赤ちゃんに優しいとは 9 <赤ちゃんのための情報を伝えるには>

周産期看護というのは、他の看護の分野に比べて「説明する」こと、いわゆる保健指導類の比重が大きいことが特徴かもしれません。


助産師学校ではそういうテキスト類を自分で作ることが多く、驚きました。
妊娠中の母親学級や両親学級のテキスト、入院中のお母さんに説明する沐浴のテキスト、退院後の生活や赤ちゃんの世話のためのテキストなどを、まず自分たちが調べて作ることから始まります。


1980年代後半でしたからまだまだ看護向けの出版物も少なく、主婦の友社などから出版されていた育児書が頼りでした。


今、考えると本末転倒な話ですね。
私たちは世の中にあふれるさまざまな情報や価値観を整理して、本質的なことを伝える立場にあったのですが、結局は「出版されている」「ニュースになった」などに信頼をおいていたのですから。


卒業後に勤務した総合病院でも、こうしたテキスト類の作成は新卒や2〜3年目ぐらいのスタッフの仕事でした。
テキストを作ることが勉強になる、そういう考え方もあるかもしれません。


でも結局、でき上がったテキストはなんだか現実の生活とは違う教科書的なものになり、それでいて素人が情報を寄せ集めて作った感は否めませんでした。


おそらく、こういう自前のテキストの作り方が日本の分娩施設では一般的なのだろうと思います。



そのあたりが、「母乳のためには和食を」とか「赤ちゃんは3日分のお弁当と水筒を持って生まれてくるので母乳だけで大丈夫」といった言葉がそのまま使われ続けてしまう理由のひとつかもしれません。


<本質的な情報を簡潔にまとめる>


10年ほど前に総合病院から産科診療所に移ったのですが、そこでは乳業会社が作成した母親学級のテキストを使っていました。
WHOコードを遵守するために乳業会社の行動を監視しようというほどの信念はなくても、乳業会社が作ったテキストをそのまま使うことに、最初は私もさすがに抵抗感がありました。


診療所には常勤の助産師がいなかったことも、自前のテキストがなかった理由のひとつのようでした。


でも内容はとても簡潔で読みやすいデザインであり、本質的な情報がまとめられていましたので、それまで助産師が手作りしていたテキストよりも使いやすいものでした。


もうひとつ、入院中のお母さんには公益財団法人 母子衛生研究会が出版しているテキストを渡していました。
産褥期の生活や新生児の世話、家族計画など、こちらも基本的な内容が読みやすいデザインでまとまっていました。


恥ずかしながら私は、診療所に勤務して初めて母子衛生研究会という組織があって、さまざまな情報を出版物にして出していることを知りました。
一般の書店の医学・看護コーナーでは目にしたことがなかったのです。


やはり、プロの手によるテキストの方が自前で作ったものに比べて読みやすいのは歴然としています。
今まで、手作りにこだわっていたのはなんだったのだろうと思いました。


そして「周産期看護」の中では、どうしてこの母子衛生研究会の出版物や情報が伝わっていないのだろうと、不思議に思っています。


<妊娠中に必要な医学的なテキスト>



1ヶ月ぐらい前、外来に見慣れない冊子がありました。
それが日本産婦人科学会監修の「HUMAN Baby+お医者さんがつくった妊娠・出産の本」でした。


パラパラと目を通した印象としてはわかりやすくていいなと思いました。
専門的な内容でも平易な言葉で書かれていますから、漠然としたニュアンスになる部分は仕方がないと思います。
それでも、妊娠・出産に向けて、ここ20年ほどの周産期医療の変化の中で議論されてきた内容を、一般の人に伝えるのには良い内容ではないかという印象を持ちました。


この本で妊娠・出産に関しての基本的な医学知識が伝わり、あの乳業会社の母親学級向けのテキストのような内容で妊娠中の生活がイメージでき、そして母子衛生研究会のテキストで産後の赤ちゃんとの生活がイメージできる。


ようやく、それぞれの施設の自前ではない、統一した情報の伝達手段が整いつつあるように私には感じました。


あ〜あ、でもこういう冊子ができて配布されるという情報は、現場の助産師や看護師にはどこからも伝わらない。
それが「周産期看護」の基盤の弱さとも言えるかもしれません。



そして日本産婦人科学会が、一般の人向けに情報冊子を作ったということはとても評価されることだと思ったのですが、いろいろな意見もあるようですね。
そのあたりは次に考えてみようと思います。





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