難民についてのあれこれ 2 <難民とは>

難民についてはいつかブログの中で書いてみたいとずっと思っていはいましたが、書いてみようと背中を押されたのがJBPressの「欧州移民危機の冷たい現実  地中海で相次ぐ難民船転覆、EUの対応に期待できない理由」(2015年4月22日)という英フィナンシャル・タイムズ紙の翻訳記事でした。


タイトルでは「移民」であるのに、サブタイトルには「難民船転覆」とあり、また本文記事中には「移住者」「難民」「移民」「不法移民」という訳語が混在しているところに、現在の「難民」という表現の難しさがある印象を受けました。


「難民」とはどのような人なのだろう。
私が30年前にかかわった「インドシナ『難民』」とは、何を指していたのだろう。
自分が関心を持ち、行動した結果はどうなったのだろう。
そんなことが気になり、頭の整理をしてみたくなりました。


でも難民について専門的に勉強したわけではないので、いつもの私の回想と勉強ノートぐらいと受け止めて、読み飛ばしてくだされば幸いです。


<変化する難民の定義>


国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)が設立された1951年には、半世紀後にこの「難民」がここまで複雑になるとは想像していなかったのかもしれません。


UNHCRのサイトの「難民とは?」では、まず1951年に出された条約の定義が書かれています。

1951年の「難民の地位に関する条約」では、「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人々と定義されている。


ところが、その後半世紀のうちに、「他国に逃れる」だけではない人々にも「難民」の概念が適用されるようになったり、人道上の支援も様変わりして来た様子が書かれています。

今日、難民とは、政治的な迫害のほか、武力紛争や人権侵害などを逃れるために国境を越えて他国に庇護を求めた人々を指すようになっている。また紛争などによって、住み慣れた家を追われたが、国内にとどまっているかあるいは国境を越えずに避難生活を送っている「国内難民」も近年増加している。このような人でも、難民と同様に外部からの援助なしには生活できない。適切な援助が実施できなかった場合、これらの人々は国境を越えて難民となり、結局、受け入れ国の政府や国際社会は、より重い負担を強いられることになっていまう。


たしかに、私が難民救援活動に参加した80年代には聞いたことがない「国内難民」(domestic refugees)という言葉を耳にしたのは、1990年代初頭の頃でした。


外務省が出している「外交」のvol.10(平成23年11月)に「現代の難民問題」というコラムがあり、UNHCRが設立された背景が書かれています。

難民問題は第一次世界大戦後、ロシア革命やトルコ帝国の崩壊によって大量の難民が発生して以降、国際問題として認知されるに至った。


第二次世界大戦後、1949年に中東のパレスチナ難民の救済を目的として国連パレスチナ難民救済事業機関が、翌50年には国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が設立され、51年「難民の地位に関する条約」、57年「難民の地位に関する議定書」が採択されるなど、難民問題を国際協力によって対処する枠組みが整えられ、現在に至っている。


少し横道にそれるのですが、最初の記事でUNHCRは「ヨーロッパの難民問題」に端を発したと記憶していたので、この外務省の文章では「パレスチナ難民救済」がUNHCRの設立の理由に読み取れるのですが、どうなのでしょうか?


たとえば、一般財団法人自治体国際化協会という団体の「第二次世界大戦による難民」では以下のように説明されています。

第二次世界大戦による政治的・宗教的迫害の影響で、ヨーロッパ全域から多くの"難民"が生れ出ました。特に顕著だったのは、ホロコーストから逃げる何百万人ものもユダヤ人でした。

「ヨーロッパの難民問題」はこのユダヤ人の救済だったと私も思っていたのですが、歴史を正確に表現するのは難しいものなのかもしれません。


さて「現代の難民問題」では、「難民問題が複雑化・長期化の傾向にある。当初のUNHCRは第二次世界大戦で発生した難民への対応のみを目的とした組織として発足したが、地域紛争が相次いで発生したことから設立当初は34名だったUNHCRのスタッフは、現在は世界408の事務所に7,845名が勤務するまでになっている」としています。


当初は暫定機関として5年毎に存続延長をしていたUNHCRは、2003年に恒久機関となったようです。(UNHCRのHP、「UNHCRの沿革」)


「難民」という言葉が示す対象も、その時代や地域によって定義を広げたり狭めたりしながら対応せざるを得ないほど複雑化しているのでしょう。
それが、冒頭で紹介した記事に「難民」「移民」「移住者」「不法移民」といった言葉が混在する理由なのかもしれません。




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