行間を読む 42 <東京都監察医務院の公開講座の資料より>

こちらの記事で紹介したNHKのニュースにあった「事故などで突然亡くなった人たちの死因を調べている東京監察医務院では、東京23区で平成24年までの10年間に扱った、5歳未満の子ども119人の事故死の傾向や経緯を今回、初めて分析した」という点について、何か資料がないか検索したところ、昨年11月に公開講座が開かれていたようです。


第23回東京都監察医務院公開講座
「ママさん監察医が語る子どもの窒息事故防止の実態」
(監察医務院 監察医 引地和歌子医師)


子どもの誤飲・窒息に関しては、自治体から妊婦に配布される母子健康手帳に予防・対処法について細かく記載がある他、官公庁や民間組織のインターネットサイト等でも注意喚起がされていますが、死亡につながる事故の実態については意外に知られていません。一児の母でもある演者が、自身の子育経験も交えながら、監察医の立場からその実態および予防法について紹介します。


「監察医務院、それは人が受ける最後の医療現場」のドラマを見て、「解剖なくして医学はない」と改めて感じたと記事を書いた後だったのに、公開講座自体を知らなくて残念でした。


その公開講座で使われたと思われる資料が公開されていました。


実際の講演を聴いていないのですが、この資料で挙げられているグラフから少し考えたことを書いてみようと思います。


<吐いて窒息死する子どもはそんなに多いのか?>


NHKのニュースでは、「東京都監察医務院が平成24年までの10年間に、突然亡くなった5歳未満の子どもの死因や経緯を初めて分析した結果、ミルクを飲んだ後に戻して気管を詰まらせるなどの窒息死が全体の6割を占め最も多くなっている」とし、「東京都監察医務院はミルクを飲ませた後には、必ずげっぷをさせるなど改めて注意することを呼びかけています」としています。


このニュースを聞いて、「そんなにミルクを吐き戻して窒息死する乳児が本当に多いのだろうか」という疑問と、「5歳未満の子ども」の死因分析のはずなのに、なぜ「乳児」の原因だけを伝えているのだろうという違和感でした。


ニュースでは「平成24年までの10年間に扱った、5歳未満の子ども119人の事故死」「死因として最も多かったのが窒息死で、全体のおよそ6割に当たる68人」「このうち、ミルクなどを飲んで寝た後に戻して気管を詰まらせたのが27人と最も多く27人」としています。


この数値が冒頭の東京都監察医務院公開講座の資料にありました。


スライド資料の5枚目に「平成15年〜24年:5歳未満事例」があり、対象事例は469例としていますから、年間50人前後の5歳未満の子どもがこうした監察医務院での解剖を受けているようです。


6枚目に「5歳未満事例:全体に占める窒息の割合」としてその10年間の469例のうち、窒息が死因と考えられる事例は68例とあり、さらに7枚目に「事故死に占める窒息の割合」として「68例/119例」とあります。これが、NHKのニュースで報道された数値の根拠のようです。


資料を引き続き見ていくと、9枚目に「窒息事例:年齢別」として「0歳 対象事例68例中0歳児が60例」とあり、窒息死する子どもの大半が乳児であるようです。


11枚目には「窒息事故例:原因」の中で、「吐乳・吐物吸引」が20人で全体の1/3、続いて寝具などによる窒息死になっています。


スライド資料の14枚目から18枚目までは、安全な寝具やその周囲についての注意事項がまとめられています。


そして20枚目のまとめでは以下のように書かれています。

乳幼児の窒息の予防には
1. しっかりゲップさせよう
2. ベビーベッド&寝具は必須
3. 添い寝は危険
4. 気道内に入るものより元を塞ぐものが危険


乳児と幼児ではその発達段階から事故防止のポイントは大きく変わってくるので、上記のポイントはどちらかというと0歳未満の乳児についてではないかと思います。


年間十数人の事故死をできるだけ少なくしていくための啓蒙活動は、本当に大事だと思います。


ところで、東京23区の年間出生数は、特別区協議会のサイトではここ十数年は6万8千人程度のようです。


6万8千人が生まれている中で、吐乳も含めた窒息死が年間数例というのは多いのか少ないのか。


そして年間数例の窒息による死亡のうち吐乳が原因の死亡が実際に何人なのかはわかりませんが、本当にそれは予防可能なものなのだろうか、とくに「げっぷをさせる」が答えになるのだろうか、そんな点が違和感として強く残ったのでした。


むしろ養育者の皆さんが赤ちゃんが窒息しないように気を張りつめているからこそ、これだけの事故死数に抑えられているように私には思えるのです。


「ゲップが足りない⇒窒息死」のイメージが社会に根強いので、むしろゲップがでないと30分も1時間も赤ちゃんを抱っこしないと不安になる」ように、私たちの「アドバイス」がお母さん達を追いつめてしまっていることのほうが問題のような気がしますが。





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