助産師教育ニュースレター 1  助産師を教育する人たちのニュースレター

doramaoさんのとらねこ日誌のhttp://d.hatena.ne.jp/doramao/20120225/1330156466/英国独立助産師事情と助産師教育に心配すること - とラねこ日誌で「助産師教育ニュースレター」が話題になっていました。


「幻の」No.57の全文をdoramaoさんが送ってくださったので目を通しましたが、帝王切開後の経膣分娩を自宅で介助した英国の独立助産師の話以外は特に問題になりそうな話題はなかったので、うさぎ林檎さんがコメント欄で書かれているように助産所ガイドラインとの兼ね合いで削除された可能性が高いのかと考えていました。


この「助産師教育ニュースレター」は、助産院・自宅分娩について検索をしていると時々引っかかってくるので、以前も多少目を通したことがありました。
今回ちょうどよい機会なので助産師教育を担っている方々の意見を読んでみようと、No.52から最新号まで読んでみました。


驚いたのは削除された可能性が高いNo.57より後のNo.59に、日本の助産院で45歳初産婦の分娩介助をした記事が掲載されていました。
{http://www.zenjomid.org/activities/img/news_59.pdf]
「幸せな助産師」というタイトル(!)で、開業助産師が寄稿しています。長文なので、気になったところを書き出します。()は私の方での補足です。

(45歳の高齢初産婦の自宅分娩を)よく嘱託医が承諾してくれたものだと思いました。良い産科医はいるものです

私はホメオパシーを「シービアかな!ポースティーラだ!」とポイポイと口に入れて。

Hさんはお母さんからの愛情を十分もらうことができず、それがトラウマになっていたようです。きっと今世では、子供を産む宿命があったのでしょうが、それには45年という歳月が必要ということだと思います

自宅でお産を介助していると、お産は自然な営みであり、霊的な体験であるように感じるときがあります。

さっそくHさんをホメオパシーセンターへ連れて行き、カウンセリングを受ける予約をとり、整体へ連れていき、トコちゃんベルトを締めてもらいました

(S産婦人科の先生からは)私にはあまり無理をしないでねと釘をさされましたが


45歳の高齢初産婦であればたとえ嘱託医が承諾しても、医療機関での分娩を勧めるのが助産師としての責任ではないかと思いますが、教育者側は高齢初産の自宅分娩のリスクと助産師の責任をどのように学生に教えるのでしょうか?。


また嘱託医から「無理をしないように釘をさされた」にも関わらず、子宮口全開大から児娩出まで8時間40分を自宅で介助したという「助産診断」は適切と判断してこのニュースレターに掲載をしたのでしょうか?


当時は助産師会はまだホメオパシーを問題だと認識できていなかったにしても、45歳初産婦というハイリスクの方に、ホメオパシーや整体を助産師側から勧めるということへの批判もなかったということでしょうか?


今世とか宿命とか、本当に助産師の教育者を対象にしたニュースレターなのかと目を疑うばかりです。


No.54(2007年2月25日)[http://www.zenjomid.org/activities/img/news_54.pdf}
では、助産院で帝王切開後の経膣分娩をした方の体験記が掲載されています。
こちらも長文ですので適宜省略して書き出します。
一般内科医で、7歳の第一子を帝王切開、4歳の第ニ子を助産院で出産したようです。

助産院を見学したところ)「あなたなら産めるような気がするわ、とおっしゃったのです。」
それから私は自分の人生で初めて道なき道を無理やり作りました。
助産院との連携を開業の産婦人科に断られ、母校の佐賀医大でも予定帝王切開を勧められ、途中、入院予約もしました。
遠方という理由で、近くの開業医にまた変更することにして、予定日が来てもどこで産むか決まっていませんでした。
結局ベテランの開業医の先生が一応陣痛を待ってくれ、でも予定日を1週間過ぎて陣痛が来なかったら入院して帝王切開という日の早朝に陣痛が来ました。
助産師の先生に「一度うちにお寄りなさいと言ってもらい、一度目は帰され二度目に行ったら、もうここで産みなさいと言われ、結局助産院で30分で生まれました。
2回いきんで、先生から逃げちゃだめと怒られ3回目にいきんだら生まれてくれました。
(中略)
もちろん無事だったから言えることで、リスクがあったことも十分承知しているつもりです。それでも私はあの時自分の全存在をかけて、どういうお産をするか考えて行動していました。絶対に自然分娩をという訳ではなく、ただ自分の最善を尽くそうと思いました。


もう一度書きますが、助産師のブログとかではなく助産師の教育者のニュースレターです。このような内容を掲載することに誰からも批判がなかったのでしょうか。


1990年代には産婦さんの産後の回復のために帝王切開後の経膣分娩を行う施設が増加しました。当時は、あくまでも手術の侵襲に比較して、可能なら経膣で試してみようという方向でした。
ところが、やはりどこの施設でもかなり怖いケースを体験したのだと思います。
この2003年頃には、私の勤務先でもやらない方向になっていました。


試験的に経膣分娩を行うにしても、緊急帝王切開にすぐ切り替えられる状況で実施することはその当時でも当然のことでした。
また分娩中は分娩監視装置は継続して装着します。徐脈は出ていなくてもほとんどvariability(心拍の変動)がない状況で帝王切開にしたところ、切迫子宮破裂で危機一髪ということもありました。


このような帝王切開後の試験的経膣分娩の分娩管理を学生に教える立場であれば、上記のような体験談は「やってはいけない」例かインシデントレポート例ではないのでしょうか。
「あなたなら産めるような気がする」。大丈夫でしょうか、この助産師は。


いきみのときに「逃げるな」と怒ることより、きちんと医療機関で分娩しなさいと励ますことが助産師の役割のはずです。


本当に、日本の助産教育の方向性は大丈夫でしょうか。
読んでくださる方は不安になると思いますが、私の周囲の同僚は皆きちんと助産師の業務範囲を守っている人ばかりです。
あー、バックナンバーを読まなければよかったと思いつつ、また次回に続きます。



[追記]無題でしたが、「助産師を教育する人たちのニュースレター」にしました。(2020年5月19日)。


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