行間を読む 32 <「バースプランというのは矛盾した言葉」>

うさぎ林檎さんの12月22日22:47のtweetから「書け」と指令がきたような気がして、「芸能人にも多い『自宅出産』は危険?母になる前に知っておきたい命のリスク」という記事を読んでみました。

イギリスで自宅分娩を試みたけれども病院に搬送され、児は重症新生児仮死で生まれたという女性のインタビュー記事を紹介しています。
その記事では以下のように書かれています。

母親の血圧低下に伴って、赤ちゃんが深刻な酸素不足に陥ってしまったのです。助産師による懸命の介助の甲斐もなく、最終的には自宅での出産は危険すぎると判断した助産が救急車を要請、アンナさんは搬送先の病院で様々な処置を受けたあと、緊急帝王切開術により何とか出産できたのだそうです。

強調部分は、原文のインタビュー記事を読むといろいろと違っているのですが、記事を書いた人も医学的なことがわからないので仕方がないかもしれません。


ところがこのウートピの記事は、元の記事が伝えたかった事とは全く違う方向になっているのがとても残念でした。
「基準を満たした健康な妊婦でなければ自宅出産の許可がおりない」という中で、以下のようにまとめています。

イギリスと比較してみると、日本の自宅出産の現状は、あまりにも心もとないことは明らかだからです。


いや、自宅分娩は世界中どこでも危ないよ、それはどうしてか・・・というのが元記事で伝えたかった主題だと思います。


<アンナさんの経過>


アンナさんは「タバコも吸わない健康な35歳の妊婦」であり、それはイギリスの医療システムでは「自宅出産には十分適している」と判断されていることが書かれています。自宅分娩や助産所の分娩の「基準」というのは、日本もイギリスも対して違いはありません。


そこでアンナさんは、独立助産師(Independent midwife)二人に分娩を依頼しました。
イギリスは日本の医療システムとは異なるので、日本に比べると歴史的には自宅分娩を扱う助産師の力が強く残った国です。このイギリスの独立助産師についてはdoramaoさんが「英国独立助産師事情と助産師教育に心配すること」という記事を書かれています。


アンナさんは独立助産師に妊娠中からずっと関わってもらうことは、「(病院でのお産のように)病院についたとたん知らない助産師に対応される心配がない」という安心感を得たようです。


でもやはり妊娠中はいろいろな不安があるのは、どの国の女性も同じようです。
アンナさんは「陣痛に耐えられる自信をつけるためのヒプノセラピー」をしたり、「陣痛に向けて子宮の準備をするというラズベリーハーブティー」を飲んだり「会陰マッサージ」をしたり準備をして、「自分はまったく正常な経過の妊婦である」という自信をつけていったようです。


ただ、アンナさんの家庭医と産科医は「何か異常が起きたらすぐに病院へ行ってください」とアドバイスはしていたようです。


アンナさんのお産がはじまりましたが、微弱陣痛だったようです。ようやく強い陣痛、おそらく少しいきみたくなるような陣痛がくるまで30時間ほどかかっています。
呼ばれて家に到着した助産師は、水中分娩ができるように専用の温水プールを準備しました。
お湯に入ってリラックスすればお産が進み、数時間ぐらいのうちには生まれるとアンナさんは思ったようですが、お湯に入ったところ反対に陣痛が10分間隔に弱くなってしまいました。


そこで、助産師は「破水をさせれば陣痛が強くなるだろう」と人工破膜をしたようです。
ところがそのあと胎児心拍が徐脈になっているにもかかわらず、いろいろな姿勢(フリースタイル)でいきみ続けましたが10時間たっても生まれません。
新聞記事では時系列が明確ではないのですが朝8時に温水プールに入り、途中で破水させたあともいきみ続け、「夕方時計をちらっとみて5時だったという記憶がある」以外は、おそらく朦朧とした状態で疲れきった心身でいきみ続けたのでしょう。


そのあと何時なのかわからないのですが、助産師が内診をすると「(子宮の入り口が)全部開いていないから、促進剤と硬膜外麻酔が必要かもしれない」と判断しています。
そして搬送を決めると「12分で救急車が到着。病院に到着してから30分後には硬膜外麻酔で無痛分娩」が行われています。


そして温水プールに入ったりいきみ続けた丸一日後の朝6時過ぎに、赤ちゃんの心音が急激に悪化していったため鉗子(かんし)分娩で赤ちゃんを娩出させました。


生まれた赤ちゃんは自発呼吸もなく一度は「心停止」したようですが、小児科医やスタッフの懸命な蘇生術により生き返りました。
分娩台の側で行われている娘の蘇生の様子をアンナさんは、ずっと見ていました。
アンナさん自身も輸血が必要なくらいの出血があったようです。


さて冒頭の引用記事の強調部分ですが、母親の血圧低下で赤ちゃんが酸素不足になったわけではなく、あきらかに分娩遷延している状況でしかも徐脈が出ているのに子宮口全開前からいきませ続け、さらに人工破水させたことで感染の可能性も高くなったのに、病院へ搬送しなかった助産師の明らかな判断ミスだといえる内容でした。
けっして「懸命の介助」ではないものです。


<「バースプランというのは矛盾した言葉」>


アンナさんがインタビュー記事で伝えたかったことは、この部分だと思います。

(自宅分娩を考えている)人は覚えていて欲しいと思います。「バースプラン」という言葉は矛盾した言葉であることを。だって、それは計画できるものではないのですから。


自宅分娩が大丈夫であるなんて基準は誰もつくれません。
それこそが「終わってみないと正常かどうかわからない」ということを認めない思い込みなのですから。


元のインタビュー記事では、イギリスの助産学の大学教授が「ここ数年、病院出産に比べて自宅で助産師とともに産むことでよい経験をした女性が増えていることを助産師も知っています」と答えています。


失敗に学ばない人たちが、助産師を目指す人やこれから出産を考えている女性の道を誤らせていることに気づかないのは、どこの国も同じようです。




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