水のあれこれ 15 <水の中から出て水に戻っていく> 

1週間ぐらい前に放送されたNHK「めざせ!2020年のオリンピアン/パラリンピアン」アテネオリンピック800m自由形で金メダルを獲得した柴田亜衣氏でした。


ちょうど2000年代に入って競泳を観るようになった頃に、柴田亜衣氏も日本選手権で上位に入り始めていました。
6回キックをする6ビートの選手が主流のなかで2ビートキックの選手は珍しく、腕の力の推進力で進んでいる泳ぎは独特でした。



そして2004年のアテネオリンピックの800m自由形で、最後にフランスのマナドウ選手をかわして優勝したシーンは、今でも名場面のひとつです。
その後は腰痛で思うような成績を残せない大会が多かった印象があるのですが、こうしてWikipediaの記録を見直すと世界水泳には常に出場していますし、日本新記録をじわじわと更新されているので、あらためて凄い選手だったなあと思い出しています。


6ビートにしたほうがスピードが出るように思えるのですが、柴田亜衣氏にとって省エネと加速の最もバランスがよいのが2ビートだったのでしょうか。その後もずっと2ビートで泳がれていました。


水泳は6ビートで水しぶきを上げている泳ぎの方が一見速そうに見えるのですが、柴田亜衣氏の泳ぎは6ビートに比べると速そうではないのに、いつの間にか2位以下の選手を体ひとつ分ぐらい抜いて悠々と泳いでいました。
そういう静かな泳ぎと淡々としたインタビューが、私の好きな選手のお一人でした。


今も日本選手権やJapan openなどの主要大会で、見どころの解説やプレゼンターとして参加されていて、その姿をみるとなんだかうれしくなりますし、あのダイナミックな泳ぎをそばでもう一度見たいなと思います。


それにしても、Wikipediaを読むと「子どもの頃は体育が苦手で、通知表は5段階評価で、2や3が多かったという」と書かれていて、びっくり。
高校生ごろから毎日の泳ぐ距離はたしか10km以上だったと何かで読んだ記憶があるのですが、番組の中ではなんと20kmと伝えていましたから、やはり努力の人だったでしょうね。



さて、前置きが長くなりましたが、先日の番組ではその柴田亜衣氏がパラリンピックを目指している17歳の鎌田美希選手のスランプを一緒に考えていくという内容でした。
鎌田選手は「生まれた時から両足の膝下がないが、腕の力を駆使しダイナミックに泳ぐ」ことで、現在は400m自由形のアジア記録保持者とのことです。


ふだんは義足をつけているので同級生と並んでも同じくらいの身長になりますが、プールに入る時は膝から下がない分、身長差が大きくなります。
また、キックや水の抵抗をなくすための細かい動きが、足首がないためにできません。


水に入った途端、鎌田選手の滑らかな泳ぎは水中カメラがなければとても膝から下がないとは思えないほどです。


毎日8kmほど泳ぎ込んでいるその腕の力が推進力になっているようです。
そして、大腿から膝までを少し動かして2ビートに近いような動きもあります。
柴田亜衣氏が「私の泳ぎに似ている」と鎌田選手の泳ぎを見て言いましたが、本当にそんな感じでした。


今年の世界大会出場選考会で鎌田選手の400m自由形の記録は5分50秒台でした。
柴田亜衣氏の現役時代最後の日本記録が4分5秒台、世界では現在女子でも3分台に突入していますから、やはり障害があることは確かにスピードで競うことではかなわないものがあることでしょう。


それでも400m自由形を6分以内といったら、かなり速いペースです。
たとえば、いつも通っている公共のプールで泳いでいる「かなり速い人たち」よりも速いペースです。
私なんて簡単に置いていかれることでしょう。


番組では、他のパラリンピックの競泳選手の泳ぎを紹介していました。
両手がないのにキックだけの平泳ぎ、片手だけのクロール、視覚障害がある方の背泳ぎ、みな滑らかで抵抗のないすばらしい泳ぎでした。


柴田亜衣氏が今回の番組出演を受けた理由として、「パラリンピックの独創性のある泳ぎに水泳の奥深さを感じた」とのことでした。
「(障害といっても)どこからないか、片方がないのか、障害の種類は一人一人違って、それによってバランスの取り方が全然違う」
確かに。


番組ではパラリンピックの理念を紹介していました。
「失われたものを数えるな。残されたものを最大限にいかせ」


確かに「健常と障害」という視点では障害は「失われたもの」という引き算になるのかもしれませんが、私はちょっと違うことを考えていました。


「水(羊水)の中から出て、水の中に戻っていく」


「水は誰もを受け入れてくれる」に続いて、ふと思いつきました。
いえ、深い意味はないのですけれど。


あ、昨日から競泳Japan Open2015が行われています。
しばらく水に関する話が続くかもしれません。





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