接遇のあれこれ 5 <「サービス・接遇」が医療に取り込まれた時代>

「接遇」という言葉が医療の中でも聞かれるようになって、研修も行われるようになりました。


私も1990年代終わり頃だったと思いますが、勤務していた総合病院での院内研修に参加したことがあります。
講師は元キャビンアテンダントでした。


たしかに客室乗務員の乗客への対応は丁寧ですし、それなりの専門教育があるのだろうと思います。


でも「なぜCAの講義を私たちが受けるのか」という疑問を感じながら聞いていたら、結局は何も私には残らない内容でした。
世界中のCAが「接遇」を実践しているかと言えば、そんなことはないですしね。
私には鼻であしらうような外国のCAの体験の方が多く、むしろJALやANAの方たちの対応の方が痛々しいほど丁寧に、言い替えれば卑屈なほどの丁寧さに見えてしまったので、医療にあれを持ち込むのかとちょっと暗い気持ちになったのでした。


あの医療機関での接遇の研修が始まった経緯がずっと気になっていました。


<「患者サービス・接遇」は1980年代に始まったらしい>


検索していたら「こんな病院は、いらない」というメルマガがありました。病院などの設計もしている方のサイトのようです。
その2003年8月7日に「今日の題目 ー サービス業」という内容がありました。


なるほど、こういう考え方が医療は「サービス業」であり「接遇」が必要という動きになっていったのかとわかりやすいので、全文紹介します。

顧客満足=CS(Customer Satisfaction)は、もともとマーケティングの一手法として1950年代に生まれた概念です。


しかし、多くの理論と手法の変遷をたどり近年、再び顧客の価値観に基づく「顧客満足の創造」という新たな概念でどの商売にも登場しています。


医療の世界では、この概念はあるのでしょうか?


日本ではサービス業の分野、特にホテル・航空産業が"おもてなし”をキーワードに、顧客満足を目指して接遇に力を入れてきたのは広く知られた事実ですね。


一方、CSの考え方が「患者サービス・接遇としいう言葉で日本の医療の場に登場したのは1987年のことです。
21世紀の新しい医療のあり方を探る目的で設置された「国民医療統合対策本部」の中間報告に明記されているのです。

滝川クリステルさんは好きだけど、東京オリンピック招致で聞いた「おもてなし」という言葉に唐突感と違和感がありました。
案外「唐突」ではなくて、ジワジワとこの言葉が日本社会には浸透していたのですね。

にもかかわらず、その後、医療の場においてCS活動は広く浸透しているとはいい難い状況ですね。


サービス・接遇という言葉が、医療関係者になじまなかったのがその理由でしょう。
こんな病院はいらない!!


しかしながら、医療関係者がいかに拒絶反応を示そうとも、医療はまぎれもないサービス業であり、薬局も調剤を含めてサービス業なのです。


マーケテイングの分野ではいま、一般大衆を対象としたあいまいな満足向上を目指すよりも、潜在化している、あるいは顕在する顧客のクレームの対応に積極的です。


つまり、強い怒りを伴う不満やあまり深刻ではない不満を解消するプロセスを通して、「何が本当の満足」なのかを繰り返し、顧客の喜び・顧客満足を創造しようとしているのです。


病院の存在意義を確実なものとするためには、患者・市民が納得し満足できる医療サービスを模索することが急務の課題となっています。

医療関係者が「サービス・接遇」という言葉に拒絶反応を示しているというよりは、それぞれがみているものの違いなのではないかと、この文章を読んで思いました。


医療は、生老病死に深く関わるものです。
その中での「満足」とはなんでしょうか。


たぶん生老病死の中でプライドを打ち砕かれたり、無力感に襲われることへの強い不安へ「満足のいく、納得のいく」対応をしてほしいということなのではないかと思います。


ところがだれもが死を迎えるわけですが、その最後の日に何が満足感なのか、何が納得なのかは誰にもわからない「究極の満足」なのに、それを思い描いて実現させようとしているといえるかもしれません。
そして「気持ちの問題」ですから、どんなにサービスや接遇がよくても満足も納得もできないこともあるでしょう。


それに対して、医療の現場はもう少し現実の満足への対応をしている。
なんだかそのあたりのすれ違いがあるような気がします。
うまく言えないのですけれど。




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