赤ちゃんに優しいとは 5 <「自宅出産で生まれた新生児:Mさんの体験から」>

「新生児ベーシックケア」(横尾京子氏、医学書院、2011年)の「出生後24時間以降、新生児早期のケア」では、「高ビリルビン血症(黄疸)のスクリーニング」「排泄の適応とアセスメント」「母乳育児支援」「皮膚のケア」「新生児マススクリーニングと聴力スクリーニング」といった一般的な項目に続いて、「自宅出産で生まれた新生児:Mさんの体験から」があります。


助産関係の書籍でのこの唐突感はこれまでも何度も驚かされては来たのですが。


さて、少し長いので2回に分けて、全文紹介しようと思います。


まずは出産場面から。

 自宅出産は0.2%にすぎないが、ここでは、この数少ない自宅出産で生まれた新生児の経過を紹介する。ここで紹介する内容は、新生児看護に活かすためにあらかじめ、記録や写真撮影をしておいて欲しいと頼んだり、また出産後にいろいろ聴かせてもらったものである。
 母親Mさんは助産師、教員をしている。一人目の子どもは職場の産科病院の助産師の手で、2人めは助産学実習施設でもある病院で大学の同期の友人助産師の手で取り上げられた。夫はフリースタイルの出産をパートナーとして終始支え、皆と一緒に第1子、第2子の出産を迎えた。第2子の時は臍帯も切断した。そして3人目は、家族のプライベートな出来ごととしての出産を自ら体験するために、自宅出産することにした(2007年)。
 お産の場所は、ご先祖様からのご加護があるようにと仏間と決めていた。妊娠41週0日の深夜、陣痛が開始し、開業助産師2人が到着。しばらく経過を見守っていたが、時間がかかりそうといったん引きあげる。ところが、1時間もしないうちに急に強い吐気がし、破水、陣痛が強くなる。家族全員が仏間に集まる。
 四つん這いの姿勢で、夫が新生児の頭部を受け、Mさんの腹部側へ誘導する。Mさんが抱きしめ、仰臥位に。自然にsikin to sikin contactの体勢。この状況は何度も夫と模擬練習をしていたので、練習通りに進む。しかし、助産師はまだ到着しない。Mさんの指示で、夫と長男が臍帯を切断。そこに、助産師2人が到着。胎盤が無事娩出される。分娩所要時間は約4時間。お産が済むと、仏間から親子の寝室に移動した。

畳の上で産むとかフリースタイル分娩とか、あるいは家族が臍帯を切断するとか、「バースプラン」通りの出産のイメージとでもいうのでしょうか。


でも、私には赤字で強調した部分のほうが気になります。
そこからいくらでも、このお母さんと赤ちゃん2人の救命救急が必要な場面をいくつも想像してしまうので。


何よりも、自宅分娩の責任を請け負った助産師が到着していないことは、自宅分娩の大きなリスクとも言えるでしょう。


この本はもともと2004〜2005年に「助産雑誌」の連載記事をもとにしているようです。
この出産場面も2007年とあります。


まだ助産師の中でも「助産院は安全?」と問い直す雰囲気は全くない時期でした。
2005年に琴子ちゃんのお母さんが初めてブログとして声をあげました。


私が琴子ちゃんと琴子ちゃんのお母さんのことを知ったのが2007年でした。
それまで、助産師の方向性が間違っているのではないかと漠然と気になっていたことが、明確になりだしました。


当時は助産師の中に、自らの出産でこういう経験をしたいと強く思う人たちが出し始めていたこと、そしてネットで情報を発信しやすくなったことが、その成功体験(個人的な体験談)から「良いお産」のイメージを広げることを加速させたと言えるでしょう。


あるいはそういう雰囲気を学生に教える助産師教育の変化も。


さて、「家族中心の新生児のケア」の理念には、「情報の共有」があげられています。

情報の共有とは、偏りなく正確に、情報のすべてを、その個人に適した方法で提供し、理解できるよう支えることである。


この本が出版された2011年は、琴子ちゃんのお母さんが直接、助産師会との対話を試み始めてから数年もたっています。
この助産院や自宅分娩、すなわち医師のいないお産の場でのリスクについての情報を整理して伝えることも、大事な赤ちゃんを家族に迎えるための準備のひとつではないでしょうか。


まして、NICU助産院や自宅分娩からの搬送の状況をご存知の立場の方々なのですから。


新生児を1人の人間として尊重するということは、どういうことなのでしょうか。




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