助産師教育ニュースレター 2 助産師の業務拡大とは

2006年8月25日発行のNo.52から順に、気になった部分を書き出してみます。
(肩書きは当時のものです)


doramaoさんのhttp://d.hatena.ne.jp/doramao/20120315/1331800511のコメント欄にも書きましたが、当時は2004年の臨床研修制度の影響で各地で総合病院から産科医が引き上げ診療休止になる病院が相次いでいました。「お産難民」という言葉が生まれました。
2004年12月の大野病院の件、そしてNo.52が発行された2006年8月は、大野病院産科医の逮捕、奈良大淀病院の報道、看護師内診問題と、次から次へと周産期の臨床を揺るがす報道が続き、多くの産科の先生がお産の場を離れた時期です。


No.52(2006.8.25)http://www.zenjomid.org/activities/img/news_52.pdf
田村やよい氏 (厚労省医政局看護課課長)

6.基礎的な力を持つ助産師の輩出を。
一方、産科医師不足の問題が、現在大きな社会問題になっております。
(中略)
そういう中で助産師は正常分娩を自身の判断において行えるという法律上のパワーがあるわけでございますので、ぜひこの時期こそ、助産師さんたちの力を存分に発揮していただきたいし、国民に対しここに助産師がいる、お産は私たちに任せてほしいと打って出る、そういう時期なのではないかと、私は見ているところであります。

最初の「内診問題」も是非読んでみてください。



No.55(2007.5.25)http://www.zenjomid.org/activities/img/news_55.pdf
第21回助産師団体連絡会

全国で嘱託医や連携医療機関を得られない助産所が出てきていると聞いているが、助産師会としての対応はどのようにされているかとの質問が出された。
日本助産師会としては、嘱託医が得られるかどうかを助産師の努力だけで行うのではなく、厚生労働省から都道府県知事に対して連携医療機関に協力要請の旨の要望書を出している。
実際に嘱託医や連携医療機関を不当に受けさせてもらえない場合は、会員には本部に報告の旨をお願いしている。

それまでの助産所の嘱託医は産科医でなくてもよかったのですが、今後は産科医に限られるという至極当たり前の医療法の改正です。
日本産婦人科医会は「助産所との嘱託医契約について」以下のような文書を出しています。
http://www.jaog.or.jp/japanese/jigyo/TAISAKU/keiyaku/keiyaku_277.htm

産婦人科医にとりましては謂れのない圧力を受け心身ともに疲弊している状態に、更なる負担を強いられるものです。従いまして全面拒否の姿勢を示したいところですが、国民に「より安全な周産期環境」の提供を目指す本会といたしましては、やむを得ないことと考えます。

No.57(2007.8.25)http://www.zenjomid.org/activities/img/news_57.pdf
「社会のニーズに答えられる助産師教育を目指して」
平澤美恵子氏(全国助産師協議会会長)

産科医不足から派生した妊産婦支援施設の不足は助産師の存在をクローズアップしました。産科医が不足しているからその代行を助産師でという短絡的な発想ではなく、助産師本来の役割に期待しての動向であろうと考えます。


No.58(2008.2.5)http://www.zenjomid.org/activities/img/news_58.pdf
毎日新聞の「規制緩和策 規制改革会議」(2007.12.7)の記事のキャプション。

*原案の中に助産師は正常分娩時の会陰切開と縫合の業務拡大が盛り込まれています。

「正常分娩」に、次の報告書の討議で言われているような「救急」処置としての会陰切開などを必要とするのであれば、もはやそれは「正常」ではないのではないでしょうか。
この助産師にとっての「正常」の使い方については、後日また書きたいと考えています。



第22回助産師団体連絡会議報告
「看護基礎教育の充実に関する検討報告書」

・会陰切開縫合の卒業時の到達度が「学内レベルで実施できる」について、基礎教育の中に入れるのは法律違反ではないか。知識でよいのではないか。
卒業と同時に開業できる現在のライセンスであるので、救急の状況では、会陰切開、新生児緊急蘇生など必要により演習レベルで設定しておく必要がある

えっ!卒業と同時に開業できるって・・・。確かに法的には何も書かれていませんが。
新生児緊急蘇生の演習は当然だと思いますが、会陰切開は助産師に必要な救急処置ですか・・・?。


No.59(2008.5.25)
http://www.zenjomid.org/activities/img/news_59.pdf
第33回全国助産師教育協議会研修会
「安心して子どもを産める社会を目指して」

天使大学近藤潤子先生から「今臨床助産師に求められるもの」と題して、助産師が倫理綱領を踏まえた高い専門性を発揮し60万件のお産に責任をもって関われるほどの能力が備わっているであろうか、我々が自身を直視し能力を高める必要があるのではないかと伝えられました。

