帝王切開について考える 12 <「帝王切開時の母乳育児支援」より>

前回の記事で紹介した「母親が裸の新生児を抱くことが育児行動の原点であり、早期授乳につながる」と書かれた記事について、今回はもう少し考えてみようと思います。


ペリネイタルケア2013年増刊号「助産師だからこそ知っておきたい術前・術後の管理とケアの実践 帝王切開のすべて」(メデイカ出版)の「帝王切開時の母乳育児支援」では、その施設の考え方が以下のように書かれています。
(その施設を批判するつもりはないので、施設名は出さずに記事を書きます)


 当センターでは2011年には2.847例の分娩があり、帝王切開率は19%(551例)であった。ほとんどの帝王切開は分娩室内の手術室で施行され、大量出血や循環器合併症などハイリスクの15例のみが中央手術室で行われた。分娩室での帝王切開は産科医の自家麻酔により助産師、新生児科医が立ち会い、中央手術室での帝王切開は看護師、麻酔科医もかかわる。現在は、全スタッフが帝王切開を「分娩方法の一つ」と認識している。そのため、母子の状態が安定していれば早期皮膚接触を行うことは、分娩様式が帝王切開でも自然な経過の一つであると認識している

 当センターでは母乳育児を推進し、2000年にBFH認定を受けた。認定を得るにあたっては1996年ごろから母乳育児率の向上の手段として早期授乳を勧めてきた。当初は出産直後30分以内に授乳するための手段であったが、スタッフは母親が「裸の新生児を抱く」という感覚こそが育児行動の原点であり、それが母子の愛着形成と密接な関係にあると感じ、「まずは抱っこ」を合い言葉として認識し、行動化につなげてきた。

そして経膣分娩用に作成した早期皮膚接触の適応基準や手順などを応用して、分娩室での帝王切開でも2004年に早期皮膚接触を始めた。その後、中央手術室での導入時には、マニュアルや立ち会う助産師の手技を示すことで手術室管理者の理解を得た。母親の胸の上で泣きやみ、自ら乳房に向かって動き出す新生児を目の当たりにした麻酔科医や看護師は、その様子に感激し、現在も非常に協力的である


ますますシュールな光景だと感じてしまいます。


私が立ち会ってきた帝王切開術中のお母さんたちは、赤ちゃんを見たり少しなでたりすると安堵してそのまま目をとじている方が多い印象でした。
「赤ちゃんが無事に生まれて、それだけで十分」というように。


赤ちゃんもずっと啼きっぱなしではなく、呼吸が安定すると静かにあたりを見渡していることが多いことはこちらの記事に書きました。
日々新生児に接している産科関係者でさえ、「病院の暴力的なお産だから赤ちゃんがよく泣く」という思い込みを信じてしまうのですね。1990年代から2000年代にかけては病院での出産に比べて助産院で生まれた赤ちゃんは泣かないということが、まことしやかに語られて驚いたのでした。


「お母さんの胸の上においたから泣き止んだ」は事実かもしれませんが、それとこれがつながっているかどうか因果関係は「わからない」というところだと思います。


お母さんのおなかはぱっくりと切開されて内蔵も見えている状態で、「新生児は母親の胸に載せると泣かない」あるいは「自ら乳房に向かう新生児に対して『出生直後の新生児はこんなことができる』と感動している人たちに囲まれている母親と新生児。
わたしには「シュールな光景」としか言いようがないし、そこには手術の極度の緊張や苦痛に耐えている人の看護がすっぽりと抜けているように思うのです。


「本当に怖かった」「スタッフが手術中ずっと手を握っていてくれて心強かった」
帝王切開に臨んだお母さんたちの言葉に表現しきれない思いは、ひとりひとり違うことでしょう。


「赤ちゃんは今はいいから眠らせて欲しい」と感じる方も、そう自分の気持ちを伝えられるためには、「こうすれば母子関係がよくなる」「こうすれば母乳がよく出る」といった言葉、いかえれば検証もされていない思い込みをこちら側からださないことではないかと思います。



そしてこのペリネイタルケア増刊号は帝王切開についてけっこうよくまとまっていると思うのですが、帝王切開の看護の専門書とは認められないのは、こうした思い込み思想と距離をおけていないからなのだと思います。