完全母乳という言葉を問い直す 36 <授乳支援の本質と母乳推進運動の本質>  *2016年3月16日訂正あり

昨日の記事で紹介した私の助産婦学生時代の教科書には、ラッチオン ポジショニングと同じ内容が、きちんと書かれています。
1980年代の教科書です。

g.授乳時の姿勢
乳児の小さいうちは、毛布やクッション、枕などを児の体の下にいれて高さを調節する。乳児が離したばかりの乳頭の形に歪みがある場合、乳児の抱き方を変えて、乳頭を歪めずに飲めるよう工夫する。

h.乳房の含ませ方
乳児の舌の上に乳頭が深くのり、上顎と下顎が乳輪の部分まで深くくわえられることが大切であることが理解できよう。

簡潔ながら、授乳支援の基本であり本質的な内容がきちんと書かれています。


ただ、卒業当時はまだ授乳クッションも市販されていませんでしたから、タオルなどで調節するのはけっこうコツが要りました。数年ぐらいして、現在あるような授乳クッションがぼちぼちと手に入るようになって授乳介助が格段に楽になりました。


<本質的なことは誰かも気づいている>


もちろんこれは基本の部分ですから、実際にひとりひとり違う状況、また産後日数や生後日数の変化に合わせた介助ができるようになるまでには、試行錯誤が何年も続きました。


でもおもしろいと思ったのは、私が考えついたことと同じことをされている方を何かの記事で読んだことがあったことです。


上記の教科書の記述以外に、乳輪を深くくわえられるようにするコツの説明として「ハンバーガーを食べるときのように乳輪のあたりをギュッと小さくしてね」と説明していたのですが、同じ説明を目にして「本質的なことはこうしていろいろなところで見つけられていくものだ」ととても心強く感じたのでした。


広い日本の中で助産師や産科勤務の看護師さんのこうした試行錯誤の体験を収集してみたら、実践に基づいた授乳支援の本質が明らかにされていくに違いないと、ちょうど広がり始めた「根拠に基づいた医療」に期待をしたのでした。


アメリカで始まった母乳推進運動の「本質」>


前回引用した教科書の中に以下の部分が書かれていたことを、実は最近読み直して初めて気づきました。

乳汁分泌量は微量であるが、初回の吸啜は乳汁分泌の引き金としての刺激が主な役割であり、Le-Leche League(世界母乳連盟)や、ラマーズ法により主体性のある出産を志向している人たちの間では、早期初回授乳は大切なものとされている。

早期初回授乳が大切というのは、母乳育児支援の中では本質的な部分といえると思います。ただし、必ずしもではなく、多少時期が遅れても問題ないことも経験しますが。


さて、久しぶりに教科書を読み直して、ラ・レーチェーリーグは「世界母乳連盟」という名前だったことと、分娩時の精神性無痛法としての呼吸法で広がったラマーズ法も母乳推進に関連があったことが教科書にも書かれていたことに、アメリカの運動の力の強さを感じたのでした。


そこには独特の「哲学」があることを、これまでの記事でも紹介しました。


たとえば、ラ・レーチェ・リーグの哲学についてはこちらの記事で紹介しました。

乳幼児にとって母親と一緒にいることが最も必要なのは、生後数年間である。その必要性は乳幼児が栄養を必要とするのと同じくらい本質的なものである。

これは日本なら「三歳児神話」に通じるものがあるでしょう。
そして母乳については、以下のような考え方を持っています。

母乳は子どもにとっても最高の栄養である。
乳幼児が完全に健康であるために唯一必要なのは母乳である。

授乳支援を超えた強い信念がどこからきているかと言えば、伝統主義的な姿勢で知られるキリスト教徒家族運動だといえるでしょう。


ラマーズ・インターナショナルの哲学についてはこちらの記事で紹介しました。

出産は正常かつ自然で健康的な営みである

分娩中の女性は、女性の内なる知性により導かれる。

女性は医療の介入を受けることなく出産する権利を有する


1960年代からのアメリカでのキリスト教再建主義の流れや、自然回帰、現代文明の否定などの流れがこうした組織の哲学を作り出していった可能性があります。


日本では無批判に受け入れてしまったために、もしかしたら母乳育児支援の本質から遠ざける時代を作ってしまったのかもしれません。




*2016年3月16日訂正
最初は、題名と本文記事中に「母乳育児支援」という表現を使用していましたが、「母乳育児という言葉を問い直す」ようになってから、「授乳支援」のほうが良いと感じるので訂正しました。




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