければ、私たちの根拠の乏しい一言で退院後のお母さんたちを追い詰める場合もあることに慎重になる必要があるとつくづく思います。




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