看護基礎教育の大学化 4  <アメリカの医療を支える海外からの医療従事者>

1980年代に東南アジアで一緒に働いた現地の看護スタッフがとてもプライドが高い職種であることは、こちらの記事こちらの記事に書きました。


貧困層が国民の9割を占める国々で、女性が大学、しかも4年間の教育を受けることがどれだけすごいことかは想像がつかないことでしょう。
日本とは比にならないくらいのエリートであるからです。


彼女たちが目指すこと、それは国内の医療を良くしようという人もいましたが、その多くはアメリカの病院で働くことが目的であり夢であるようでした。


実際に、難民キャンプで一緒に働いていた同僚も、そのあとしばらくしてアメリカに渡ったと聞きました。
アメリカの病院では、アメリカ人が働きたがらない過酷な労働条件の部署に配属されることや、アメリカの看護師の下働き的な業務が多い。
でもアメリカで働きたい。
うまくいけば、アメリカに移住して家族を呼びたい。
そういう話をよく聞きました。


<積極的な海外からの医療労働者の受け入れ>


前回の記事でアメリカの病院からRN(正看護師)が解雇され始めたことを紹介しましたが、半面、看護師不足で海外からの受け入れを積極的に進めているようです。


「アメリカでも深刻な看護師不足」という記事に以下のように書かれています。

現在アメリカで雇用される正看護師の1/3近くは外国人となっており、毎年アメリカに大量にやってくる外国人看護師は低賃金で雇用できるため、その結果、看護師の賃金が抑制され、看護師になりたいというアメリカ人はますます減ってしまうという悪循環となっているようです。


これは、低賃金がアメリカ人ナースの離職の原因であるというとらえ方ですが、前回の記事で紹介したようにむしろ看護職の2極化によって、アメリカの看護師が海外からの看護師あるいは無資格者によって置き換えられたところが大きいのではないかと私には思えるのです。


アメリカの准看護師学科への留学コース>


アメリカ留学として「准看護師学科」というコースがあるようです。


その概要には以下のように書かれています。

当医療専門看護学校准看護師プログラムでは、カレッジ英語と看護学論、病院実習、准看資格の試験対策・医療専門英語を、4学期(約11ヶ月)で学習させるカリキュラムを提供中。
看護経験ゼロでも、LVN:Lisensed Vocational Nursing(准看)ライセンスが、日本での看護資格は問われずに米国の国家試験NCLEX-LVNが受験できて、留学生ならば誰もが欲しがるソーシャルセキュリティ番号(ssn納税者番号)の取得も保証されます。

前回紹介した「アメリカの看護師階層」を見ればアメリカには日本人が想像するような准看護師資格はなく、上記のような1年のコースであれば、「看護助手:教育期間は数ヶ月から1年以内。血圧測定、採血、筋肉注射ができる」という日本の看護助手とも違う、看護職の「最下層」を促成するプログラムであることがわかります。


短期間で医療現場の即戦力、しかも海外からの労働者を教育しなければならないほどアメリカの看護の2極化が進んでしまったのではないかと思います。



<海外へ医療労働者を送り出す側>


1980年代のアメリカはまだここまで看護職種の階層化が進んでいなかったのかもしれません。
当時、海外の看護師がアメリカの国家試験を受験するハードルだけでも相当厳しく設定されていました。


英語が母国語並みにできて、大学レベルで看護教育を受けた国の出身でなければほとんど合格はできなかったと記憶しています。
「アメリカの外国人労働者と外国人看護師」というコラムにあるように、アメリカで働く外国人看護師の75%をフィリピン人ナースが占めていたのもそういう背景があるのでしょう。


看護資格をもつことがアメリカ移住のステップになるような国々では、頭脳労働と熟練労働という2つの能力をもった人たちを海外流出させていまいました。
本来ならば、自国の医療を支える人たちでした。


日本の看護界は、アメリカのような大学卒や大学院卒の看護師を積極的に育てる方向で加速化されるこの2極化を、海外からの看護師で穴埋めすればよいと考えているのでしょうか?





「看護基礎教育の大学化」まとめはこちら