産後のトラブルを考える 7 <産後の尿失禁についての最近の考え方>

1990年代終わり頃から、それまで以上に切迫した必要性から骨盤底筋群の体操を産後のお母さんたちに説明する機会が増えました。


骨盤底筋群の体操の具体的な方法は、日本コンチネンス協会のこちらに書かれています。
肛門のあたりをキュッとしめるだけなので体操をしていることを誰にも悟られずにできますが、簡単そうでけっこう疲れます。
私も試してみましたが、慣れないうちは頭痛がしてきそうでした。


さて、コンチネンス協会の上記のページでは、効果について以下のように書かれています。

3ヶ月を目安にきちんとおこなうと、3人中2人には効果がみられます。

これは老若男女に関係ない対象ですから、産後のお母さんたちに実際にどれくらい効果があるのだろうと気になっていました。


そして、効果の無かった方にはどういう対応をしたらよいのでしょうか、ということも疑問のひとつでした。


<骨盤底筋群トレーニングの効果は?>


「周産期医学必修知識第7版」(東京医学社、2011年)の「産褥期の排尿不能、尿失禁、尿路感染症」(中田真木氏、三井記念病院産婦人科)に、骨盤トレーニングの効果について書かれています。



尿失禁は、日本コンチネンス協会の排尿障害のタイプ別症状と対応にあるようにいくつかのタイプがあります。


産後の尿失禁については、中田氏は以下のように書いています。

産褥期と成年期経産女性の尿失禁の大半は、いわゆる腹圧性尿失禁(stress urinary incontinence:SUI)である。
そのほか、一部の尿失禁には尿道平滑筋の損傷や、瘻孔が関与している。


腹圧性尿失禁の典型例として以下のように書かれています。

出産後少々のもれやすさを自覚しており、数ヶ月ないしは数年の期間を経て、生活を脅かす尿もれに進んでいくものである。

1回だけ出産した女性の集団を観察すると、SUIの保有率は経時的に少しずつ上昇する。
初めての出産から5年後に、SUIを自覚する人は全体の30%に上る。

つまり入院中に尿もれがほとんどないから良しではなく、もう少し長期的な見通しをもった対応が必要になるということになります。


では、骨盤底筋群のトレーニングを続けることで効果があるのか?
「継続は力なり」なのでしょうか?

妊娠中と分娩後の強化された骨盤底トレーニングにより、出産から6〜12ヶ月以内のSUIを減らすことができる。

しかし、骨盤底トレーニングによって長期的にSUIが減少するとの証拠はない。

出産後少々の尿もれを自覚していても長くもれやすさが重症化しない人がある。これらの人たちは特に骨盤底トレーニングの指導を受けた群ではない。

つまり、現時点では骨盤底筋群のトレーニングの長期的な有効性はまだわかっていないということなのでしょう。



まだまだしばらくは産後の排尿障害への対応は、試行錯誤が続くのかもしれません。






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