さらに不足する産科医師に代わって、助産師が正常をどれだけシェアーできるのか、相応の実力を備えているといえるのかなどの発言

これらは「医師の立会いのないお産」ということですか。


No.60(2008.8.25)
http://www.zenjomid.org/activities/img/news_60.pdf
助産師教育における多様性と標準性への調和」
熊澤 美奈好氏 (亀田医療技術専門学校 助産学科)

助産師の標準性とは一体何でしょうか。改めて原点に立って考えますとき、まずは保助看法で規定されている助産師の責務であり、義務であると思います。
「独自の判断で正常分娩の介助ができる」こと、また母子二人の生命を預かる者として「臨時応急の処置ができる」こと、これらは助産師の法に規定された標準性であると言えましょう。
更に近年、助産の概念や業務の拡大により、女性の一生にわたる健康管理や、家族・地域におけるケアの重要性も謳われております。

助産学会主催 「緊急時助産スキルアップ研修」
テーマ1 「緊急時の新生児蘇生法」
テーマ2 「女性に優しい会陰縫合術」

いまだかつて助産師関係の教科書や文献で、助産師に許された「臨時応急の手当てとは何か」について明文化されたものを知りません。
会陰縫合術を臨時応急の手当てと認めさせたいということでしょうか。



No.65(2009.8.25)
http://www.zenjomid.org/activities/img/news_65.pdf
近畿地区研修会 講演

助産師の業務拡大と自律」 岡本喜代子氏(日本助産師会専務理事)
正常妊娠・分娩は医師よりよく知っておかねばならない。母子の検査は当たり前のこととして助産師が行う。薬理学もきちんと教えた上で使えるようになること、会陰切開や縫合術の習得も必要である。
教員の自立が必要。高い志が必要。教員のアイデンティティが育っていないと思う。
法律に頼っているだけでは駄目であるが、法改正があったのであるから、今より質の高い教育をしていただきたい。

助産師と産科医の協働」 大森研二氏(明愛産婦人科院長)
法律で中止されているから・・・に甘んじていては駄目である助産師がやっても良いのであれば私たちも真剣に教えます、と産科医と助産師の協働の必要性と助産師の自立への期待が述べられた。


北海道・東北地区活動報告
「会陰切開・縫合の教授方法等に関する報告」

会陰裂傷1、2度については助産師の責任として縫合することができるような技術を身につけることが必要である。
そこには麻酔の問題もあるが、解剖生理を十分理解した上で安全な技術を習得することが必要になる。
今後、助産師が本来業務を行っていく際に、助産学生は既成事実として理論・演習を行い習得していかなければならない。

既成事実として・・・?


No.68(2010.9.15)
http://www.zenjomid.org/activities/img/news_68.pdf

ホメオパシーについての日本学術会議会長談話の全文
全文掲載のみで、ビタミンK2シロップを内服させなかった事件についての助産師会の声明や教育者の対応などへの言及はありません。


「臨床助産師と行政助産師を経験して」松本 八千穂氏(福岡市保健福祉センター)

当時の助産師は帝王切開以外のほとんどが医師の許可のもとという大義名分で実施しておりました。出産介助後に発生する創部ナート手法は創状態により色んなパターンがありました。


No.69(2010.12.1)
http://www.zenjomid.org/activities/img/news_69.pdf
平成22年度 北海道・東北地区会議 研修報告

「会陰切開・縫合の教授方法の評価」については、平成21年度からの研修内容であり、各学校の教授方法や教材の工夫、また改善点についてより具体的な意見交換が行われました。特に教授内容と範囲については、助産師業務の法的根拠性も含み活発な意見が出され、天使大学大学院の近藤潤子先生より会陰切開・縫合の法的裏づけはまだないが裂傷縫合は緊急避難として許可される可能性があるので助産師教育の中ですべての学生に教授しているという事実は必要との示唆を頂き、自分たちの教育に新たに自信を得た思いでした。

法的裏づけはないけれど、学生には教えたという既成事実を作ること・・・ですね。


No.71(2011.8.26)
http://www.zenjomid.org/activities/img/news_71.pdf

ICM(国際助産師連盟)会議報告

助産師の定義
1.基本的助産業務に必須な能力の改訂
自然流産および人工中絶のケア 追加
会陰裂傷1・2度は基本項目であったが、今回局所麻酔が基本的に追加された。


産科医や病院で働く助産師には、「助産師が縫合できるようになると産科医は助かりますか?」と一度も問われることなく、また出産する方たちも「産科医不足なので助産師が縫合することになるかもしれませんが了承されますか?」と確認されることもなく、いつの間にか進められていた会陰切開、裂傷縫合術の流れが見えてきました。


世界の助産師に追いつけ・・・だったのですね、きっと。
そのために法的裏づけもなく学生への授業を「既成事実」づくりとして取り入れたということのようです。

また続きます。


[追記]無題でしたが、「助産師の業務拡大とは」としました(2020年5月19日)。



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