帝王切開について考える 5 <帝王切開術後の看護、1980年代の教科書より>

私が助産学生時代に使った教科書については「『救急処置』学生時代の教科書より 出産は母子二人の救命救急」の記事でも、「『客観的記述で簡潔に良くまとめられた教科書』と今読んでも感動する」と書きました。


今回の帝王切開の記事を書くにあたり、もう一度帝王切開の部分を読み直して、その思いを新たにしました。


表現や内容の一部には古い記述があるのですが、帝王切開術直後のお母さんとはどのような心身の状態で、どのような看護が必要なのか、ここまで細かく書かれたものが先日書店で探した時にはみあたりませんでした。


今回はちょっと退屈かもしれませんが、その教科書をそのまま紹介します。


帝王切開術患者のケア」の「手術直後および当日」より。

1.術後患者の受け入れ準備を整え、術後の応急処置に対処する。


・手術室と引き継ぎをして麻酔と手術の種類、術中の一般状態、出血量、輸液の種類と量、ドレーン、尿管カテーテル挿入の有無、医師の指示事項、必要書類、参考資料とともに受け継ぐ。
・術後患者の受け入れ準備を整える。
麻酔に応じたベッド(体位)の準備、保温の準備、酸素吸入用具、吸引用具、開口用具、輸血、輸液用具、皮下注射用具、血圧計、膿盆、懐中電灯、タオル、ちり紙等。


この教科書が書かれた1980年代半ばにはまだ書かれていない血栓予防のための管理が、90年代に入って行われるようになりました。弾性ストッキング着用、持続的なフットマッサージ器の装着、そして血栓予防のための薬剤投与です。


また自動血圧計やパルスオキシメーター・心電計などを術後しばらくは装着することも行われるようになりました。


これらの変化も、「帝王切開術後にはこんな怖いことが起きるのか」という失敗から教訓が生かされてきたからです。


私にとっては帝王切開術後の看護もまさに「応急処置がいつでも必要になる」状況であり、「10年やってわからなかった怖さを20年やって知るのがお産」 と同じで慎重にしすぎることはないと感じるケアです。


それについて以下のように続いています。

2.一般状態を観察し、術後に起こりやすい合併症の予防に努める。

・体位ー麻酔の種類によりベッドを調整する。仰臥位にて舌根沈下予防のため顔を横に向ける。
・気道の確保ー喉頭部の喘鳴、チアノーゼ、分泌物の貯留に注意し、貯留を認めたら吸引を行い、気道の確保に努める。
・呼吸、脈拍、血圧の測定
血圧は麻酔により異なるので、医師の指示により測定する。安定するまでは頻回に測定する。
・医師の指示する処置の準備と介補をする。
輸血、輸液の介補、留置カテーテルの接続、皮下注射等
・必要に応じて保温する。
・出血への対処ー腹壁創または腹腔内の出血、子宮内からの出血があるので腹壁創および膣からの出血の有無の観察とともに出血によって起こる随伴症状(傷み部位と性質、意識、精神状態、全身状態、腹部の変化、局所の状態)の観察をする。

この合併症についてはまた別の記事として書こうと思います。


上記の1、2に関しては術後管理とケアとして、参考になる書籍も数多くあります。
ところが、次の「3.術後患者の示す不快症状の緩和を図る」に関しては、依然として「事象の中にひそむ法則性をすくいあげて一般化した記載」が発展しないばかりか、こういう記述さえも目にしなくなってしまいました。


疼痛ー疼痛の部位、持続時間、強さなどを観察し、必要以上にがまんさせないで医師の指示をうけ、鎮痛、鎮静、催眠剤を与薬し、苦痛の緩和をはかる。

また、術前、術中の疲労や不安により苦痛が増強されることもあるので、不安の除去をはかるとともに、睡眠、休息が得られるように援助する。


「必要以上にがまんさせない」あるいは「(適切に)睡眠、休息が得られる」ためには、術後のお母さんたちの傷みや睡眠、休息の平均とはなにか、その「事象が観察され、法則性がすくいあげられて一般化される」必要があります。


せっかく30年前の教科書には帝王切開術後の看護の本質に迫る内容が書かれていたのに、その後、術後の痛みや休息の必要性を明らかにする部分がほとんど観察も研究もされてこなかったのだと思います。


だから、お母さん自身の「痛みと身のおきどころのないつらさ」へ、さらに手術当日から睡眠を減らし授乳の体勢をとる心身の苦痛がどのようにお母さんへ影響するのかという視点もないまま、早期授乳のメリットとして勧められてしまうのではないでしょうか。


帝王切開術直後のお母さんたちは明け方になるとようやく熟睡できる傾向があるということを、夜勤の巡視の時に気づけられれば、母乳育児推進のためにようやく眠りについたお母さんを起こしてまで赤ちゃんに授乳をさせることを優先したりしなかったことでしょう。


看護(ケア)は思想に左右されないように注意し、客観的な観察から方法論を導く努力が必要だと思います。