母乳のあれこれ 3 <皮膚を鍛えるから柔軟性へ>

桶谷式マッサージを受けた方からは、「マッサージの後にはおっぱいが『つきたてのおもち』のように柔らかくなる」という表現がよく聞かれます。


実際に桶谷式マッサージの後は、本当におっぱい全体が柔らかくなることは私も実感しました。



そして乳輪も乳頭もとても柔らかくなるので、マッサージの後は赤ちゃんも「飲みやすく」なります。
つまり伸展性が出るので深く乳頭を舌で巻き込みやすくなり、乳頭痛も起きにくくなり結果的に乳頭のトラブルは予防できます。


また、乳輪が柔らかいということは、乳房表面の乳腺だけでなくその奥の乳腺も一気に刺激しやすくなりますから分泌量も増えますし、一回の授乳でおっぱいの張りもとれやすい状態になります。



対して「一人目のときにずっと搾乳器を使用していました」という方の中に、時々、乳輪・乳頭全体に独特の皮膚の硬さがある方がいらっしゃいます。


たとえばペンだこや魚の目を考えるとわかりやすいと思いますが、柔らかい皮膚も一定の刺激を受け続けると硬くなっていきます。
搾乳器を使用し続けることで、結果的に皮膚を「鍛えて」しまったのだと思います。
皮膚だけでなく乳腺もまた硬く触れることがあり、そういう方の乳輪・乳頭はなかなか柔らかくならずに、結果、亀裂を起こしたり乳頭痛を感じることが多い印象です。


前回の記事で紹介した「母乳哺育と乳房トラブル 乳房ケアのエビデンス」(立岡弓子氏著、日総研、2013年)の論文一覧を見ても、この搾乳器使用についての研究はありませんでしたが、臨床からの疑問や仮説を取り上げてくれるような組織があれば、おそらく今頃は搾乳器のリスクについてもう少し明らかになっていたことでしょう。



こういう経験を実際に積み重ねると、乳輪・乳頭の皮膚は「鍛える」ものではなく、「柔軟性・伸展性」が大事であるというところは本質的な部分ではないかと思います。


<柔軟性・伸展性のためにマッサージは有効か?>


では、乳輪・乳頭の柔軟性・伸展性のためには妊娠中からマッサージをしたり、産後に特定のマッサージが必要でしょうか?


私個人は不要だと考えるようになったので、現在は妊娠中の「お手入れ」も産後のマッサージもしなくて大丈夫と説明しています。


理由は、授乳直前に少し乳輪を触るだけで十分な柔らかさになるからです。


手で母乳を搾る要領で、乳輪の奥のほうをつかむような感じでゆっくり、痛くないように圧をかけていきます。
最初は何も出てきませんが、繰り返しているうちにジワッと母乳が湧き上がってきます。ポタリとでるくらいまで刺激しただけで、乳輪はものすごく柔らかくなります。
これを、乳輪の360度全方向に行います。
ものの1分もかからずに、乳輪と乳頭はマシュマロのような柔軟性が出ます。


本当に、産後の母体は不思議な世界だと思います。


あるいは、赤ちゃんが吸ったあとの乳輪や乳頭は驚くような柔らかさになります。
本当に不思議な世界です。


分娩直後にはこの乳輪に圧をかける方法で柔軟性はかなり出ますが、伸展性にはもう少し時間がかかります。
初産婦さんでは、およそ2〜3週間ぐらいすると自然と乳輪がマシュマロのような柔らかさになり、伸展性もよくなります。
張りすぎていたおっぱいも落ち着き、あるいは直接吸い付きにくかったおっぱいもこのあたりで直接授乳がうまくいくようになります。


経産婦さんの場合には、たとえ「一人目の時にほとんど母乳をあげなかった」という方でも不思議と出産直後から乳輪・乳頭が柔らかく伸展性もあります。


試行錯誤の結果、「乳頭マッサージはやってもやらなくても変わらない」と考えるようになった次第です。


「やってもやらなくてもかわらない」事実があるのですから、それは科学的な手法で検証すれば「効果はない」ということになると思います。





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